第二章 二幕 「信じる」こと。覚悟を決めた和也。
1-2と同じような空気。
里見の言葉によってなんとか見つけた岩陰にその腰を下ろすことが出来たのは逃走開始から感覚として三十分程した時だった。
「、ケホッ、ケホッ」
皆走り疲れ、言葉も出せないような状況、空気になりつつあった。
「ねぇ、これどういうことなの?」
里見のようやく出たその一声に和也が答える。
「さぁな・・けど、結局今俺たちにできるのはひたすら逃げることだけだ」
「逃げるって言っても・・どうすんだよ、これから。このままこんな岩陰に身を潜めててもただの八方塞がりだろう」
荒谷がやれやれと首を振る。
「もう無理だよ・・おとなしくつかまれば」
そんな里見の弱音を耳にした途端。アマタには予測できた。途端、和也が発するであろう言葉を。
「駄目だっ、あきらめるな」
と。思い通りの言葉が飛んできて、アマタは一人心の底でビンゴと呟いて苦笑する。
「捕まったら・・きっと、殺されるんだぞ?シンヤのを見ただろ。あの光景を思いだせ。俺達は・・死ぬ義務なんか、無いんだ」
「だったらどうすればいいの!?・・もうこんな怖いこと、ずっと続くの嫌だよ・・」
里見の弱音を和也は完全にカバー出来ずにいた。そんな時、
「私たちが殺された・・って、勘違いさせたらいいんじゃないか?」
その提案に一瞬の間が開き、三人は首を捻る。
「さっきの警察官がそうだったからだけど・・よ。ほら、男女二人組だったろ?それならその二人の、その、なんだ」
「首を斬り落とす・・ってことかよ」
和也はニヤリ、とその笑みを見せる。
「・・あぁ。それで私らの制服を無理矢理着させて・・どうだ?」
「いいんじゃないか?それでその俺達学生に見せかけた死体は警察官の目につく場所に放置しておくだけでいいからな。ついでに身分証でも入れておけばいいかもしれない。
へへっ、防戦一方ってのもやってられないよな・・!」
それに、と和也は警察官から奪いとったホルダーからその鋭利なナイフを取り出す。
「・・サバイバルナイフ?」
「あぁ。それに警棒だってある。最初から斬りつけなくてもまずはこの棒で後頭部をぶっ叩いて昏倒させたほうがいいのかもな」
「ちょ、ちょっとまってよ!」
と、その残酷な会話に里見が耐えかねる。
「さ、さっきから、首を斬るとか・・正気?それって、人を殺すってこと?」
「・・あぁ」
「そんなのだめだよ。人なんか殺しちゃ・・」
「でも現に警察側だって俺達を殺そう・・いや、殺したじゃないかっ」
くそっ、と和也は悔しがる身振りをする。
あぁ、そうか。喧騒のせいで忘れていたが、和也はクラスメイトのことを・・忘れているふりをしているだけなのか。
だからと言って、僕は何もしないけど、とアマタは一人自己解決する。
「やられたから・・殺されたから、殺し返す、って・・それでいいの?」
「違う。これは俺達が生き残るための仕方のないことなんだ」
「だから、罪に罪に重ねても、合法だって言うの?」
「今更法なんて言われても関係ないだろ!相手は国みたいなもんなんだぞ・・!?」
「・・でも」
里見の手を、和也が握る。
「・・俺は、里見に死んでほしくない」
「和也ぁ!」
なぁ、と荒谷は付け加える。
「深夏。アンタもさ、今がとんでもない状況だってことくらい分かるだろ?
それに・・和也だって国を守る警察官様の命を殺めることに大賛成・・なわけもないことくらい、深夏にも分かるだろ?」
「・・だったら、なんで」
「それくらい、自分で気づけよ」
「・・、あ」
ごめん、と和也の耳元へと呟く。
女のために命を張る、なんて正直馬鹿馬鹿しく思ってもいたが、実際見るとこの光景は非常に映えた情景だなぁ、と一人思う。
「だったら・・今すぐここを移動しよう。詳しい話は移動しながらだ」
停滞している以上、調べられていない場所を優先して調査されるという当然がので、ここももうそろそろ安全圏ではなくなってきている。
「まて。この無線を使えば、なんとかアイツラ警察共の動向を探れるんじゃねぇか?」
名案だ、と和也は荒谷の言葉通り男警察官の持っていた無線を取り出し、適当な周波数に合わせる。
『・・こちらF部隊。Aー5地点から8地点。目標の男女四人組を発見できず。引き続き、A、及びF地点を捜査続行する、オーバー』
・・・。
「なんてゆうのかな、暗号?そんなんばっかりでまずA地点ってのが分かんないから・・全然意味ない・・ね」
「くっそ、いい良案だと思ったんだけどな・・」
「だったらもうこの無線は壊してしまった方がいい。もしかしたら警察官二人の無線が奪われたことを知られて逆探知なんてことをされるかもしれないし」
その言葉を最後に、二人は地面に落としてもう二度と使えないであろうと言うほどに粉々に砕いては、丁寧にも土や腐葉などで残片を埋めた。
「でも・・具体的にはどうするの?・・そんな簡単に後ろから攻撃できるほど・・あの人達も馬鹿じゃないと思うし」
里見の言葉は、弱気なような、それでも先ほどよりは希望の満ちた、生きようとする気力の感じる言葉だった。
だったら、とアマタはその想いに答えようとする。
「彼ら警察たちが探しているのって僕達男女四人組だよね。・・きっと、それを発見されたら即座に上に連絡がいって、今度こそ逃げられはしないだろう。
・・少し遡るけど、さっきの人だって、本当に爆発から逃れた高校一年生だなんて分からなかったはずだ。だから最初はあんなにソフトに接してきたんだと思う。
そして、二番目の質問。君たちは、何年生?、だ。僕はこの時点でマズイかも、って思ってたんだけど・・」
ハハッと荒谷がから笑う。
「深夏の馬鹿が、馬鹿正直に答えちまうんだもんな、一年生です、てよ」
「だって・・嘘ついたら、バレた時が怖いし・・」
「まぁ、それは今生きているから良し、としようよ。
それでその里見の言葉で僕らの事を月見高校一年生と確証を得たから、あの人だって突然攻撃的な口調に変わった。後ろの女性も焦った口調で無線に話してた。
これで僕らのことを狙う警察。その「僕ら」という団体が月見高校一年生、ってことが分かったね」
うんうん、と三人は頷く。・・なんだか、慣れないなぁ、とも思っても口には出さない。
「ブラッド・ショックっていうのが具体的にどういったことを一体指し示しているかはまだよくわからないけど・・その言葉にあの警察官は強く興味を引いていたね」
「それだけ重要な情報ってことか?」
和也の問いに、アマタは考えた末、判らない、と答える。さて、と切り出し、
「ここからはこれからの具体的な作戦。
ちょっと考えてみたんだけど、やっぱ里見の言う通りそう簡単に背後を取ることは・・難しいよね。
だから、まず僕と里見が前方で堂々と歩いて、警察に対して目を気にしていない言動を気取る。
それで和也と荒谷さんの二人には後方に位置してもらって・・僕ら二人がオドオドして警察官の気を引いてる内に・・えっと、」
「俺達二人が後ろに回って後頭部を穿つ・・とそういうことだな。いいじゃねぇか、その作戦、それでいこう」
まるでテンションが上った厨房のような和也の無邪気な表情は、とてもこれから人を殺める人間の表情ではなかった。
「・・ごめん、汚れ役を押し付ける形になって」
「気にするな。どっちにしろ、気を引くのだって弱きなお前らの方が適任だ。それに、運動部の俺と格闘術に長けている荒谷が大きな行動に出たほうが効率がいい、お前もそう思っての作戦だろ?」
見抜かれてたか、とアマタは嘆息を漏らす。
「私だって構わないよ。そのかわり、アンタたちだって、気を引く義務がある。こっちのほうがアクティブで難しいようにも見えるが、それはそっちの気の引きようによって困難さは大きく変わる。・・頼むよ」
「・・うん、ありがとう。頼りにしてるよ」
「何にしても、汚れ役とかそんなの気にすんな。こんなの、ハッキリと言っちまえば共犯だ。法があったら真っ先に裁かれる。
だけど、さっきも言ったとおり、相手は国単位の大きな存在だ。だったら法も何もあったもんじゃねぇ。そう考えて、私たちも気兼ねなく思いっきり首根っこぶっ叩かせてもらうよ」
あれ、と里見は首をひねり、
「でも、私たちが見つかった途端に上に連絡がいって、銃とか取り出されたらどうするの?」
三人は黙る。仕方なしに、アマタが口を開く。
「・・えっと、それを避けるために前方と後方の二人組の二組・・てゆうふうに分けてみたんだけど?まぁ一番最初にその事を言うべきだったかな、ごめん」
「え、ちょ、何?二人はそのこと分かってたの?」
和也と荒谷は当然のように頭を縦に振る。
「もうっ、私だけ馬鹿みたいじゃん・・」
ハハハ、とちょっとした笑いの風が吹いた。
「ほら、行くぞ。この作戦の指揮はお前だろ?」
「・・うん。それはちょっと大袈裟かもしれないけど」
案外、整った心持ちをすることが出来た。
アマタの作戦通りの列を整え、アマタと里見が横隣で並び、そこから離れた後方に和也と荒谷がいる状況だ。
警察官を見つけることがまず第一目標であり、警戒の目を悟られてはいけないので堂々とその存在している道を歩く。反して後方の和也達は道のない、絶対に見つかることはないであろう雑踏を往く。
「こうして歩いてみると、意外と警察っていないのね」
「そうだね。まぁずっと隠れつつ視線がこっちに向かないことばかりを考えていたから。逆にこっちに向くことばかりを考えてしまえば人数は同じでも意外と、少ないッて思っちゃうんだろうね。まぁ意識の持ちようでだと思うよ」
「人間の頭って、単純だねー」
「そうそう。ゲームとかでもさ、ランダムにステージが配置されるときって、妙に僕の嫌いなステージばっかりは選ばれてる、とか思っちゃうんだよね。大局的に見たらきっと同じ数だろうに。
きっとそれと同じ理由だろう、うん」
「それはちょっと全然共感しづらいかも」
その曖昧な表現にアマタは笑う。
「でも、どうするの?もし相手が三人以上とか、大多数の人数だったら」
「ごめん、僕もその時のことは全然考えてないや」
え、と里見は唇を引き攣らせる。
「ご、ごめん、ってそんな簡単に済ませていいことだと思えないんだけど・・」
ちなみにこの会話は和也達には距離上、聞こえていない。
なんていうか、とアマタは頭を搔くと、
「なんか、提案した事自体、ただの気まぐれみたいなものだったからさ。ずっと黙ってるのも息が詰まりそうだったし」
なんて、嘘をついてみる。ただ意見が出そうな顔がなかったからだった。
「それに、和也がこの作戦に了承してくれたんだから、もしものときはきっと助けてくれるって。無責任かもしれないけど、そう思ってる」
フフッと里見は安心したような笑みを浮かべ、
「月島くんも、やっぱり和也のこと、信用してるんだね」
「こんな状況なんだからしないと生き残れもしないよ。・・だからこそ、この作戦だって和也に危険な後手を任すことができたんだし」
でも、とアマタは付け加える。自分でもこれから悪循環の言葉が続くとは、分かっていた。それでも言わずにはいられなかった。
「信じているか、って言われたら・・ちょっと分かんないかな」
「和也を?どうして?」
一変して、神妙な表情でアマタの顔を覗き込む。
「和也は絶対人の期待を裏切ったりはしないよ。もちろん美月だって」
そうじゃなくて、とアマタは否定から言葉を繰り出す。
「信じる、ていう思考的行動が僕にはちょっと抽象的すぎてイマイチ理解できないってこと・・かな」
はぁ、と里見は呆れ半分、と言った感じにアマタから視線をそらす。
「またよく分かんないこと言ってさ。何が言いたいの?」
「もしさ、和也が僕らのことを裏切って、見捨てたりしたら、里見の思考行動はどうなるの?」
「どうなるって・・悲しむ・・とか?」
思考行動とか、よく分かんない、と里見は呟く。
「つまり信じる、ていう思考から「信じていた」に転換されるわけだよね。
そうやってすこしだけ突き詰めてみると、どうにもその「信じる」っていう言葉はたったひとつの相手の行動によって変えられてしまう上っ面だけの浅ましい言葉にしか聞こえないんだよね」
「・・どっちにしても、和也は裏切らないよ」
「まぁそう断言してしまうのは簡単だけどさ・・まぁ暇つぶし程度に聞いてくれよ。
和也は裏切らない。別に僕も和也は裏切らないと思ってるし、そう思う事自体が信じる、ていう行動を示すのだったら、紛れも無く僕は和也のことを信じているといえるだろう。
でもさ、少し臭い話をするとさ、未来なんて、誰にもわからないわけだよ。
もしかしたら。本当にただの思い違いで僕らを裏切ってしまったら。
それはきっと後悔と死しか残ってないはずだ。
だったら、元々の定義がやっぱり違ったんだな、って。僕は思うんだ。
信じる、という言葉は「きっとあの人は自分の期待を裏切らない」と自分で決めつけてしまうことだと思う。
それはやっぱり、自分の中の相手を自分で決めつけてるだけなんだ。
つまりさ、信じる、という言葉の回路に相手の行動も組み込んでしまえばいいんだよ」
「・・そんなの、鎖でも繋いで行動を制限しなきゃ、無理じゃない。月島くんの言い分だと、絶対なんて断定的なことは言えないんだし」
聞いていてくれたのか、とちょっとした感動を覚えた。
「アハハ・・でも鎖なんかで繋いじゃったらもうそれ自体が信じていないことの物証みたいになっちゃうよ」
「だったら、信じるなんて無理じゃない」
「無理じゃないよ。
だからさ、相手の行動さえも信じる、という言葉の回路に組み込ませる、なんて言ったけど簡単にいえばさ、相手の行動に対しての許容範囲を広げる、ってだけのことなんだよ。
つまりさ、結論を言ってしまえば、和也になら裏切られてもいい、後悔しない、って。
そう考えておけば裏切られた時の心持ちは保てるんだよ」
「それが月島くんの、信じるっていう言葉の定義なんだね。
でも、いやだなぁ。まるで和也が裏切ることが前提みたいな考え方で」
いや、とアマタは小さく嘲笑する。
「だから、許容範囲を広げるとゆうことだけなんだから、自分が期待した通りの行動をしてくれるのが一番良いに決まってるんだ。たったそれだけのことなんだよ。
和也が何をしても、僕は和也の行動に疑問も抱かず受け入れられる。未来の自分がそんな状態になってもいいと思えるようになったら。
そこで僕にとって、やっと和也を信じてる、って胸を張って言える・・かな」
「・・それじゃまるで」
赤の他人じゃない、という言葉を里見は口から飛び出そうになるのを本能的に躊躇った。
今、自分は和也のすべてを受け入れ、アマタの言葉、定義を聞いてなお、和也のことを信じている、と心の底で強引に断言していた。
それでも、今こんなことを言ってしまえばそれこそ今までの私たちの関係は何だったのか、という疑心暗鬼に陥ってしまう。
それを危惧した故の里見による必死の自己防衛だった。
・・だったら、
「・・私は、更にその定義を捻じ曲げる、かな」
自信満々、表情は神妙にそう告げる。
へぇ、どんな。とアマタは興味深そうに問う。
「裏切る、てことはさ、それは人が対象、ってことだよね」
「うん、そうなるのかな」
「・・私が裏切られて途方に暮れたらどうしようもないかもしれない。でも、和也が美月や月島くんを裏切ったんだとしたら」
吹っ切れた、爽快な笑顔で、
「私は、その和也について行くよ」
「人が人を裏切って、それに自分を伴わせるのか・・うん。
随分と他人任せな人生の歩み方だね」
里見は顔を伏せ、表情を隠し、声色を潜めた。
「こういっちゃなんだけどさ、私、和也と同等の位置に並んでると思ってないんだよね。あの、なんていうの、高嶺の花みたいな存在だと思ってたから」
「和也も同じようなことを言ってたような気がするよ」
あはは、と。
「・・うれしいなぁ、そうやって言ってくれるのって。
だけど、私、それをネタに中学の時結構僻まれたりしたんだよね。
私も、和也が私のことを好いていてくれていることくらいは・・知ってたから」
「・・それはさぞかし気まずそうな感じで」
「ううん、全然そんなことなかった。私たち二人は。でも私を取り巻く環境はその、結構嫌だったりした。和也人気だし」
それは、アマタも薄々感づいていることだった。
「でも、だからこそ、今は強い信頼関係を築けてるっていうか・・それまで取り巻いていた環境が厳しいほど一度結びついちゃえばその結び目は強いって言うでしょ?
・・きっと、そんな簡単なことなんだと思う」
「それが和也をそこまでに信じる理由?」
「うん、これが私の和也を信じるに至った理由」
フゥと一息を吐く。
「僕は、和也に裏切られたら、里見にも裏切られなきゃいけないのかぁ」
「そう悲観的にならないでよ」
「原因は里見だろう?」
「そうだったね」
まぁでも、とアマタは会話に区切りをつけにかかる。
「僕は三人を裏切れないよ」
「たかが口約束だね」
「だね」
「でも、どうして不可能みたいな言い方なの?」
「理由は本当にちっぽけなこと。聞きたい?」
「一応」
「行動力がないから、だよ」
「ちっぽけだね」
「僕にとってはそうでもないんだよ。里見にとって小さいだけ」
アマタは小さく笑うと、応じて里見も笑った。
美人だな、と難しいことを考えないようにすると、そう素直に思えた。
最後に、と里見は口を開く。
「結局、月島くん・・いや、いまのアマタは和也を「信じる」の?」
うーん、と腕を組んで考える。
「・・どう?」
と、首をひねってきた里見に対して、
「・・さぁ」
なんて適当な返事で首をひねり返した。
「裏切られたら嫌だ。だから今はそれを許容出来るほどの良心を持っているわけじゃないんだと思う」
「蛮行を許すのが、アマタにとっての良心故の行いなの?」
「和也は蛮行なんてしないさ」
「なにそれ」
「ほんとだね。だけど、何をした、されたところで僕は怒らないと思うし、納得さえもしてしまうと思う」
「どうして?」
「別に、ただそこは怒るとか悲しむとか、感情表現が酷く苦手なだけだけど。驚くことだけは敏感、って昔和也に言われたっけ。
だけど、納得ってゆうのやっぱり違うのかな。さっきの僕言うところの思考的行動なわけだし。でも自分にとっては裏切られた行動を和也に取られても、彼が行っている以上、和也にとっては正しい行動なんだろう。
それを許容したところで、やっぱり、それは信じている、って言えるのかな、って。
声を大にしては言えないような。そんな気がするんだ」
「埒があかない人だね」
「それ、日本語あってる?」
「さぁ。でも、結局結論を濁すのが月島くんのアイデンティティなのかな」
「アイデンティティなんて、そんな中学二年生が使いそうな言葉、よく臆面もなく使えるね」
「冗談言ってるつもり無いんだけどなぁ。ってゆうか、月島くんの方がよっぽどニヒルだと思うんだけど」
「そうかな。
結論の話だけど、僕は濁しているつもりなんてないんだ。
・・きっとそれも、行動力がない所以何だと思う。
もし、僕にアイデンティティなんて大それたものがあるとしたら。
物事に対して明瞭な成否を付けたくない、たったそれだけだと思う」
「すごく嫌な人間の出来方してるんだね、君って」
「それは僕が一番言ってほしくないことであって、自分がいちばん分かってることなんだってば」
里見こそ、僕と和也とじゃあ話すときの態度がまるで違うじゃないか、主に僕に対して喧嘩腰に、とも言ってしまえば楽だったろうに。
一人、里見の横で嘆息する。
(だから、行動力がないってことなんだろうなぁ)
アマタの言うところ、裏切らない、とは意識的つまり自発的には裏切らない、ということであり、それを断言することは出来た。
だが、無意識的に人を裏切る、というのは前者よりも数倍に恐れるべきものであり、何より恐るべきは無意識故に裏切ったことに気づけ無いことだ。
(そんなこと、どんな状況だったらなるっていうんだ)
自身を嘲笑した。
その過信こそが、アマタにとっての人生最大のミスであることには、無論気づけないでいた。
その過信は、人生最初の自分への欺瞞であり、人生最後の選択肢だった。
好きですねーこうゆう文。
(自己主張)