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裏切りの独白

作者: ライム
掲載日:2014/08/11

 おれは、彼を裏切った。おれが彼について知っていたのは、彼が同性愛者であること、クラスメートの男子に想いを寄せていたこと、おれが彼のファストキスの相手であること、そして、彼がとても寂しがりアだったと言うことだ。


 おれが彼と知り合ったのは、高校に入学して3日と経たないうちだった。同じクラスだった。とは言っても、当初は互いの間にある感情はクラスメートい抱く以上のものでなく、そこに、友情と呼べるようなものは無かった。しいて言うなら、ほかとは少し変わった生徒だな、と言うだけだ。


 そんな状況が、ほんの少し変わったのが、2年生になってからだった。おれ達の所属するクラスは、特別進学コースといって、大きなクラス替えもなく、2年生に成ってから、数名増員しただけだった。


 そんな中で、彼に変化があった。厳密に言えば、彼の変化は1年生のころの10月からあったらしいが、おれと、彼との関係が大きく変わったのは、2年生の6月になってからだった。


 彼が、去年の10月に仲良くしていた生徒と疎遠になり、気がつけば、おれのもとへとよく話に来るようになった。いや、最初は、メールでのやりとりからだった。


 1年生のときから彼とも細々と話していたとはいえ、そのメールは唐突だったと思う。そもそも、おれはクラス内でそんなに目立つ方ではなかった。細々と、クラスのはじで、本を読んでいて、国語の時間や課題に限り、頼りにされる。そんな、どこの教室にも1人はいる程度の人間だった。


 対して彼は、個性の塊であったし、クラスの男子を2つにわけたうちの、グループのオピニオン・リーダーだったし、おれもどちらかというと、そこに属していた。そして、おれに比べれば、ずっと社交的で、彼が、女子生徒と話しが弾んだり、別のグループのオピニオン・リーダーとも、楽しそうに話していた。


 そんな、彼とメールでのやり取りが始まったのは、2年生の6月ごろからだったと思う。彼が、何を思って、彼がおれを選んだのか、ついぞ、おれはその訳を聞くことはなかった。


 そして、彼から最初の告白を聞いたのはそれから1月ほどしてからだった。


 曰く、彼は自身が同性愛者で、別のグループのオピニオン・リーダーに恋したということだ。初恋だという。この時、彼がどういった意図で、それを告白したのか、おれには定かじゃない。ただ、はじめて聞いたとき冗談だろうとおもったことを今でも鮮明に覚えている。それと、同時に彼ならありえるのではないかと考えたことも。


 彼の恋したという男、別段かっこいいというわけでもなければ、身長があるわけではなかった。それどころか、バスケットボール部であるにもかかわらず、160あるのかもあやしかった。だが、そんな爽やかなスポーツ少年が、彼の心を射止めたのだろう。気づけば、彼のメールの内容は、いつしか彼の初恋の君えの惚気とばかりに成っていた。


 そのころになると、おれと彼とは、当たり前のように一緒に食事する中に成っていた。それは、更にもう一人、2年になってから、同じクラスになった、彼のことを知らないクラスメートも含めてだった。


 2年生の間はその3人で一緒にいることが多くなった。それだからだろうか、彼はそのクラスメートにも心を許し、自分自身の秘密を話したんだ。ただ、おれのときのように唐突でなく、緩慢に緩慢に、クラスメートが自らそうと察するように。


 おれ達2人のマジョリティがそんな彼の秘密を話されても、おれ達の友情は代わりがない。少なくとも、おれはそう思っていた。たぶん、ほかの二人も。


 おれと彼が最初のキスを交わしたのは、峻厳な寒さの兆しの見えてきた霜月でのことだった。暇をもてあました彼にせっつかれ、2人でしばらく遊んだあと、駅のトイレの中でだ。彼の申し出をおれが引き受けた形でだった。興味本位でないとは言い切れなかったし、どうやらかれにしても、愛する男以外に唇を重ねることは、決して不浄な行いではなく、とことんフラットな行いだったのだろう。


 それが、彼の同姓との始めてのキスだと後々に知った。


 2人のマジョリティと1人のマイノリティの構図は、その後しばらくはかわらなかったが、大きく変わったのが、本格的な寒さの襲うようになった12月からだった。マジョリティが3人増えたのだ。それが、いけなかったんだろうか、それとも、そもそも、彼がおれに話したことが間違いだったんだろうか。


 時折、彼は酷く寂しそうに、あるいは、怒ったように、おれ達マジョリティを睨むようになった。


 そう、今ならわかる。かれは、寂しかったんだ。

 

 そんな、おれ達の間の見えない溝が決定的になったのは、3年生の夏休み前だった。彼が1年生のとき依頼疎遠だった何も知らないクラスメートと再びすごすようになったのだ、次第に4人で昼食の席を囲むことなくなり、気づけば、今度はおれ達が、彼とは疎遠になっていた。


 だからだろうか。


 夏休みになってから、おれ達は彼に何も話すことなく、海へ旅行へ行った。本来彼とも行くはずで、誰よりも彼の楽しみにしていた、マジョリティ3人の海への旅行だった。


 彼への罪悪感がないわけではhなかった。しかし、その罪悪感までもが、楽しみの種だったんだろう。


 彼に知られないように綿密に計画を立てたはずだった。が、ばれた。どうやら、彼と特別に仲の良かった女子生徒が彼に密告したのだった。おれ達が、海で遊んでいた、その日に。


 そのときの彼の送ったメールが忘れられない。彼は懺悔と悔恨と、そして憎悪をたった一言に込めたようだった。「許し難い」と。


 そのメールが送られてきたとき、外時にすらの、罪悪感や恐怖は感じていなかった。ただ、おれを含めた3人のマジョリティと、ばかが付く程笑った気がする。それから「きもい」や「しね」といった言葉で、画面の向こうの同性愛者を罵った。その画面の向こうで、一体、彼がどんな顔をしているかなど、考えもせずに。

  

 それから、夏休みの間、彼からんの音信はなかった。それでもかまわないで、おれ達はマジョリティだけで遊んだ。かつて、彼が中心で、彼がいなければ集まらなかった人間たちの集まりは、逆に、彼と言う異物マイノリティを配して、かつてよりもしっくり来るような気がした。


 そんな彼と再び、直接言葉を交わしたのは8月の末日、夏休みも残り1週間に迫った、出校日の日だった。






 学校の最寄の駅、うだるような暑さの中、改札を抜けると彼の姿があった。その姿は休暇前と変わらず、どこかしら朗らかなものだった。夏中に散髪したのか、涼しげな頭になっている。


 一瞬、目が合ったような気がした。それはほんの刹那的な時間であったが、なぜか、おれの胸の中に、突如として罪悪感が降り注いできた。無意識にあたりを見渡す。誰もいない。


 気が付くと、彼はまるで当たり前の様に駅の階段をくだり始めていた。半年前にわ共に下った階段を。


 おれは一瞬の逡巡のあとその背中を追った。彼がすでに横断歩道を渡っているものだと思ったからだ。しかし、彼はそこにいた。横断歩道の信号は赤だった。


 いまさら、駅になど戻れなかった。彼の後方、3メートルほどに、おれは立った。信号が歩行許可わ出しても、しばらくは棒になっているつもりだった。そう、つもり、だった。


 おれは時間差で駅から大量にあふれ帰ってきた人波に押され、気が付くと彼の隣に立っていた。そうと知ったときには遅かった。


 「ひさしぶり」


 一瞬、幻聴かと思った。それだけ幽かな声だった。

 

 おそらく、そうつぶやいた彼をみつめるが、彼の生命を湛えた瞳は、まっすぐ、ここからは見えない学校のほうへと差し向けられていた。


 だから、また今度も返事が遅れた。


 「ひさしぶり」


 「……あ、あぁ」


 情けなくはあったが、今度は返事はできた。


 「楽しかった?」


 矢継ぎ早だった。相変わらず彼の視点は固定され、おれの方を見なかった。いつの間にか信号が変わっていて、彼は歩き出していた。おれの返事を待たずに。

 

 だから、おれはあえて聞いた。


 「なにが?」


 「夏休み」


 間髪いれずだった。まるでおれの返答をあらかじめ知っているかのようだった。事実、そうだったのだろう。彼は、4人の中で誰よりも人の心に敏感だった。


 だから、おれは答えに窮した。考えあぐねた。だから、口をついて出た言葉は愚にも付かない答えだった。


 「べつに。そこそこ」


 「そ」


 また、一切の思慮の間をおかず答えられた言葉は、やけに冷たく、やけに遠くに感じた。


 だから、焦った。


 「おい!」


 「ん? なに」


 彼は相変わらず前を向き続け、彼の疑問には一切の感情もなかった。わかって言っているのだ。そうだとわかった瞬間、激しい怒りがこみ上げた。


 「怒ってンだろ」


 怒っているのは、おれのほうだった。


 おれがそう聞いた瞬間、彼は足を止めた、そしてゆっくり、おれの方を振り向いた。彼のさっきまでの生命にあふれた目ではない。ぽっかりと開いた虚しい眼窩がおれを覗き込んだ。さっきまでの怒りが急速に萎えていくことがわかった。


 だから、また。彼のことばの意味を飲みこむのに暫時のときを要した。


 「なにに」


 「え?」


 「わたしが、なにについて怒ってるって?」


 彼が自分のことを わたし というときは、不機嫌な時か芝居がけた挙動をしたときだ。


 今は、どちらなのだろう。


 おれは、かれの質問に答えることを、完全に放棄していた。だから、彼の一瞬見せた失望の表情にきが付かなかった。それに気が付いたのは、彼が再び言葉を発してからだった。


 「そ。キミが何にも言わない、て事は、つまり何にもなかったんでしょう?」


 彼は、それだけ言うと、踵を返して歩き始めていた。


 今度も、その背を追うことはできないで、棒のように突っ立ていた。


 彼は寂しかったのだと、いまさらになって気が付いた。おれが歩くことを再開したのは、結局、どこか遠くで始業のベルが聞こえてからだった。

 



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― 新着の感想 ―
[一言] マジョリティという言葉が印象的でした。 同性愛との彼とのラブシーンが見たかったです。 みずみずしい文体で読んでいて心地よかったです。
2015/09/23 19:51 退会済み
管理
[良い点] 高校時代という感情と理性の成長期に巻き起こる人間模様。特別なようでいて、どこか普遍的、身につまされる葛藤の感覚。同性愛者の彼の痛みも、語り手の俺の痛みも、自分のものではないのに読み手である…
[良い点]  もう一つの恋愛から発展した,交友関係の連なりが素晴らしく臨場感がありました。  自分が理解できないもの⋯⋯と言うのは,罵ってしまいがちなんですよね。しかし,それをしてしまうと後々どうなる…
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