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男と女の1人2役で異界のダンジョンに挑んでみた  作者: 味パンダ
第1章 狭間の牢獄
11/49

第10話

        *


楓のタブレットから技能名が判明したのは以下の3つ。


<回復系>

範囲回復1 AP20


<探索系>

罠解除 AP30


<生活生産系>

木材加工 AP30


再度の協議の末、アイが【罠感知】(AP10)を、楓が【氷華1】(AP5)と【生活必需品召喚】(AP5)、さらに【地図表示(狭間の牢獄)】(AP5)と【解毒】(AP10)を取ることにした。


【氷華1】は戦闘魔法として役に立つし、【ろ過】と組み合わせれば作った氷を飲み水として使えるだろう。

【地図】と【解毒】、【罠感知】も探索には欠かせない。


アイ AP13→3

楓 AP36→11


「じゃあ、また技能を試してみるわね」


楓が【生活必需品召喚】アプリを起動させる。


【生活必需品召喚アプリケーション起動】


※この技能は、いつでもどこでも使用できます。

※この技能は魔力やMP量に関係なく、1日に1度しか使用できません。

※深夜0時をまたぐと、再使用が可能になります。

※パーティを組んだ状態で使用すると、人数分の生活必需品を召喚できます。


生活必需品を召喚しますか


はい/いいえ


「パッと見【食料品召喚】と同じに見えるけど、最後に1行追加されてますね」

「パーティを組めるなんて、ますますもってRPGチックね」


意外にもアイに負けず劣らず、ゲーム好きな楓が頷く。

どうでもいいことだが楓が一番好きなのはギャルゲーで、バストサイズ順にヒロインを攻略していくのが彼女の正義ジャスティスらしい。


「結局のところ、先輩って巨乳が好きなんですか? 嫌いなんですか?」

「好きに決まってるじゃない!」


――後になって振り返ってみれば、その質問は完全に失敗だった。

何故なら、楓が異常なまでの反応を示したからだ。


「あたしに双子の姉がいることは前にも話したわよね? あたしはアイツが嫌いなんだけど、その理由は分かる?」

「いや……あの……」


「分かるわよね? アイツはあたしと同じ顔のくせして胸が大きいのよ! ううん、あたしだって子供じゃないんだし、その程度なら我慢できるわ」

「先輩、ちょっと落ち着いてください!」


「だけどあの女はあたしに絶対おっぱいを揉ませないのよ。それって酷いと思わない? せっかく大きく綺麗なモノを2つつけてるんだから、少しぐらい揉ませてもバチはあたらないわよね?」

「いや、だからその……」


「いい? 揉ませてくれる巨乳だけがいい巨乳なのよ! ああ、思い出したらハラが立ってきた。あんたの胸を揉ませなさいよッ!」

「嫌ですよっ! 大体にして、何でそんな胸にこだわるんですか?」

「あたしの胸を見れば分かるでしょ。人は自分が持ってない物に憧れるのよ。あんただってそうじゃない?」


ふむ?


「あんただって今は『こんな』だけど、元々男でしょ?」

「ドサクサまぎれに人のおっぱいを揉まないでください!」


くっ、やっぱり他人に揉まれると変な気持ちになってくる。


「男として、自分より大きいのをブラさげたヤツのナニを揉みたくなるでしょ? しごきたくなるでしょ!」

「なりませんよ……だから……ふぁっ……やめ……」


それだけは断じてない。

というか、そんな男は絶対にいない。


それこそカシオミニを賭けてもいいぐらい自信を持って断言できる。


だから胸を揉むのを止めてほしい。

このまま行きつくところまで行ってしまえば、戻れなくなりそうで怖い。


「ああもう、ほんとにしっとりとして柔らかくて手に吸いつくくせに張りがあるわね。いっそのこと、直接揉んでやろうかしら」

「んうっ……あっ……先輩……本気で……まず……くぅんっ……」


          *


楓がアイの胸に夢中になってから数分後。

ジリリリリリリ、という警告音と共に、天井が少しずつ低くなってきた。


「思った以上に協議が長引いたし、残念だけど時間切れみたいね」

「……先輩」


床にうつぶせとなったアイは荒い呼吸を繰り返し、光彩が消えた瞳で楓を睨みつける。

そのレイプ目の圧力に負けた楓は、素直にごめんなさいと頭を下げた。


「いやまあ。俺も脱線するような質問をしたのが悪かったですし、パーティの組み方と効果だけ確認して、外にでますか」


……アイはこの一件で、本当に追い詰められるまでは母乳のことを楓に黙っていよう、と固く心に誓った。


          *


パーティを組むのは思ったより簡単だった。


リーダーとなる方がパーティアプリを起動して、赤外線で通信する。


【八月一日楓からパーティの誘いがありました。パーティに入りますか? はい/いいえ】


誘いを受けた方がリーダー名を確認の後、了承。


【葉鐘鉄雄がパーティの誘いを受けました。誘った相手に間違いありませんか? はい/いいえ】


さらにリーダーが誘った相手に間違いないかを確認して、パーティ結成となる。


「パーティは最大5人まで可能で、そのメリットは経験値を共有できること、このタブレット同士で電話のように通話できること……」

「先輩、画面を見ながら歩くのは危ないですよ」

「大丈夫大丈夫。えーと、【生活必需品召喚】のようにパーティを対象とした技能の恩恵を受けれること、それから……きゃっ!」


小石に足を取られてバランスを崩す楓を、アイがとっさに支える。


「ほら、言わんこっちゃない」

「ご、ごめん。それにありがと」


こういうとき、素直に謝罪やお礼を言えるのが彼女の美徳だと思う。


「【地図表示】だけど、歩いたところしかタブレット画面のマップにのらないのは不便ね。オートマッピングって名前にすればいいのに」

「こっちの【罠感知】も一定時間効果があるみたいなんだけど、イマイチ実感が無いんですよね。序盤だと罠そのものが無いんですかね?」


アイと楓は、ダンジョンの奥(あるいは地下)への道を探しながら歩いていた。


もちろん、金剛高校のバリケード前にシュールストレミングを置くというイヤがらせも忘れない。


ちなみに、袋ラーメンはタブレットに【収納】している。


【アイテム収納】というアイコンを選んだところ、アイは6個、楓は5個のアイテムをタブレットに収納できることが判明した。

もっともアイの収納枠のうち1つは、『鉄雄の体』で常に埋まっている状態であるが。


「行けども行けども周囲の風景は変わり映えしないわね。もう5キロ近く歩いた気がするんだけど」


延々と続く、発光する土壁。

廊下ほどの幅の道が何十メートルも続き、たまに分岐点。


そして。


――グラアアアアアアッ!


「くっ、このっ!」


時折遭遇するコボルトだ。


1キロ歩いても遭遇しないこともあれば、数百メートルのうちに連戦する場合もある。


また、見た目はどれも同じに見えるコボルトだが、個体差があるようだ。

攻撃方法こそ爪と牙と統一されているが、行動パターンや強さは千差万別。


最初に遭遇したコボルトのように、アイが睨んだだけで怯える個体もいれば、勇猛果敢に特攻してくる個体もいる。

たやすく仕留めれる個体もいれば、今回のようにかなり手こずる相手もいる。


「くそっ! 間違いなく俺の方が強いはずなのに……ぐっ……何で攻撃が……てやっ! ……当たらないんだ……」

「あんたがその義体を使いこなせてないからよ! 格ゲー初心者が最強キャラを使っても、連戦連勝できないようなものなの!」


なるほど、実に分かり易い表現だ。

楓にとってみれば、同じ女の子の肉体だからこそ、こちらの体さばきや重心移動の不自然さに気付くのだろう。


だが、分かったからといってどうしようもない。

むしろ敗北イコール死という恐怖が焦りを生み、その焦りがアイの動きを単調にし、泥沼にハマっていく――本来なら。


「喰らえッ!」


楓の投げた鉄パイプがコボルトの後頭部に直撃。

アイはコボルトが怯んだ隙に懐へと入り込むと、子供サイズの獣人の首に細腕を回し、一気にヘシ折る。


そう。自分1人では手こずるとしても、相方が注意を引きつけてくれれば、その隙を狙って仕留めることができるだけのスペックはある。


――ギャアアアアアアッ!


コボルトの断末魔を聞いても、心に去来するものはない。

『可哀想に』とか『気の毒に』とか思う気持ちは心の底に残っているのかもしれないが、『殺らなければ殺られるから仕方ない』と割り切ることができる。


【レベルアップ 3→4 ボーナスAP1】


「これでレベルは4。強さが結構実感できるようになってきましたね」


アイは戦闘技術が未熟とはいえ、純粋な馬力や速度はすでにコボルトを超越している。

楓の方も自覚はないが、並の成人男子以上の身体能力になっている。


「……え? あ、ゴメン。何?」


しかしアイにしてみれば、戦闘よりも心配なのが楓のメンタリティだ。

誰よりも早くコボルトを殺害した少女とは思えないほど、戦闘……それもいざトドメを刺す段になると動揺の色を見せる。


人間というのは『殺す』までは強い抵抗や忌避があっても、1度殺せば2度目、3度目と続けざまに殺せるようにできている。

少なくとも自分はそうだったから、楓も同じだと思っていた。


だが、楓はあきらかに命を奪うという行為に逡巡している。

今まではアイがトドメを刺していたので問題は無かったが、今後のことを考えるなら、一度じっくりと話をする必要があるだろう。


「先輩」

「あんたの言いたい事は分かってるわ。でも大丈夫。あたしもちゃんと――『殺せる』から」



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