エピローグ 再度
長い、長い月日が流れた。
あの里見との会談の後、地下の人間達は地下独立国家「サイドB」の立ち上げを大々的に提唱した。
日本中の人間は大いに嘲笑した。捨てられた下等なる存在が、何を戯言をほざいているのか、と。
それについて怒りを覚えたものは生き残った一五〇〇人の内一人足りとも存在しなかった。何よりも、生き残ることを優先し、そして嘲笑っている人間も、それらは隔絶した場所にいる人間だったからだ。
誰もが、自分らの国を誇った。
アマタは父親が作り上げた場所と組織に敬意を払いつつ、国に対する弾劾を繰り返した。
様々な攻撃が地下を襲った。四方八方から軍勢が攻め入った時も、地下へとドリルで掘り進まれた時も。
全て、アマタ一人で撃退した。
勿論四方八方から来た場合、どうしようもない状況が生まれる。そんな時も、戦闘要員であったはずの高校生はひたすらに時間を稼ぎ、アマタの到来を待ったほどだ。
誰もがアマタのその神がかった力を依り代とした。
フルブラッドの使用は酷く身体を損耗していった。それは、アマタ自身しか分からず、アマタ自身には明白に分かり過ぎるほどに。
それでも、誰かのために生きることが如何なるものかを確かにその胸で感じていた。
そして、あの戦争から一年が経った頃。
攻撃をいくら繰り返した所である一定のライン以上を踏み込めないこと、そして、政府の人間が、誰一人としてアマタの手によって殺されていないことを踏まえ、日本国はサイドBの存在を独立国家として正式に認められるまでに至った。
世界には大きく混乱が渦巻いたが、ここはほとんど地上とは隔絶されている以上、他世界のようなものだ。気にするものはおらず、ただただその日は皆戦死者の冥福を祈り、感謝の言葉を捧げ、大いに喜んだ。
翌日、アマタと里見は地下に作られた墓所へと足を運んだ。
「僕は、やっぱり許せない」
和也の元へと来るなり、アマタはそう里見へと口にする。
里見は一年間、傷だらけで帰ってくるアマタを常にバックサポートし続けた。きっとこの一年間ではアマタの次に疲弊した人間だろう。
「アマタくん」
「…なに、深夏?」
いつしかファーストネームで呼ばれるのは当たり前になっており、双方違和感は感じていなかった。
「ありがとね、みんなを守ってくれて」
「…うん」
「誰も、殺さないでくれて」
「うん」
「私の隣にいてくれて」
「うん」
僕達の戦いは全て終わった。
これ以上失うものはないが、失ったものを取り戻すことは二度と出来ない。
二人は和也の墓へ華を供え、水を撒く。
「和也…これで、僕は良かったよね」
「和也はきっと、自分があの時アマタくんを助けてよかったって、思ってるよ」
「あの時って?」
アマタは自分の罪を知らない。目の前の墓を作った人間こそが、自分だということを。
いつしかアマタは思っていた。自分が裏切ることよりも、自分が裏切ったことに気付け無いことのほうがよっぽど怖い、と。
今、一番憎むべき相手は自分である。
だが、アマタは今そんなこと微塵として考えない。
「何でもないよ…」
「何だよ」
「フフッ」
里見は笑えるようになっていた。時間はどんな万病にでも効くというのも今の里見なら信じられた。
それでも里見の視線はただ一方へ、アマタへと向いていた。
「これから私たちどうなるのかな」
「さぁね…。とりあえず僕はゆっくりしたいかな」
里見はずっと決心をしていた。時間がどんな万病に効くとしても、その根本を断ち切らないことにはそれがなくなることは決してない、と。
ある人物に対する無知へと咎めを。
「アマタくんはもうあんまり体動かしちゃダメだよ」
「ハハ…。だろうね」
アマタは目を閉じ、手を合わせ、和也へのメッセージを脳内で作り上げる。
「ほんと、ゆっくりしなよ」
里見は優しい、最も優しい口調で語りかけると同時、自身の背中の方へと手を回す。
「みんな、感謝してるんだから」
月島アマタの身体はもう既に一般成人並みに弱っている。能力を発現させたとしても、それは普通のブラッドクオリアと同等止まりだろう。
「私だって、同じ」
「里見…?」
アマタが閉じていた両目を開く直前の事だった。
「ありがとね――」
彼女が振りかざした鈍色に輝く金属器は、彼を裂く。
アマタが最後に聞いた彼女の声は、世界中の誰よりも美しかった。




