第一章 二幕 Snake&Seven
第一章二幕 Snake&Seven
壁一枚向こう側の世界。生まれ育った町。詐欺・強盗・恐喝・・平凡な世間からしたら薄汚い悪党共。良い事とは思わないが生きるのに必死で、この生活から抜け出したいがこの町でしか生きられない・・この町の創設者はそんな輩だって話。町の名も支配者も坂道を転がる石ころの様にコロコロと変わるが。唯一、変わらないのは人種と土地。そんな世界でも彼女は孔雀が羽を広げた様な綺麗な目をしていた。その瞳を涙で溢れさせたのは・・俺の罪。女神との約束も守れない男に何ができる・・そして、ユダの裏切りで俺は落ちる所まで落ちた。足枷の様に過去を引きずり生きてみたが俺には向いてなかったみたいだ。
PM7:50
人目を引き付けるキャデラック。寂れた工業地帯よりダウンタウンが良く似合うスネークご自慢の愛車。ボンネットにはセンスの悪い落書き。オールドイングリッシュで[KILL YOU BITCH]と書いてある。誰が見ても間違った愛情表現だ。ウーハーはHIPHOPの縦揺れのリズム。マフラーからは図太く鈍いエンジンの排気音が有無も言わせぬ威嚇射撃をする。スネークそのものをモンスターカーにした感じ。だが、そいつを走らせる本人はご機嫌斜め。助手席に乗る男のせいだろう。
態度はでかいが細身のホスト風。銀髪ロンゲをオールバックにしているが、乱れてないかチェックしながらスネークに語りかけている。
「・・・で、お前ならノアの方舟にはどいつを乗せるって聞いたんだ。」
スネークはパーカーを深く被りマルボロを吹かしながら銀髪の話を聞きながしていたが。
「100人の売女とありったけのバイアグラだろ・・さっきから何回同じ話すりゃ気が済むんだ。・・もう五回目だ・・次同じこと言ったら清春に口を溶接させるぞ。」
「かぁー。きびしいねぇ。清春ってのホントにくんのかよ。工場勤務ね・・お前の知り合いに最低賃金労働者共の仲間がいるとは驚きだね。これだからギャングあがりはビジにならねー。」
「ユニオンスクエアでどじ踏んでここに流れ着いた新参者はしらねーだろーがブルーイナフを舐めるなよ。あいつはブルーイナフの13番目。カードで言うならキングだぜ。」
「それが今じゃ印刷工場で汗水たらしてんのか。俺の話より笑いとれるぜ。」
スネークはスピーカーのボリュームを上げ銀髪のおしゃべりを打ち消した。が、エディ・マーフィーかクリス・タッカーばりにしゃべり続けていた。
車内はHIPHOPのアッパーなチューンも今は極上のアバズレをオタク野朗が口説くふざけた空気を演出している。
何曲か回った頃・・郊外にあるカートルームに到着した。ここはユニオンスクエアとナインポインツを繋ぐ唯一の道にぽつんと佇む。理性と本能を繋ぐ道。お互い用のない町同士、人気もないに等しいが左右どちらに進むかによってその後が決まる。ある意味、有名な場所。
「ワァーオ。西部劇にも出てきそうなBARだな。」
銀髪は手を銃の形にし、ボルトアクションをしだした。
「セブン・・お前もスーパーコンピュターはバグだらけだな。」
「はっ。7つの頭脳を持つ男に失礼でぜ。くそ蛇ぃ。」
「・・清春はまだ着てないな・・」
「シカトかよー。」
銀髪はニヤリと微笑み。エアーリボルバーをSWATさながらに構えキャデラックから出るや西部風の扉に走りより勢いよく蹴り開けた。
「Hey。ワイルドワイルドウエストからウィル・スミスのご登場だ。」
蛇は「勘弁してくれ」とズルズル、シートに深く沈んで行った。
「おい・・あのイカれ野朗知り合いか。」
「清春。クソ、タイミング悪いぜ・・セブン。」
まだ揺れる扉から不満そうに銀髪カウボーイは帰ってきた。扉の奥にに座る男と目があったが視線がやけに冷たい。セブンと呼ばれる男は人の神経を逆撫でるセンスは最高らしい。
「紹介するぜ・・こいつは内のナンバー2・・セブンだ。頭のネジは緩いけど{Fuck you}
、あらゆる犯罪に適応できる。言いたくないが天才は肌って奴だ。」
「マザーファッキンジーニストさベイビー。ていうか、お前が清春・・大丈夫だスネーク。こんなモヤシ野朗、金払わなくても一回戦も勝てやしねーよ。」
「何の話だ。それより良く喋るオームだな。・・なんかくせーぞ・・。」
「は。」
「小動物の匂いがプンプンする。」
「ははーん。キレたぜー。」
キザなジャケットから取り出した、キラキラと光る玩具みたいなバタフライナイフ。チンピラ特有の羽のもげた蝶が舞うかの様なナイフさばき。長い舌をだしての挑発・・映画の観過ぎだ。
現実、この銀髪は二つミスを犯してる。まず一つ、この間合いなら瞬きした瞬間、奴の視界はブラックアウトする。か、妙なはったりを放置し、電池が切れるまで同じモーションを繰り返させてもいいが、二つめ・・スネークはこの状況を許す訳が無い。
カッチャ・・「お前ら止めろ・・」
モンスターエンジンの様な声は重力を増させ、鈍く威圧感の塊と化している[スネークの愛銃=デザートイーグルに巻き付いた蛇の装飾]が、セブンに向けられた。
羽のもがれたバタフライが地面に墜落。
「スネークゥ・・そんなもん出すなってぇ・・。」
スネークは今にも弾きそうな眼つきで沈黙。最高級のプラフ・・セカンドの見えざる武器。
切り裂く。
「思い出したぜ。セブン・・ユニオンスクエアで売れた名だ。」
セブンは銃口を見つめながら、ゆっくり口を滑らせる。
「俺の天才っぷりがてめーのどんくさい頭にも届いてるなんて光栄だね。」
「で・・その腐れジーニストに質問したいんだが。オタクにマザコン・・脳みそにウジの湧いた哀れなガキに・・あと四つは何があるんだ。」
「こいつ・・」
セブンが動く瞬間。銃は俺のこめかみに当てられた。
「二度は言わない・・清春・ビジネスの話をしに着たんだ。ここは俺が仕切る。」
「蛇野朗のビジってのはダチに銃を突きつけることなのか。」
「そう噛み付くなよ・・お前の悪い癖だぜ。」
叫ぶ・・
「撃ってみろよ・・今なら勝てそうか。でけー図体してハッタリかましてんじゃねーぞ。」
沈黙・・重圧・・最高級のプラフを嘘にさせる駆け引き。
爬虫類は弱者を震え上がらせる。セブンは蛇に睨まれた蛙の様に喉を詰まらせていた。
「・・人の力には限界がある・・分かるよな。サーティーン。」
撃鉄を起こす・・
「その名はもう寂れてるぜ。セカンド。そんな玩具で神にでもなったつもりか。」
「はは。神はいい過ぎだ・・この場を収めるにはナポレオンやチンギス・ハーンの軍隊に相当する力だ・・違うか。」
「弾いてみろよ。ガンファイター・・俺の頭がミキサーに掛かったトマト見てーになって跪くか・・てめーの顔面がフランケンシュタインみてーになるか・・。」
震えた声で「マジかよ・・」とセブンが呟いた。
「・・止めだ止めだ。お前のそういうトコ好きだぜ。俺らの組織に入れよ・・ブルーイナフの再開と行こうぜ。」
・・・
「銃口を放してから言ってくれるか・・三流ギャング共じゃ話にならねーだろ。」
「言ってくれるぜ。サーティーン。」
BANG・・
45口径の銃声・・流れ弾はBARのカウンター・・銃を持つ手に滑り込んだ左のクロスカウンター・・吹っ飛ぶ巨体。
セブンは目を丸くしワンクッションおいて言った。
「・・ワァーォ・・ジャッキー・チェンかよ。」
口の血を裾で拭きながら、スネークは立ち上がった。デザートイーグルを腰に挿し、かわりに清春を指さした。
「車で殴ったこと根に持ってやがったな・・クソ・・歯が折れたぞ。腕は鈍ってないようだな・・フランケンシュタインってのはマジだったのか。」
「なーに。お前がマジだったら今頃、頭に突っ込むボルトを買いに行ってる。」
冷めた空気を一転させる様にスネークは笑った。それを見て俺も笑った。顎が痛むのか、ぎこちないが大きな笑い声が昔を思いださせる。マジで笑うことを忘れていた、そんな忘れた感じを思い出させる様に二人は笑い合った。セブンは「お前らイカれてんのか。」って面してるがお前に言われたくない。
「セブン・・これが清春だ。ウケんだろ。」
「ウケねーよ。クソ蛇ぃ俺をハメやがったな。」
西部風の扉がドンと開き、マスターがショットガンを突付けた。三人は一斉に手を上げた。俺とセブンは同時にスネークをチラっと見た。
「ボトルが鉛玉に飲まれちまったんですが・・お支払いはどなたさんで。」
・・・
「悪いなマスター。ちょっとじゃれてただけなんだ・・」
視線に耐えかねたのか、ポケットに手を入れるぜって合図で100ドル札を束ねたマネークリップから二、三枚手渡した。
「あんた、いつものマスターじぁないな。」
「えぇ。経営者が変わったので私が勤めさせて頂いてます。」
金を数えながらの礼儀正しさが違和感を与える。
「あなたの腕も鈍っていない様だ。」
俺はすかさず言った。
「盗み聞きは趣味が悪いぜ。」
「ブルーイナフの方々にお会いできて光栄ですよ。しかし、あれは年代物のボトルでね。あと五枚は貰わないと割りに会わないんですわ。」
「なにー。」・・スネークの悲鳴。手元の残ったマネークリップ。
「はは。うけるぜ。羽振りのいい奴は舌がこえてやがる。」
「ちくしょう・・ツイてないぜ・・」
商売人独特の渋りを見せながら100ドル札を何枚か渡し、マスターは首を横に振る。そのスネークの大きな背中は丸みを帯びて行った・・壁一枚向こう側あの世界。
「携帯鳴ってるぜ。」
初めてセブンのまともな発言を聞いた。微かに響くメロディは1995年流行ったベートーベンの運命を黒人ラッパーがリメイクした曲。
ピッ・・
「・・・はい・・・。・・・・あぁ・・・・。」
スネークの表情が見る見る険しくなる。
「分かった・・・。」
様子がおかしい。ビジネスってのでトラブったのか・・足早にキャデラックに向かい振返った。
「悪いがタイムアップだ。詳しい話は副社長から聞いてくれ。」
「副社長。」
スネークはホイルスピンさせながらナインポインツに消えて行った。消えてセブンはバタフライナイフを拾いジャケットにしまった。代わりに櫛を出し窓に向かい髪をチェックしながら言った。
「スネークヘッズのナンバー2ってことは副社長っしょ。アンダスターン。」
俺は来た時と同じ1994式のボロ車に乗り。
「俺ももう行くぜ。カマ野朗に聞くことなんてねーからな。それに、俺はスネークの世話になるつもりはないんでね。」
「清春っていったよな。元ブルーイナフだか知らねーけどな。俺を舐めんじゃねーぞ。」
「・・なんだ・・シャブって欲しいのか。」
ダン・・既にボコボコのボンネットがへこんだ。
「話を振出しに戻してーのか・・それよりビジだ。Give and Take。昔話は関係ねー。ネオブラットトーナメントにタンて奴がでる。俺らの仲間を拷問し使いもんにならなくした報復だ。」
「表向きはまともな会社なんだろ。随分と物騒な話じゃねーか。まぁいいが・・報復ならわざわざトーナメントでしなくても楽なやり方があるだろ。」
銀髪を抑え、ため息をもらした・・
「そこから説明すんのかよ・・NBTはナインポインツの各チーム代表を出場する。それ以外に一般枠ってのが二つあって一つは予選をし、約五百分の一の男になり本戦に出場する。もう一つは金で権利を買うかだがそのもう抑えてえてある。タンは・・」
車のエンジンをかけた。
「いーか・てめーは・トーナメントで・タンを・殺る。報酬は前5千ドルの成功後10万ドル。キャッシュだ。プラス・内の私兵団の団長にもしてやるって話だ。明日も印刷工場で腐る日々か。やらねー手はないだろ。」
アクセルを吹かし・
「悪い話じゃねーな・・私兵団ってのはいらねーがキャッシュだ。だがその話もスネークがいねーとな。」
「そのスネークが俺に話を聞けって言ったんだぜ。」
「・・俺は用心深いんだ。うさんくせー銀髪じゃ話にならねー。」
セブンは肩を竦め、携帯を助手席に放り投げた。
「それもって失せな。詳しいことは明日スネークから聞けばいい。」
めんどくさくなったのか、銀髪を掻き分けながらカウンターの方に向かいマスターに酒を注文していた。年代物の骨董品に着いてるアクセルを踏み、カートルームを後にした。バタン・・西部風の扉が開き銀髪が走り寄るのがバックミラーに写る。
「ていうか・・ここ何処だと思ってんだ。乗せてけよ・・・マジかよ、クソ。」
銀髪は届くはずも無い石と罵声をなげていた。ナインポインツに向かう林道、ちょっと走るとハマ湖が見えてきた。普段は自然なんて気にもしないが、星の写る水面はありきたりの言葉だが宝石箱の様だ。俺は二度と輝きを失う人生を送りたくない・・PM10:00・・ラジオはAM、つけるくらいなら安いエンジン音を聞いてた方がまし。ヘッドライトの明かりが道を照らしナインポインツを引き寄せる様に車は加速度を増した。
過去を振り返ってもうんざりするだけ
ホントにそれだけ・・きっと良い思い出ってのは消えて行くものだから
見ろよ・・ネズミが一匹わめいてる
50セントしか持ってない男に死神の姿を写し
車輪を回す様にお馴染みの命乞い
KKKのドラマ・・チンケなアジア人
泣きたいのは俺も同じ
もう過ちを繰り返すのは止めにしたいんだ・・
親はゴシップ記事か暴力番組を見る眼つき
ストリートで自分を罵る言葉・・カス・・サッグ・・ファック
無力な死人は叫ぶ声すら聞こえない
アイアンメイデイで脳みそを串刺しにしたかの如く、突き刺さった固定観念
ただ引き金を引く
遥か昔のおとぎ話・・悪魔の瞳に涙が溢れ、三日月の光も絶えた。
女神との約束は足枷になり、混乱の渦にのまれし鎮魂なる首輪を身に付けさ迷う亡霊
アラームが言うんだ
さっさと起きやがれ。うすのろ共。
クソゾンビ見たいにうろつきやがって
俺の考えは間違ってる・・だからブルドック面をアスファルトに叩き付け
煉獄の様な毎日に終わりを告げた
まだ15時だってのに実家に行き、当ても無くハイウェイに乗った
トランクにはゴミ袋・・住む場所を失った男に宛がった車1994年式クラウン
俺はまだラッキーな方だろ
クソみたいな人生だと言ってみろ・・落ちぶれ方も半端じゃねーだろ
クソみたいな気分にはもうならないぜ・・
あとはのし上がるだけだから