第14話
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葉鐘鉄雄=葉鐘アイ
レベル:4
所持AP:31
取得技能:【戦闘用義体♀】 【生命+1(戦闘用義体♀に付随)】 【アイテムボックス拡張+1(戦闘用義体♀に付随)】 【食料品召喚】 【罠感知】
特殊能力:戦闘系ステータス150%
八月一日楓
レベル:4
所持AP39
取得技能:【回復1】 【欠損補填】 【解毒】 【氷華1】 【食料品召喚】
【生活必需品召喚】 【ろ過】 【地図表示(狭間の牢獄)】
「う……ん……あれ……僕……は」
「おう、目が覚めたか?」
「アイっ!」
アイが目覚めた中学生に声をかけた直後、再び楓に肩を抱かれた。
(あたしの話を聞いてた? ちゃんと女の子らしく振る舞いなさいよ!)
(え? 普通に声をかけただけですけど、俺……なんかやらかしましたか?)
(言葉遣いよ、言葉遣い!)
言われてはたと気づいた。
たしかにこんな男言葉で話す女の子など、まずいないだろう。
だが、まずいないというだけで皆無ではない。
(先輩、男言葉で話す女の子というのもアリだと思うんですけど)
(カッコイイ系の女の子ならアリだけど、どう見てもカワイイ系のあんたじゃ男言葉が浮きすぎるのよ)
そう言われては返す言葉がない。
テイク2
「あの、大丈夫だわ? じゃなく……大丈夫なの?」
「どうやら大きなケガとかはないみたいね」
「あ、は、はい。危ないところを助けてありがとうございました、あ、あうっ!」
少年が立ち上がり、自分の股間に気付いて慌てて前かがみになる。
男の気持ちと生理現象がイヤというほど分かるアイは華麗にスルー。
そのアイに言い含められていた楓は、明後日の方を向き、周囲を警戒する(フリをする)ことでさりげなさを演出する。
「お前……じゃなくええと、キミ? 貴方? ボク? ……あああもう何て言えばいいんだ……じゃなく、いいのよ? と、とにかく疲れてるみたいだし、もう少し座ってろよ……じゃなく……すわってたらどう?」
「はい! お言葉に甘えさせてもらいます。実はちょっとまた立ってるのが辛くて……あはは」
勃ってるせいで立ってるのが辛い少年は、アイの助け舟に乗って、曖昧な笑みで再び座り込む。
その隙にアイは、楓に泣きついた。
(先輩、俺に女言葉は無理です!)
『なってしまった』女の子の体とちがい、女言葉は自発的に行う必要がある。
16年近く男として生きてきたアイにとって、『言葉の壁』は何より高く、そして恥ずかしいものであった。
(何て言うかこう、体全体が女言葉に拒絶感を示すんですよ!)
(女の体でそんなこと言っても説得力が無いわよ)
(いまのは言葉のアヤです。男の魂というかアイデンティティというか、とにかくそんなのが女言葉を使うことに抵抗するんですよ)
(ふむ……)
楓はしばし考え込み、やがて、
(普通の女言葉がキツいなら、ですます口調はどう? そういう女の子なら結構いるし)
(つまり相手が誰であろうと、先輩と話すような言葉遣いをすればいいわけですか?)
それならイケそうな気がする。
難易度がナイトメアモードからノーマルになった気分だ。
(ただし、一人称は『私』ね)
(え?)
(あんたは見た目や服装、戦闘能力まで、ただでさえ目立つ要素ばかりなんだから、それ以外の部分は極力、普通の女の子を装った方がいいのよ)
自身が可愛い女の子であるくせに巨乳が大好き。しかも丸太を武器に選ぶ楓が、どの乳……もとい、どの面を提げて普通と言うか。
だがまあ、社会に出て働けば、男でも私という一人称を使う場面がほとんどだと聞く。
ここはその予行演習と思って割り切るか。
というわけでテイク3
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。俺……私は金剛高校の一年生で、葉鐘て……アイと言います」
「同じく金剛高校二年、八月一日楓よ、よろしくね」
「比叡中学二年の早乙女晃です。改めてよろしくお願いします」
一人称と名前で少しつっかえてしまったが、これなら普通に話せる。
「それで……その……あの……」
むしろこちらより、晃の態度の方が不審すぎだ。
アイの顔を見て、目が合ったら慌てて顔を逸らしたり、指を組んでモジモジさせたり。
何か言おうとしてやっぱり止めてみたりと、まどろっこしことこのうえない。
――これって、やっぱし俺のことを女の子として意識してるんだよな。
晃からずっと向けられるギラギラした視線といい、このキョドり具合といい、コイツと同類だからそ良く分かる。
これは、可愛い女の子を前にした男(しかも童貞)の態度だ。
いや、それが分かったからと言って、何ひとつ解決する訳じゃないが。
ずっとぼっちだった身としては、他人から好意を向けられることは純粋に嬉しい。
嬉しいのだが、女の子として好かれても正直困る。
女の子になりきると決めたばかりだが、やはりここは正体を明かすことで諦めさせるべきだろうか。
いやいや。
『お前が好きになった相手は、実は男だったんだ、HAHAHA』
なんてオチがついたら、この純情そうな少年の心に大きなトラウマを残してしまうかもしれない。
ここはひとつ、普通の女の子として、彼にごめんなさいをすべきだろう。
……いや待て。別段俺は、コイツに告白された訳じゃない。
にも関わらず一方的に振ってしまうことは、おかしくないか?
考えれば考えるほど、色恋沙汰というのは訳が分からなくなってくる。
こういうときに頼りになりそうな楓も、やたら難しい顔をして何かを呟いているだけだ。
(んー、今のところ、恋というより年上の異性に憧れてるように見えるけど、どうしたものかしら)
「先輩?」
(さすがにアイも男が相手なら大丈夫だと思うし……いまは私情を挟むより情報の入手が優先よね。よし! 惚れた腫れたは一端置いといて、皆に普通の態度で接するのが正解よね)
『普通の態度で接するのが正解』という部分だけ、かろうじて聞き取ることができた。
さすがは生まれつきの女の子だけあって、的確な解を出してくれた、とアイは勘違いしたまま感心する。
「ねえ晃、呆けてるところ悪いんだけど、色々あんたに聞きたいことがあるから答えてちょうだい」
「え、ですが、その……できればアイさんと……その……お話を……させてほしいな……なんて……」
「あんた、アイとじゃロクに話ができないでしょ」
「う……いや……はい。分かりました、楓さん」
こうして楓と晃は、当たり障りのないところから会話を始めた。
この二人の組み合わせだと、ごく普通の先輩後輩という感じで、会話のキャッチボールが出来ている。
蚊帳の外に置かれた形となったアイは、その事実がどうにも面白くない。
「楓さんの制服で『もしかして』と思ってたんですけど、この世界に飛ばされたのって、僕たちだけじゃなかったんですね」
「その他にも榛名女学院と霧島義塾の2つの高校もこっち側に来てるみたいね。あたし達はまだ会ってないけど」
そうして晃を相手に、こっちの世界に飛ばされた経緯の情報交換を行う。
しかし、残念ながらアイたちと状況はさほど変わらず、新しい発見は無かった……と思われた矢先。
「あとは……そうですね。不思議なことに、ホームルーム中にこちら側に飛ばされたのに、先生がどこにもいませんでした」
「せ、先輩!」
「そういえば気に留める余裕なんて無かったけど、たしかにあたし達の方も先生……ううん、大人がいなかったわ!」
救急箱などを探しに校内中を走り回った際、教室だけでなく、保健室や購買にも大人がいなかったことを楓は説明する。
「ちなみに僕たちの方は、職員室にも誰もいませんでした」
「なら、どの学校も生徒だけが異界に招かれた、という事になりますよね?」
もし教職員がいたら、自分たちは学校から締め出されることはなかったのだろうか、とアイは考える。
……いや、止そう。
過ぎたことを考えてもどうしようもない。
アイと楓は金剛高校に見捨てられ、自分たちもまた彼らを見限った。
それがすべてだ。
「だとしたら、各学校がどういう行動を取るかは大きく二つに分けられますよね」
「ウチの高校みたいに統制が取れずガタガタになるか、人を纏め上げる能力を持った生徒がリーダーシップを発揮し、適切な手を打てるか、ね」
アイの言葉に楓が続いた。
「ちなみにあんた達の中学校はどうなの? できれば直接、そっちの学校に行ってみたいんだけど」
「あ、はい。それは構いません。ですが……」
「『ですが?』 何か問題があるんですか?」
アイがずいっと顔を近づけると、その分だけ顔を赤くした晃が遠ざかる。
こちらが普通の態度で接することに決めたといえ、向こうがそれに慣れてくれなければどうしようもない。
よし、ここはひとつ、晃には頑張って女の子への耐性をつけてもらおう。
「何やら顔が赤いようだけど、大丈夫ですか?」
「あ、あうぅ。だ、だだだ大丈夫ですぅ」
またもや腰を抜かしたように座り込み、手足でカサカサと後退する晃。
そんな純情中学生に対し、アイは四つん這いになり、つきたての餅のように柔らかそうな双丘をブラブラ揺らしながら近づいていった。