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敗北の旅  作者: 壇狩坊
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第二章 三幕 成功の喜び=緊張+α

三章、まだ続いてしまいます

 少し長引いた会話を終え、黙り歩いていると右前方から案の定男女二人組の警察が目に入った。小声にて、

「よし・・いくぞ」

「うん」

 と、呼応を合わせて剣呑な気分を切り払って、怯えに興じる。

「あ、あの・・!」

 里見が第一声に、声を掛けた。こちらからコンタクトを取ってくるとは相手も思ってないであろう、という和也の助言あっての行動だった。

「アレ、君たち、・・二人、か」

 案の定人数を真っ先に見られた、とアマタは作戦に対して安堵する。

「は、はい、実は、月島高校二年生なんですけど・・みんなとはちょっとした事情ではぐれることになっちゃったんですよね・・」

 里見は渾身の演技で困惑の表情を浮かべる。

(実際、困惑してるんだろうけど・・)

 と、アマタはフォローのタイミングを伺う。

 まず人数を相手に認識させること。そして、上辺だけでも自分たちは二年生だということを相手に告げること。それが和也のアドバイスだった。

「それは大変だったね。爆発に巻き込まれたりしなかった?どこか怪我してないかい?」

 バレていないようで、二人心の内でホッと息をつく。

 そろそろ和也達が後ろに回っている頃だろうか・・と、思案を重ねる。

「は、はい、それは大丈夫です」

 でも、ともう一人の切れ長な女性は、突っかかるような口調で口を開いた。

「君、青いリボンしてないよね?どうして?」

 そう、これが一番の懸念でもあったことだ。二年生であるということを提示している以上、それを証明し得る物証がないと信用には至らない。

 青いリボンは、月島高校二年生という証明書みたいなものなのだ。

「え、えっと・・」

 里見は戸惑い、口を濁らす。

「校則で定められているはずよね」

 それは、とアマタはフォローをする。

「男女二人組でいて、女子生徒のリボンが無くなっている・・そこから真っ先に考えられることって、一つしか無いと思うんですけど」

 アマタはニタァとできる限りの嫌な表情を浮かべる。

 ハァ、と女性はため息をつき、

「・・貴方達、今の状況をわかっているの?国が総動員して動いてるっていうのに、一体呑気に何をしていんだか・・」

「実は僕らも、今の状況について詳しく知らないんですよね。少し教えてもらえないですか?」

 本当に何も知らないの?と疑念の目を向け、

「・・一年生以外の生徒の自宅へは投書がされたはずなんだけどな・・。それに記載してあることでもあるのだけれど、今日に限っての月島高校の二、及び三年生はリボン着用が必須・・いえ、義務化ともあったわ」

「・・どうしてですか?」

「そりゃ、・・そうね、貴方達、何も知らなかったのね。なら仕方ないのかもしれないわ。 政府が国民に伝えたかったことは一点のみ。

『今世代の高校一年生を抹殺する』

 理由について言及する者、及び情報を公開する者は死罪に値する、とまであったわ。

 ・・政府が国民の全員にこんな犯行声明じみた言葉を送ったのには言及したくても言及してはいけない、という風潮が流れて誰も口にはしなかったのよ。

 こうして働いている私でも、その詳細についてはあまり知らない」

「抹殺・・ですか。物騒ですね」

 心を開き、思った以上に現状を説明してくれたので、収穫を大きなものであっただろうとアマタは確信する。

「だから月島高校では一年生とそれ以外をハッキリと判別できるようにリボンの着用が二、三年生には義務化されていたの。

 一年生に伝えなかったのは、面白がってつけてこない人間を増やさないためでしょうね。新学期まだ三ヶ月で校風を乱すようなはっちゃけた子だって、居ないって噂だったし」

 と、そこで隣の男性警官が喋り過ぎた、と注意をする。

 そこで、アマタの目線は不意に奥へと向いた。

(和也・・)

 バレていない。そして、和也はこっちに目線を向けるな、と里見へとサインを送る。

「どうしたの?」

「いえ。じゃあ最後に一つだけ聞いていいですか?」

「別に、一緒にこればいいじゃない。どうせ迷子だったんでしょ?」

 それに、と男性警官が、

「・・君たちが、本当に二年生かどうかも、調べなきゃいけないから・・ね」

 少し勘ぐり過ぎた、とアマタは失態を心の内で詫びる。

 どうせ後ろには和也がいる。それならどんな質問でもしてやろう。

「ブラッド・ショックについて、なにか知りませんか?」

「・・!何故、そのことを知っているの?」

「お前ら、やっぱり、一」

 そこで和也と荒谷が飛び出して首根っこを警棒で叩いて、警官は即座に気絶した。

「上手くいったな」

「アマタ・・お前、あんな事聞いてんじゃねーよ」

「どうせ和也がすぐ攻撃すると思っただよ」

 どうせならもっと攻撃を遅らせても良かった、とは言えないが。

 舌打ちを、和也はおもむろに叩く。

「・・もし、深夏に危害が及んだら、どうするつもりだったんだ」

 何に対して、そんなに怒っているんだ、とアマタは嘆息した。

「・・そのときは、和也が守る・・んじゃ、なかったけ」

「・・もういい」

 和也は視線をアマタから逸らす。

「二度とあんな危険なことをするな。ブラッド・ショック。それがどんな意味合いなのかはまだわからない。

 でもこの二人は知っている様子だった。っつーことは、この女性が「働いている私でも詳しくは知らない」って言ってた通りだとすると、ブラッド・ショックのことだけは警察側が「知っていても知らない」フリをしなきゃいけない程に重要事項だったってことだろ。

 今俺達にとってそのことを知っているだけでも大きなアドバンテージだ。相手を動揺させることのできるほどの事項だろう。

 でも、それは使うと同時に危険にもなりうる」

「分かった。分かったから、もういいよっ」

 アマタは説教じみた言葉の数々にうんざりしてらしくもなくそう吐き捨てた。

「・・お前は、俺の後ろで突っ立ってればいいんだ」

 そんな他人任せな人生は嫌だ、なんて僕が言っても説得力無いんだろうなぁ、とアマタはちょっぴりヘコむ。

「アマタ、里見、離れてろ。

 今からこの二人の首を斬り落とす。そんなところをお前らは見なくていい」

「和也は・・大丈夫なの?」

 里見が心配そうにそう目を潜める。

「大丈夫・・とはさすがに言えないよな。人の首を斬るなんて、人生に一度もしないはずだったことだからな・・」

 間違いなく吐くだろうな、と和也は苦笑いを浮かべる。

「でも、やるしかないんだろ」

 そうして、荒谷は彼女の首にその手に持った鋭利なサバイバルナイフを添えた。

「と、その前に。深夏、脱げ」

「えぇ!?」

 里見は突然の荒谷の頓珍漢な言葉に逡巡する。

「アンタがコイツと衣服を変えるべきだ。私ならもし一人になった時でも生き残っていけるさ」

 それは暗に、里見は一人になったら何もできないと言っているようなものだと示唆される言葉だった。

「で、でも・・美月が苦しい思いをするんだよ?だったら・・」

「面倒事は先に終わらせたほうがいいと思っただけだ。

 ・・ほら、「死後硬直」が始まっちまう。さっさとしてくれ」

 分かったよ・・、と、でも、と此方を里見が一瞥する。

「男子はあっち行け」

 シッシ、と荒谷は乱暴に手を振る。

「荒谷がああ言ってるのなら、今はアマタが着替えるべきだよな」

「・・そうかな」

「何で迷う必要がある?」

 和也は僕のことを知っている。自分への善意は無碍もなく断らないことを。

 だが、それを迷ったアマタに対して疑問を持った。

「和也、里見の彼氏じゃないか。だったら、一緒に行動しているべきだと・・思う」

「そうゆう私事は持ち込むべきじゃないと思うが」

 こういっちゃなんだけどさ、と前置きを置き、

「それ、本気で言ってる?シンヤのこと、もう忘れたの?」

「それは・・」

 それは確かに私事によったミスだったかもしれない、と和也は戸惑う。

「でも、本当に俺が原因だったかなんてわからないじゃないか」

「そうだね。でも、それでもあの時のあぁいった行動は控えるべきだった。だって、里見は知らなかった、って言ってたけど和也は知っていたんだろう?シンヤが里見に対して好意を向けていることを」

 和也は唇を噛み、

「・・じゃあアイツは悪くなかったのかよ」

「悪いとは思う。でも、そのくらいの悪を許容できないようじゃ、和也は今こうして僕達を殺しにかかっているこの国を許せずこの国を滅ぼさざるを得なくなる」

「話が別だ」

「大袈裟すぎたかもしれないかな。

 でも、和也は現に見せつけるようにして里見とくっついていたじゃないか」

「あれは・・そうか、それが失態だったんだな」

「ある種の嫉妬心だった・・のかな。僕はよくわからないけど」

 まだー?と荒谷の声が上がる。

「・・ほら、アマタ早く着替えろよ」

「いや、だからダメだって」

「どうして」

「だって・・」

 理由は三人に伝えた。至って、簡単な理由だった。

「なんで、それ先に言わねぇの・・?深夏はもう警察の服に着替えてるぞ・・」

「しっし、って言われたから・・」

 はぁ、と荒谷は溜息をつく。

「そうじゃん・・警察の服のまま歩いてたら、仲間と思われるか圧倒的に怪しまれるかの二択じゃんか・・」

 仲間と思われたところで会話をほんの数秒したところで内部の人間でないことは丸分かりだろう。何しろ警察内部の情報に関しては全く知識がない。

「とりあえず、私らは着替え直すよ。深夏は私の制服で我慢してくれ」

「う、うん・・」

 男子は草むらへと足を下げ、アマタは開口一番に、

「じゃ、着替えるよ」

「意味不明だっ」

 和也はやれやれと首を振る。

「別に、僕が後ろに回って攻撃すればいいだけじゃないか」

「あのなぁ、お前、さっき汚れ役は俺に任せるとか言ってたよな!?もう忘れたのか?」

「僕だって、警察を殺して覚悟を固めておきたいんだよ」

 死体を僕ら月見高校一年生だという事を誤認させるため、その胸ポケットには学生証を挿れておくことが作戦の一部でもあった。

 そして、挿れるということは制服を手放すという意味合いであり、流れ上、自分を死んだと誤認させるためには警察の服へと着替えるのが自然な流れであり、アマタにとっては必然の行動でもあった。

 だからこそのハッタリであった、とアマタは考える。

「お前にできるのか?」

「頑張るよ。敵は良心の呵責だけだ」

 言ってて恥ずかしくないのかよ、と和也は苦笑う。


「なんで月島が後方攻撃サイドに回ってるんだ」

 という荒谷の質問に先ほど同様答える。

 実はもう一つの理由があった。それは、

「里見との会話って、あんまり続かないんだよね」

「そんな理由かよ」

 四〇%程を埋める理由だった。

 続く続かない、というよりは、

(盛り上がらないんだよな・・)

 むしろ、ニヒルに語ってしまう自分が嫌だというのが本当の理由だったんかも、自分で自分に気づく。

「やるならしっかりやれよ」

「頑張る。敵は良心の呵責だけだ」

 同じセリフを、変わった意気込みで告げた。だが、そこで甘えた目を和也へと向け、

「でも、トドメの首を斬るのは・・」

「・・俺かよ」

 自分はヘタレである、とアマタは自己申告した。


 少し離れた所で里見と二人で荒谷と和也が警察官の首を斬り落とすのを待っていた。

「うぅ、今ごろ和也凄いの見てるのかな」

「全くだよ。僕だったら昏倒すると思う」

 でも、と里見は強い意志を持った目で、

「私のためでもあるんだよね」

「・・うん」

 それをわかっていることと、わかっていないでは感謝の度量が変わり、大きな差があるだろう。

 そういえば、と里見は切り出し、

「あの時、よくあんなことでいい通せると思ったね」

「え?あぁ、あの時は必死だったから」

 きっとリボンどうこうという警察の勘ぐりに関してのことだろう。

「あぁいうこと平気で言える人だったんだ」

「少なくとも正気では無かったって・・」

 と、本当の事をつらつらと話す。

「うへぇ・・気持ち悪かった・・」

 和也は口元に手を添え、陰険さを醸し出しながらこっちへと歩いて来た。今にも吐きそう表情だった。

「ラクに殺したほうがいいと思ってナイフを思いっきりねじ込んだけど、上手くいかなくてよ・・しかも痛みのせいで意識が戻って、」

「え、それって相当まずかったんじゃ」

「いや、それに驚いた勢いでナイフを両手で土まで押さえ込んだ。

 それにしても・・断面はまずいな。特に勢い良く出ないのがたちがわりぃ。なんか妙にピンク色の液体があると思ったら真っ赤な鮮血がテンポよく出てくるしな」

「和也、そんなこと説明しなくていいって」

 里見まで気持ち悪そうな表情を見せる。そんな権利はないはずなのに。

 そうだ、と荒谷は無線を取り出す。

「それ、どうするんだ」

「ほら、あの死体を警察の巡回ルートであろう場所においておくんだろ?だったらそれを見た後に送る連絡を確認できたほうがいいと思ってな」

 あぁ、と和也は感嘆する。

 言ってみればただの確認用だ。これで高校生に名の死体を発見、などと報されれば作戦は成功といえるだろう。

「ま、それが確認できたらすぐ壊すさ」

 荒谷はポケットにそれをしまう。

「じゃ、アマタ、頼むよ」

「うん」

 そう言われ、和也から警棒を受け取る。

「首筋辺りを狙え。そうしたら頸動脈が振動してすぐに気絶するはずだ」

「知ってるよ。ミステリーでの定番だよね」

 と軽い会話を交わして、その場を一旦離脱する。


 十分ほどの時間が経ち、無線に新たな情報が入った。

『高校生と思われる二名の死体を発見。おそらく四人組のうちの人間と思われる。引き続き、捜査を続ける』

「よしっ」

 と荒谷はガッツポーズを決めて無線を砕いた。

「上手く行きすぎな気もするけど」

「そうネガティブに考えるなアマタ。後もう一回同じことをすればいいだけだ」

「・・うん」

 手汗を拭き取り、それぞれ前方里見と和也、後方アマタと荒谷に別れ、二回目の作戦決行へと踏み出した。

五幕ぐらいに・・

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