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敗北の旅  作者: 壇狩坊
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第二章 一幕 暴力による解決=罪を重ねる

第二章に入ります

         二章


「モウ方法ナンテドウデモイイ・・カズヤヲ殺シテ、シンカヲツレテイク!」

 人語を使いこなすことが意外で、だけどそんなことに割いている時間はなく、アマタたちは駈け出した。

「和也!こっち、早く!」

「あぁ!」

 久しぶりにこんな大きな声を出した、と小さく思うが、さっきと同様だ。

 駈け出し三秒ほどの時、背後からいわゆる「ケモノの雄叫び」のようなものが聞こえ、その情報を与えてくれた人自身が証人になるとは思っていなかったと、アマタは苦笑する。

「ど、どうなってんの!」

「分からん!」

「とにかく、アイツから逃げるんだ!今のままじゃどうしようもない!」

 荒谷の言葉通り、走り続ける。背後には体長三メートルの人型のケモノが四足走行で全力疾走してくる。故に、

「お、追いつかれそうだよ!」

「くっそ、蛇行しても意味ねぇか!」

 ジグザグに曲がったところで、相手は獣に近い動きを見せているのでむしろ距離を縮められる。

 もう打つ手なし、と諦めかけたその時、背後よりショゥン、と聞きなれない音が届き、「ギャアアァァォ」

 振り向くと、シンヤだったケモノが肩より煙を上げて悲痛による悲鳴をあげていた。

「な、なんだ・・」

 多くの足音がザクザクと近づいてくると、

「こちらF部隊!ブラッド・ショック化反応探知し結果、目標を発見!直ちに目標を排除する!」

 怒気のような色が混ざったその声が聞こえるとまたババババッと銃声が次々と聞こえてくる。

「自衛隊だ・・」

「良かった、助けてくれるんだ!」

 そう言って駆け出そうとした里見の手を荒谷が掴み、

「待て」

 と強く制止を命じた。

「・・え」

「私たちはシンヤからもだが、アイツら世間側からも逃げているんだろう?考えを違えるな。自分から安直な方向へ逃げないでくれ」

「あぁ。そのとおりだ。何しろ俺達はあの爆発で死んでいたはずの人間だからな・・」

 そうだった・・、と里見は荒谷に感謝の眼差しで再び腰を落とす。そして目の前では、

「ギャヤォ、ガアアァグゥゥアアァ」

 重弾幕ががシンヤだったケモノを次々と襲い、その体を焼焦がす。

「とにかく、今のうちに逃げよう」

「あぁ、アイツらがシンヤに目を奪われているうちにな」

 素早くかつその足音を殺しつつ、アマタたちはできる最大限の速さでその喧騒を後にした。


「い、一体、なんなの・・?」

離れた場所に着き、尻を地へと付けつつ里見が呟いた。

「ブラッド・・ショック・・とか言ってたな」

「それが、あのシンヤの現象のことなのか・・?」

 四人は試行錯誤する。が、当然答えといえる答えは出ない。

「情報が少なすぎるんだよな・・」

「っつうか、これどんなアドベンチャーだっつぅんだ・・」

 笑えねぇ、と荒谷らしくもなくベソを掻く。でも実際アマタはその考えに大いに納得であり、今ここで目を覚まして夢でした、の方がよっぽど現実的であった。

 気休め程度に頬をつねるが、痛覚が機敏に反応して赤い印が残るだけだった。

「・・もしかしたら、俺達もあんな、シンヤみたいな風になるのかもな」

「和也、冗談でもやめてよ・・ほら、見てよ」

 と、里見は力こぶを力いっぱいに作るが、それは至って平均的な女子高生以下の肉付きであった。

「・・まあそんな可能性はないか。こうして今俺達に異常がないことが何よりの証拠だ。自分の異常なんて自分がいちばん分かるはずだもんな」

 それを聞いて、荒谷は表情を曇らせた。

「・・荒谷さん、どうかした」

 アマタは不意に声を掛けた。

「なんでもないって。

 でもさ・・もし、私たちがそのブラッド・・なんとかってのになる可能性があるんだとしたらさ・・。

 あぁやって不意に殺された理由だって、付くんじゃないか?」

 沈黙。

「・・とにかく、シンヤはその状態に陥った。その理由なんてのはわからない」

「シンヤ・・私、シンヤの気持ちなんて、何も分かってなかったなぁ」

 へへっ・・と無理やり笑ってみせるがすぐにその表情は失せ、涙をこらえきれなくなる。

「うぅっ・・私が、あんなの私が殺したようなもんじゃないのかな・・」

 和也がその里見の体をギュッと握りしめる。

「そんなわけないだろ。・・大体、どうやったらあんな風になるのかも、そもそもあの時の俺らはまさかシンヤがあんな風になるなんて想像だにできなかったじゃないか。誰が悪いも何もないだろ」

「うぅ・・!うぇえぇぇ」

 里見は項垂れて、その顔面を和也の胸へと委ねる。そんな風景を見てアマタは、出来た情景だな、と俯瞰なりに感じていた。

「っ・・・で、どうするよ、これから」

 その空気に耐えかねた荒谷が無理矢理に口を開く。

「とにかくあの重装備部隊に見つかるのは・・マズイんだよな」

「あぁ。アイツラはきっと・・私たちのことを敵視して来るはずだ。・・出会ってすぐに発砲してくる程野蛮だ奴らではないと思うが」

「でも、公道になんか出たらすぐに見つかっちゃうんじゃないの・・かな?」

 泣き止んだ里見の言葉に、皆は何も言い出せない。

「・・なぁ、アマタはどう思う?」

 耐えかねた和也は無理矢理にそうアマタへと問いかける。

 少しだけ考える。今の状況への打開策を。

「・・とにかく、今こうして制服で行動してるだけでも危ない・・と思う。里見・・さんの言う通り、」

「里見で・・いいよ」

「うん。里見の言う通り、このまま公道に出るのは・・少しだけマズイかも。どれだけ外に警察隊が出ているかとかの状況もわからないわけだし、だから」

 突如、その背後からの足音に振り向く。

「アレ?君たち、どうしてこんな場所に?」

 ・・警察だ。男女二人組で、声をかけてきたのは男性側だ。こればかりはもう逃れようのない状況になってしまった、と和也とアマタは背中に嫌な脂汗を浮かべる。

「えっと、ちょっと迷い込んじゃって・・警察さんも、なぜこんな森の奥深い場所を?」

 咄嗟に和也が無理矢理にそう問いてるうちにも、もう一人の女性の警察官が何者かと連絡を取っている。

 きっと、僕達を発見したことを上層部に報告しているんだ、とアマタは危惧した。

「とりあえず、付いてきてくれないかな?私たちにも君たちを保護しなきゃいけない義務があるからね」

 しなきゃ・・いけない?それはまるで、

「・・僕達のことを、まるで探していたみたいですね」

「・・・」

 アマタの呟きに対してなんの反応も見せない、というところを見ると・・つまりその危惧はビンゴとゆうわけだろう。

「・・君たちを探していたかは、わからない。明確な目標があったわけじゃないからね。でも、その制服、月見高校の生徒だろ?何年生?」

「一年生・・ですけど」

 里見が小さくそう呟く。荒谷はその軽率な言動に舌打ちをする。

「・・へぇ」

 眼の色が、変わった。そして、後ろの女性の口調も、微妙に早口となった。

 くそ、と思いもよらない行動のスピードにアマタは歯噛みした。

「ブラッド・・ショック」

 そう、さっきジャングル柄の人間が発していた言葉をアマタは呟く。

「・・君たち、その名称を知っているのか。どうして、どこで知ったんだ、がはっ」

 瞬間、悟られぬよう背後より接近していた和也は手にしていた丸太のような、太い棒を男警察官の後頭部へと全力で叩きつけた。

「おらぁっ」

 まるでそれは同じタイミングを測ったように、荒谷も無線に対して集中していた女警察官にも似たような一撃を叩き込む。地に伏せられた女警察官は荒谷の器用な捌きようによって右腕を無理矢理にも逆方向へと捻じ曲げられる。

「ぎ、いやぁぁ」

 悲痛による悲鳴が森の中をこだまするが、荒谷はその伏せた体勢を崩そうとはしない。

「お前らみたいなぁ!汚れた血の存在がぁ!私を、私を傷つけるなあぁ!」

「なっ!」

 既に勝負ありと見越していたが、その女警察官は腹部に馬乗りになっていた荒谷を、自分自身を横へ回転させることでバランスを崩させ、下部からの両足によるキックを荒谷の腹部へと叩く。

「ぐふっ」

「降伏しろ!立ち向かっていい存在じゃ、ぐっ」

 右腕の痛みに今更気づいたのか、押さえつける。だが、その隙を和也が逃すはずもなく目の前から走りこんで顔面へとその太い丸太を叩き込む。

「、ハァ、ハァ」

 二人の警察官は気絶して、もうピクリとも動こうとしない。

「・・少しでも、物資を奪うぞ、荒谷」

「・・当たり前じゃん」

 こういった荒っぽいことには荒谷が適している、もしくは先ほどの戦闘で荒谷のことを見直したのか、和也は積極的に彼女を頼っていく。

 二人は警察からその腰についていたホルダーと無線機を奪うと、

「あそこだ!男二人、女二人だ!捕まえろ!」

 その後方からの怒号に、

「行くぞ!走れ!」

 それから、ジャングル柄、詰まるところの訓練された自衛隊との命をかけた鬼ごっこが始まった。

三幕で終わるはず・・・。

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