第二章 ユニオンスクエア 一幕 迷走 Rason&Instict
物静かな酒場、マスターの微かに動く手馴れた動作と14インチTVから流れる声がいやおうにも鼓膜を刺激する。ユニオンスクエアのニュースキャスターは昨夜、ナインポインツの一角が事実上崩れ去った事を手短に伝えたあと本題へ入った。ユニオンスクエア三番街のお嬢様が誘拐された・・と言うが写真にはミシェルの顔が写っている。「まさかな」俺は呟きウォッカの入るグラスを口元に運んだ。ビンゴ・・犯人とされる顔写真、グリルの素顔・・ではなく良く鏡で見る面。グラスを拭くマスターの手が一瞬止まり、流れる。幸い店内には昼真っから飲んだくれてる用心棒と誘拐された少女。ミシェルは嫌悪感たっぷりな表情でニュースキャスターを見ていたが、目線を覗く様に誘拐犯に向けた。バン・・とグラスを置き尋ねた。
「一昨日は騒がせてすまなかったな」
マスターは思い出す様に眉をひそめた。
「あの時の・・いえいえ、ボトルも売れたことですし・・しかし、まさかこんなことになるなんて・・」
「こんなこと?誘拐犯が目の前にいることか?」
首を振り「誘拐された子がこんなになつきますか。あの時の彼がブラックマンバのリーダーだったんですよね」
俺はミシェルの耳元に顔を近づけ車で待つように言いマスターへの本題へ入った。
「スネークの死は急すぎた・・俺も驚いてる。あの用心深い蛇が簡単に捕まっちまうなんてな」
「長年、グラスを磨いていると表情が見えてくるんですよ。磨けば光る物も所詮はガラス細工。大事にしていてもある日、簡単に壊れてしまう」
蛇の真似事=カマがけ「聞いた話じゃ誰かが情報を洩らしたらしい」
「誰か?まさか、私はここで酒を売ってるだけですよ」
蛇の真似事=カマがけ&威圧「俺がわざわざ誘拐されたってガキを連れてユニオンスクエアまでドライブしてると思ってんのか」
「ナインポインツの警官はあてになりませんから」
銃を抜いてカウンターに置く「テメ〜が売ったのは酒だけじゃない、魂も売ったんだろ・・グリルにな、調べさせてもらったぜ」もちろんプラフ、感じる確信「動くな」銃を素早く握り180度ターンさせ用心棒にHIT「動くなって・・お前に言ったんだけどな、聞こえなかったか」早業、ウィザードの真似事=ガンさばき。マスターはカウンターに忍ばせていたショットガンに手を置いたまま口に銃を咥えている。「答えろ・・質問から拷問に変わる前にな・・マスターって生き物はショットガンが好きなのか?」マスター=黙秘。炸裂音・・頬を貫く弾・・無表情に口を開く。
「ここは彼の監視下にあります。これ以上の質問は私にとって死を意味する」
「吐いても吐かなくてもどの道死ぬんだ、俺ならグリルより楽に殺してやるぜ」
「あなたも逃げた方がいい・・」カウンターごしに唸るショットガン・・マスターの胴が真っ二つに・・銃にぶら下がる上半身=喉を詰まらせた声とは逆に無表情に「この通り・・私は痛みを感じない。フィールタイムの副作用です。心も死んでしまったようで何も感じない」虚無の共有=視線のクロッシング=沈黙「いいでしょう。ブルーイナフの13番目、グリルを追うならまずは直接命令を受けるタンを見つけなければなりません。グリルの手掛りは彼だけです。そして、タンも滅多に姿を現さない」
「ネオブラットトーナメントまでは・・か」
「あの日、タンはブラックマンバのリーダーをさらいました」
銃にぶら下がるマスターを床に放り見下ろし構える「それがグリルの書いたゲームのシナリオか?」
首を振るマスター「私はただ何も感じない人生を終わらせようとしているだけです。音に聞いたサーティーンなら話してもいい、私の理性がそう言ったんです、数式の答えを出す様にね」
「自殺志願者かよ、つまらねー・・死にたかったら勝手に死にな」ショットガンを放り投げる。受け取る上半身=無表情に息を漏らす。
「割りに合いませんが、私はあなたにレイズした状態でドロップアウトします。最後まで中途半端な・・・」
「何言ってんだ、俺に賭けるって、俺を知りもしないでよく言うぜ。てめ〜はギャンブルには向いてない様だ」
「私はブルーイナフの住人でした。ナインポインツに変わる争いを間逃れる為にユニオンスクエアに移ったんです。しかし、所詮は学もなく本能の街出身の私は理性の町では生きて行けなかった。そこを私はに悪魔に救われた」
「だから、スネークのことは許してくれって、それは虫のいい話だな。俺はスネークの死に関わる奴らを許さない。あいつは俺をこの世界に引き戻してくれた仲間だ、グリルを棺桶に送ってやらないと気がすまね〜」
「レイズ。私の感情が死んでなかったらポーカーフェイスではいられませんね・・リベンジャーですか、ブルーイナフの悪魔と呼ばれたあなたらしい、本能のおもむくままに・・どうか・・息子を殺してやってください」おもむろにショットガンの銃口を首筋にあて、作られた笑顔で引き金を引いた。俺は銃声よりも最後の言葉に驚いた。グリルの親・・死を望まれた子。拳銃をだらりとさげ車に向かった。
一昨日の晩、三人で話していた駐車場。ミシェルが走り寄ってくる。銃声に驚いてきたのだろと、肩竦めトリガーを指に掛ける、くるっと銃は反転=敵意なし・・・無防備に開いたボディーに助走の付いたストレートが決まる「え、はぐぅ・・」膝が地に着き蹲る・・溜め込んだ一撃&リリック。
「また人を撃ったの!あやしい人にはバンバンバンバン、痛いとか可哀想とか思はないの?」
「なんだ・・いきなり喋りだしやがって・・」顔を膨らます少女を見上げ&クルっと銃を向ける「ガキとレディーに銃を向けるのは主義じゃないが、じゃじゃ馬ならしはシェイクスピア流でいくぜ」
ハイハイといった感じで虫を払う様に流す「早く家に返してね、誘拐犯のおじさん」
「おじ・・だんまり決め込んで指しゃぶってる方がよっぽど可愛げがあったな」
ミシェルは大袈裟な瞬き一つで返事をし助手席へ向かった。
「あのガキ図に乗り出したな、ここに捨ててっても荷物が減るだけなんだぜ・・」
窓から首をだしニコッと「・・何か言った・・」屈託のない笑顔。・・・セブンの言った通りだ、ロクな女にならね〜・・「また、悪口いったでしょ」
「はいはい分かりましたよお姫様・・」
世間知らずと言うか住む世界が違うのか・・だけど、この感じ、俺がリベンジャーだってことを一瞬でも忘れさせ悪い気はしなかった・・あの日の彼女の様に・・・
#
聳え立つ白い壁が果てしく続く理性の街の外壁=シェルター。審判の門と呼ばれる出入り口。ユニオンスクエアに入ったのは少し暗くなる頃だった。
通信=軍本部〜軍研究所・所長室[誘拐された少女と犯人、元ブルーイナフの13番目を監視カメラが捕らえた。人質及び不穏分子の排除にあたれ。これは警戒レベル4だ。お前らの価値を実績で表せ]
[ラジャー]放送[第127特別小隊に告ぐ、直ちに所長室まで来い。繰り返す・・・]
宿舎ラウンジ・・スティービー・ロックマン「俺らキメラ部隊が呼ばれるってことは」
宿舎ラウンジ・・ブラットジョー・リプレント「警戒レベル4、面白くなってきたな・・」
3階所長室前・廊下。モーリス・ブレイキー、外壁をよじ歩き窓から「やっぱ俺が一番だよな」
一番乗りエレガノ・リルム「遅いんじゃなくて蜘蛛男さん」
モーリスの失笑「予知能力には勝てないか」・・雑談
三番手は群れを嫌う狼ミルド・マクドナルド・・沈黙
エレガノの一言「ミルド、いつも思うんだけど、もっと協調性をだそうよ」・・沈黙
モーリスのフォロー「無口なだけだって、頼りになる男だぜ」モーリス&エレガノ=雑談
「やぁ諸君、全員あつまってくれたね」通称、ハイエナのグラン。
エレガノ「隊長。まだ、あの二人が来ていませんが・・」ミルドは奥の階段を指差す。振り向き「・・あっ!あなた達・・いるの?」目の前で人型に歪む空気「きゃ!」
姿を現す=爆笑
スティービー「相変わらずからかいがいのあるリアクションだな。予知眼に俺らの姿は映らないか」
ブラッドジョー「俺は止めたんだぜ。だけど、こいつが聴かないんだ」
怒り心頭のエレガノ「あなた達に見えるのは戦場での死よ」
スティービー&ブラッドジョー「GOOD」
「イタヅラに能力を使うな・・俺らはDNA移植に適応できなかった兵士達の骸の上を歩んでることを忘れるな」グラン
スティービー&ブラッドジョー&エレガノ「アイムソーリー・サー」=敬礼
ノック・・一変、無表情な軍人&戦闘サンプルのサーフィス。許可と共に所長室に入る六人、意思を持たない犬の目。深々と座るルドルフ・ルッチー大佐=所長。
グラン「第127特別小隊6名揃いました」
「ご苦労・・早速だが本題に入る、イーストゲートから指名手配を受けた男が侵入したのを監視カメラが捕えた。侵入から凡そ23分。現在、軍本部司令室で監視中、君らは直接本部の指示に従え。正面玄関に輸送車を用意してある・・お前らの価値を実績で示せ」
グラン「ラジャー」=キメラ部隊の敬礼。機敏な態度で所長室を出る=ダッシュ、窓から飛び着地する六人。
脳に直接送り込まれる情報=通信機。通信=本部通信兵
[今回、くそったれキメラの指示をするミラ・スタインだ]罵り口調の名物女。
グラン[獲物は?]輸送車に走りながら罵りにも眉一つ動かさない
ミラ[場所は輸送隊員に指示してある。詳しい位置は現場に着き次第貴様らにも指示する]
「オーケー、女王様何なりとご命令を」否通信・・スティービー&ブラッドジョー=談笑
ミラ[ターゲットは一名、元ブルーイナフの13番目だ、写真の情報を送る。一度はぶち込んでもらいたいぐらいのいい男だよ]
モーリス&エレガノ「あのサーティーンか・・レベル4の訳だ」「本能の街の奴でしょ、例えるならボクシング世界チャンピオンVS実験サンプル集団ってとこかしら」「俺達既に人じゃないんだな」「壁を歩くのにそんな疑問を持つのね」ミルドがご自慢の牙を見せるように口元を緩ます。ジープの後ろに乗り込む六人。脳裏に浮かぶ情報・・清春&ミシェル。
グラン[・・この少女は保護するのか?]
ミラ[人質救出は絶対条件だ・・およそ、15分でターゲットに追いつく捕獲及び排除方法はグランに任せる、この間に装備の確認でもしているんだな]通信一時停止
スティービー「口の悪い女は嫌いじゃない」
ブラットジョー「強気の女も入れちまえば案外可愛いもんだ」拳&拳のキス
エレガノ「ホントあんた達って最低ね・・」
「それはどうも、ところで予知眼では今回の結果は見えないのか」
「見たい時に見れたら苦労しないわよ」
「大したことね〜な、俺らみたいにDNAを組み込んでもらった方が役に立つんじゃないか」
モーリス「エレガノの能力は貴重なんだ、俺達みたいに替えが聞かないし狙撃の腕も超一流」睨みを利かすグラン&ミルド。
「分かってるって・・冗談だよ、頼りにしてるぜ相棒・・」
通信=グラン[ルート47でターゲットの車を確認、追尾。38ブロックを西に移動中]
ミラ[割り出すと・・おそらく三番街に向かっている・・ルート沿い40ブロックで待ち伏せしろ、一部住民に厳戒態勢を取らせてある、ゴーストタウンの出来上がり。最小の被害に留めろ、忘れるな、お前らは実験動物でターゲットはサンプル、精々いいデータを残すんだな]
車内の険悪なムード。グラン[ラジャー]・・通信OFF
スティービー「ムカつく野朗だ」
ブラットジョー「違うな、ムカつくアバズレだ」
モーリス「腹は立つけど良い結果を出さないと廃棄されるのは自分達だ」
沈黙・・グラン「俺達は籠の中の鳥じゃない・・いつか運命を切り開く時が来る」
「・・・ラジャー・・・」
40ブロック到着=輸送車でルートを閉鎖。
グラン「モーリス&エレガノはビル屋上に配置、狙撃の体制を取り合図を待て。ミルドはターゲットの車を止めろ、スティービー&ブラットジョーは出てきたところを捕獲、手に余る様なら殺れ。相手は音に聞いたサーティーンだ、舐めて掛かるな」
「ラジャー」
スティービー「運命を切り開くために、俺らはサーティーンを切り刻む」
「いいライムだぜ相棒・・」
拳を合わせ姿を景色に乗じる二人。壁を走る男にしがみ付くエレガノ=屋上でスコープを合わせる。街中に身を潜めるグラン、輸送車の前に仁王立つミルド。
通信=ミラ[ターゲットが約三分でそこを通過する。準備はできているな?]
グラン[ハイエナの狩りを見せてやります]
ミラ[ハリウッド映画みたいないんちきアクションにならねー様にな]
[こちらエレガノ、ターゲットの車をスコープに捕えました]
グラン[ミルド・・]
「ラジャー」
#
40ブロックの標識。突如、消えた道路を賑やわせていた車や人が居なくなり、まるで別世界に迷い込んだみたいだ。
「ミシェル、ここはいつも墓場みたいに静かなのか」
あたりを見渡しながら「ううん・・いつもはもっと活気がある地区だよ・・」不思議そうに外を眺める・・目の前に立ちふさがる軍用車「ちぃ、さすがは理性の街か対応が早いな」アルセルを踏み突っ切る。速度80マイルを超えた時、白眉のデカぶつはニヤっと口元から伸びる牙を食いしばった。獣の様な四足歩行、猛然と走り寄る「こいつはやばい匂いがするな、ミシェル!頭を低くしてな」
「はい」しおらしく言われた通りに行動。
通信=モーリス[ターゲットを捕えました発砲許可を・・]
片手でハンドルを操作したまま窓から発砲=屋上の男に威嚇射撃。
モーリス「おっと、もうばれたか。エレガノあいつできるよ」
エレガノのビジョン・・「タイヤを撃って・・突破されるわよ」
通信=モーリス[エレガノの予知眼です、ターデットの狙撃は難しいですが、車体を止めることは可能です]
通信=グラン[狙撃を許可する・・追伸、ステルスコンビへ、食事の時間だ野朗共、車が止ったら一斉にかかれ]
左右にかく乱する俊敏さ「ファック、犬野朗が・・」パン、タイヤの破裂音。横にスライドする車。ミルドはサイドステップを繰り返し弾丸をかわしターゲットの車と衝突寸前に跳ね上がった。車の停止、同時に運転席のドアが開き回転しながら転がり跳ね上がった巨体に銃を向ける、が一瞬早くミルドが蹴る。弾かれる銃・・取っ組み合い・・喉元を噛み切ろうと牙を抗う・・それを一蹴。追撃=ミルドの巨体は軍用車に打ちつけられた。空気の歪み、それ自体が殺気を帯びている様な存在感。シャキン。スティービー&ブラッドジョーのサーベルを抜く音がキーンと響く、エレガノ上空からの援護射撃&モーリスは壁を駆け下りながらアサルトライフルを発射、ミルドは何も無かったかの様に立ち上がり突進&ゆっくり歩きながら確信するグラン=ハイエナの由縁。「化け物共が・・」援護射撃の死角に移動しながら敵の見えないサーベル&拳打をかわす。
グラン「チェックメイトだ、」
背後から銃を突きつけられフリーズした俺は横目でミシェルを見た、刃の冷たさが喉元と脇に触れる、動くなと言わんばかりにスコープから覗く瞳が殺意を表す。
「この街じゃ礼儀ってのを教わらないのか」
ぐにゃっと姿を現す兵隊。
スティービー「本能の街の出身者に礼儀を教われるとは光栄だな」ミルドのボディーへの一撃。くの字に折れる身体を正す刃。
ブラッドジョー「こいつは減らず口を叩く野朗が嫌いなんだ」
通信=エレガノ[少女を確保]
ミシェルは抵抗している「おじさん、助けて・・私ホントは家に戻りたくないの」
家に戻りたくない・・あまり深く考えてる余裕はなさそうだ「あのガキ傷つけたらテメ〜らただじゃすまないぜ」
スティービー「誘拐犯が何言ってんだ。俺らが正義のヒーロー・・
ブラットジョー「お前は悪の親玉ってところか」
・・・予知眼・・閃光・・・
通信=エレガノ[まずい、閃光弾よ]
ボン、と同時に光があたりを暗闇に変えた
女の声「清春着いて来て」手を引かれる。
聞き覚えのある声に・・「ミシェル・・」
「大丈夫、ジョンが連れてくるわ」
声の正体が分かった。ジョン・・ブルーイナフのナンバーエイト、そして、俺の手を引くのがトゥエルブのメネシス。生き残った仲間達・・