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敗北の旅  作者: 壇狩坊
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第五章 十幕 終わったもの、無くしたものとは?・・・

 里見は動ける限りの力を振り絞り、白き姿を追い駆けた。追えば追うほどに、住宅街へと足を踏み入れる程に、白き戦士が斬り伏せてきた敵兵の血糊がペチャペチャと足元から跳ねてくる。

 それらの惨状を見て、誰もが思った。それは里見も決して例外ではなく。

(これはもう、ダメじゃないの…?)

 誰が、ここまでの惨状を望んだのだろう。

 里見は様々な思いを胸に抱える。

 和也も、空太も、死んだ誰もが、国に対する恨みを持っている。 

 私とてそれは変わらない、と里見は走りながら拳を握る。

 殺したいほどの衝動は確かにあった。

「やめて…」

 小さく、聞こえないと分かっていても、彼女は口を開く。

「もう、いいよ」

 現に今こうした惨状を繰り広げることによって分かった。

 これは、ダメだろう、と。

「もう、やめてよッッ!!」

 里見は今まで生きてきた中で恐らく最大であろう声量を張り上げた。

 彼女は走り続ける。白き戦士は惨状を繰り返す。

「もういいよっ!もう、反撃なんて無理なんだから!アマタくんがこれ以上手を汚すことなんて無いよ!」

 血潮が舞う。狂喜乱舞、ともいうべき惨状が里見の視界段々と近づいてくる。

「これ以上は、アマタくんが望まない、ただの殺戮だよっ!」

 和也との約束を果たすため、駆ける。友達ならば、友達の罪を止めなければいけない。

 白き戦士は逃げようと必死となる敵兵をなぎ倒す。

 と、その時、

「やめてくれっ!」

 どこからか聞こえてきたその声の方向へと顔だけ向けると、彼はアマタが看病していた内の一人の青年だった。

 それを口火に、誰もが開口する。

「やめて!」「もういいから!」「殺さないで!」「もう終わったんだ!」

 様々な声が白き戦士へと飛び、けれどもそれへと振り向くことはない。

 里見とて、先ほどの戦闘にて身体は限界を迎えているのだ。それでも、今にも足が砕けそうな痛みにかられても、足を掻く。

 そして、ついに目の前へと彼を追い詰め、

「アマタ、君ッ!」

 白き戦士は背中に小さな衝撃を感じた。

 見ると、それは全身が走った影響で血塗れになった里見が自分の腰部へと抱きついている風景があった。

「やめて、アマタ君…」

 落ち着いた声で、彼女はもう一度口にする。

 白き戦士は味方へと危害を加えない。それが本能だからだ。

 だから、彼は動きを止める。

「戦うのがイヤって言ったの、誰だっけ…」

「……」

 彼の返事はない。

「アマタ君じゃない…。だから、戦わないって決めたのもアマタ君自身じゃない…!

 そうすることによって周りの反感を買うことを受け入れるって決めたのだって、…全部全部、アマタ君自身じゃない!」

「……」

 彼の身体からは少々の力が抜ける。

「十分だよ…。私も、みんなも、…政府の人だって、もう戦意はない」

「ウ、アァ…」

 里見と和也の想いだけが、アマタの固く閉ざされた心へと響かせられる。

「それは…そう出来たのは、確かにアマタ君のおかげだから」

「ア、ア」

 シュルシュル、と白いフォルムが剥がれていき、中身のアマタ本来の姿へと戻っていく。

「もう、休んでいいよ」

「ぼく、は・・」

 薄らに目を開くと、里見が自分の身体を膝枕のような姿勢で見守っている。

「戻れたの…かな」

「うん」

「よかった…」

 二人は小さく微笑み合う。

 そして、アマタは目を閉じ、口にする。

「早く、和也に会いたい…」

「……! それは」

 里見は悟った。今のアマタには、和也を自らの手で殺めたという記憶が無い、ということを。

 だが、いまここでそれを告げるのは早計というものだろう。

「…そう、だね」

 苦しげに、里見は相槌を打った。

「あぁ…少し、眠いかも」

「ゆっくり休んで」

 その声は、ほんの少しの冷徹さを伴っていたようにアマタは感じた。

 だが、そう思った頃にはアマタの意識は落ち、眠りについていた。


「聞いてくれ!」

 拡声器を持った青年は残った敵政府部隊、味方共々へと伝えるように叫んだ。

「戦いは終結した!これ以上、死人を出したくなかったら、今すぐ撤退してくれ!」

 慣れない青年の声と共に流れたのは、誰にとっても安堵の空気であった。

 この数分の間に数百という甚大なる被害を受けた政府側も、ここまでの圧倒的な一人の前に素直に撤退を始める。


 雨脚は強い。黒い雲は裂ける様子を一向に見せない。

 この戦いにおける勝者など誰一人として存在しない。

 戦争、闘争とはそうゆうものだ。

 失くしたものは取り戻すことが出来ない。

 

 一つの敗北が、互いの心に深く突き刺さり、私怨を植え付けられた瞬間だった。

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