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敗北の旅  作者: 壇狩坊
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第五章 九幕 笑死

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

             ~アマタの世界~

            (僕は、もう逃げない)

     (僕が求められているなら、それに答えなければいけない)

          (期待ならば、答えないけない)

  (立ち上がることの出来ない人間もいるのに、立ち上がらない人間は屑だ)

          (僕は、二人のためなら負けない)

~~~~~~~~~~~~~           ~~~~~~~~~~

                    現実

「いやぁ…」

 里見の目の前に、泥の上へ横たわり、胸から血を垂れ流し続ける最愛の恋人と、それを殺めた醜悪なケモノの姿があった。

 ケモノはフラフラとその全身をよろめかせると、ついに力を失いバタリと仰向け倒れてしまい、二人の横たわった姿が対に並ぶ。

 里見は目の前の情景に絶望する。

(どうして…)

 彼女は思う。これじゃ、何一つ解決していない、と。

 血塗れの和也の元へと近寄り、顔を近づけ眼をじっと見る。しかし、その暗く沈んだ眼は決してこちらを見ることはなく、ただ虚空を見上げているだけだった。

「起きてよ…」

 血塗れの衣服に手を差し伸べることを全くいとわず、身を揺さぶるも反応は全く見られない。

 ように、思えた。

「深、……夏…」

 涙が流れそうになった里見の耳に、和也の声がかすかに聞こえたのだ。

「和也!?」

「ア、マタ、は……?」

 隣に倒れているそのケモノへと里見は目を向ける。

「起きない…」

「そ、か…」

 和也は残念そうに呟いた。

(アマタ君…お願い、目を覚ましてよ…)

 私も変わるから、と里見は両手で祈り、願いを込める。

 

 そしてその時、ケモノの腹部から一閃の光が空へと伸びた。


「え…?」

「待ってたぜ……遅すぎ、だ…」


 それから和也が言葉を口にすることは二度と無くなった。

 暗闇の中、和也は思うのだ。出来た未練は、もう一つもない、と。

 そして彼は、少し口元を綻ばせながら静かに命を断った。


「和、也…」

 最後に意識があったうちに話すべきことがあったのではないか、と里見は逡巡する。

(有難う…)

 里見は和也の手を握り、そう思いを伝えた。

 ケモノから生まれた光は次々と数を増やし、数千に及んだ頃、その身に変化が生じた。

 それはまるで、さなぎから孵る成虫のようで、外郭であった体毛が割れ、間からは新たな眩いほどの白き姿の生体が生まれた。

(これって・・)

 里見は今、一つ朱雀が過去に教えてくれたことを思い出していた。

 それは、確かに三人で聞いたことだった。


「ギリギリでそれらの苦痛を耐えぬく」

 目の前の現象のことだ。

「それを、フル・ブラッドと言う」

 そして、

「フル・ブラッドに陥った奴は比類なき地球史上最強の存在となる」

 のだ、と。


(フル・ブラッド…!)

 今目の前で光り輝いているアマタ君はそれを成そうとしているのか、と里見は息を呑む。

 それは、常人ならば決して耐えられるはずはないものだと里見は聞いていた。

 だからこそ、驚きを隠せない。

 その白いフォルムはのそりと立ち上がり、スラと伸びた直線的なボディを周りへと見せつける。雲間から差し込んだ陽光はそのフォルムを眩く照らし、反射した光は周辺の人間の目を眩ませる。

 象徴的だったのはその頭部だった。そこに、頭部という頭部が存在しなかったからだ。そこからは白い煙だけがモウモウと立ち込め、煙を取り除いたそこに何があるのかを露見させない。

 弱点が全くない、完全に無駄を無くしたスタイルを極限まで再現した存在だった。

「アマタ、君…?」

 チラと此方を全身にて一瞥するも、返事はない。

 その白き戦士は膝を少しだけ曲げると。

 刹那、それは消えた。

「きゃあぁ」

 代わりに残ったのは圧倒的な衝撃波で、周辺十メートル近くを円形に窪ませる。

(どこに…?)

 里見が探し始めた頃、上空から爆破音が炸裂した。

 アマタである白き戦士は、攻撃ヘリを二機、破壊し終えていたのだ。

(見えなかった…!)

 そして、次々と地上へと降りては敵陣へと切り込んでは敵兵をその先の尖った手刀にて斬り伏せる。

 今この時のアマタに自我はなかった。それでも、敵と味方を判断することは出来、敵とみなしたものは皆殺し、味方を傷付けさせないという本能のままに、攻撃はとめどなく繰り返された。


 それまで戦っていた青年は、膠着状態から突然現れた白き戦士によって大きく戦況が優勢に傾いたことによって、逆に何をすべきかわからなくなっていた。

 なぜなら、今自分が動かずともあの名も知らぬ白き戦士が敵兵を一人残らず薙ぎ払ってくれ、逆に自分が邪魔になってしまいそうだったからだ。

「うああぁぁぁっ」

 次々と体が半分となって切り捨てられたり、あらゆる部分が貫通され、死へと至る敵兵。それによって上がる悲鳴は惨劇はおろか、まるで白き戦士を讃える賛美歌のように感じた。

 殺戮、といえば目の前の情景を表現するのには最も適した表現だろう、と青年は思う。


 パンッ!と政府兵士による銃弾が白き戦士へと真っ直ぐと向かうが、彼はそれを避けようともしない。弾かれた弾丸は地へとあっけなく落ち、アンチウイルスを含んだ弾でさえもその白きボディは傷一つ通さない。

「うわああああああ」

 無様にもその場を逃げ出そうとした政府兵士は後ろ向きに走り始めるが、

「、え」

 目の前に、白い姿があって。

 次の瞬間に彼が視界に収めた景色は、暗転だった。

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