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敗北の旅  作者: 壇狩坊
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第一章 二幕 月島天太と里見深夏という存り方:論題(黒木和也)

すぐに続きが出せると思います。

 更に距離を離し続け、もう校舎が見えないところまで来ると、

「ハァハァ・・ねぇ和也」

「何、深夏?」

「もし私たちがあそこにいたら、死んでた・・のかな」

 和也は間を開ける。

「・・多分。爆弾がどこに設置されていたかによってもしかしたら死に至るまではない可能性があったかもしれないけど・・」

 それはあまりに希望的観測過ぎる、と口を閉ざした。

「何にしても、一年生のほとんどは」

「和也」

 言い過ぎ、と思いアマタがストップを掛ける。が、

「死んでるだろうね」

「ん・・・」

 アマタはこういった雰囲気の和也は初めて見た。別にアマタの意図が分からなかったわけでもないだろうに、そこまで言うほどの事だったろうか、と。そう不穏に思った。

 その和也の表情をじいっと見た荒谷は、

「・・アンタ、悲しくないの」

 そう和也へと問いかけた。和也は一息を置いて、何の曇りを表情にみせず、

「俺は・・自己中心的思考だからな。室長やってたにしろ代表張ってたにしろ、学校のためなんかでもクラスのためなんかでもない。自分の株を上げたかっただけだ。

 そんな俺が今ここで思うことなんて、今行きているこの現実・・っつーよりラッキーを噛み締めないとな、って思ってるだけだ」

 ム、と荒谷は表情をしかめる。

「クラスの仲間が死んでるってのにか・・?」

「俺が死んでいたかもしれない状況で仲間の安否に気をかけられるほどに俺は人間ができちゃいない。俺はね」

 過去の仲間、とゆうのが珍しくアマタにも癪に障った。

「じゃあ今、僕たちのこともどうでもいいのか」

 和也は間を開ける。

「そうじゃない。さすがに生きている人間を踏み台にしようとは思わない」

「じゃあ僕が死んだらその屍を?」

「踏み越えるよ」

 和也のその言葉を最後に、四人はただ歩き続けた。

 アマタにとっては和也の本質が一瞥できたような、それとも今までの虚像が少し削れたような、そんな気がしていた。

 それでもやっぱり、アマタ自身はそうした和也の悪性の露見はいままでの印象が崩れたり、苦にもイヤにも感じることもなかった。

 だが、皆がそう思えるわけもなく、隣の里見が良い例だった。

「里見さん」

「・・え?」

 アマタがそう声を掛けると、見上げたその顔の目尻には少量の雫が溜まっているようないないような、そんな風に見えた。

 どっちしろ、今里見が泣いていたとしてもいないとしても、その心情を察することは容易に出来た。

「気にしなくていいと思う。僕、ずっと和也と付き合ってきたけどあんな事言う和也は和也じゃない」

「・・?じゃああそこで歩いているのは和也じゃないの?」

「きっとすぐに戻ってくるよ。こんな状況下でどうにか今の自分の行動を正当化したくてたまらないんだと思う。

 クラスメイトの自分たち以外を置き去りにして逃げ出した。その結果、自分たちだけが生き残っている。

 ・・アイツの責任感は人並みじゃない」

 一息、

「じゃあ、和也は・・無理矢理自分を悪役化・・とゆうか必要悪であるように自らを仕立てあげてるってこと?」

「大方そんなところじゃないかな。だからさっき和也が言ったことは和也が言った言葉じゃなくて、悪とゆう仮面を被って自分は元々そうゆう人間なんだって思い込ませた和也じゃない人の言葉、何じゃないかな。

 だから、里見さんは気にしなくていい」

「じゃあ、何でそんなに・・責任を放棄して、クラスメイトを睨みつけるような真似をしてまで今を生きたいと思うの?」

 意外と深いところまで突っ込んでくるな、とアマタは試行錯誤する。

「え、えと・・それは」

 きっと里見深夏、とゆうかけがえの無い存在を守るためだろう。だけど、

「ひ、人が生きたいと思うことに、意味があるのかなぁ」

 と、適当に誤魔化した。

「そう・・ありがとう、月島くん」

 そう言って微笑んだその表情を見るに、やはり和也にはお似合いなハイスペックな女性であり、和也が惚れて当然だ、とアマタは心中で再確認した。

「だったら、私がもっと気にしてあげるべきなんだろうね」

「え・・?」

 会話終了とおもいきや、発せられた言葉はまるでそれまでの会話の根本を覆すかのような言葉だった。思わず、口を引き攣らせてしまう。

「だって私、和也の彼女だから」

 それが和也の言動で一番の理由と知りながら、

「そう言えばそうだったね。僕も、そうまでなると介入できないよ」

 ハハッー・・と乾いた苦笑いを浮かべる。

 率直に、和也が可哀想だなと思った。

 自分が状況に対して戸惑いながらも適切に判断している中、ガールフレンドだから、というたったそれだけの関係と理由だけで、許すまでもなく介入されることを余儀なくされるからだ。

(やっぱり、僕に恋人とかできないよなぁ)

 アマタ自身、こういった効率ばかりを重視する考えには自分でも嫌気が差していた。それは少年時代からずっと付き纏った思考定理であり、離れそうにもない。

 だが、色々な思考の末に結局そこにたどり着いてしまうことに、アマタ自身どこかで自分を自分で嘲笑していた。

「だから、月島くんも一緒だよ」

「どうゆうこと?」

「だって、和也の親友なんでしょ?」

「それほどでもないよ」

 申し訳ないが、和也ほどの上位カーストと集団の中で自分から積極的に接しられるほどにアマタ自身自惚れてもいない。ましてや和也を慰めるなんて大役は幼なじみとはいえ、ゴメンだった。

 でも、と里見は否定から入り、

「和也、いつもアマタアマターって話してくるんだよ?」

「え、そうなの」

「ほんとだよ。私自身、付き合ってるのに他の人の話ばかりされるのはあんまりいい気分じゃないし・・」

「・・すいません」

 あはは、と里見はから笑いをして、

「謝られても、ちょっと許せないかなぁ。でも和也が一番楽しそうな顔をしてる時って、やっぱりアマタって人のことを話してる時だった」

「・・だから?」

 嫌な口調になってしまった、と心の内で反省する。

「月島くん自身が思ってるアマタっていう人と和也が思ってるアマタっていう人には、やっぱり相違があると思う。

 それはきっと、今の和也と小一時間前の和也との違い以上に」

 自分で自分を無理矢理変えた和也の前後相違と、アマタが思っているアマタと和也が考えているアマタの自他相違。

 こればかりはそれぞれ違う目を持っている以上、その相違は当然自他相違の方が激しい。自分で自分を変える、というのも少し難しい話だ。

 もしそこで生きている人間が一人だとして、自分は狩人から料理人になる、といったところで、自分は料理人になれているつもりでも、他者の目がない以上絶対的な判断はない。

 結局、自分を変えるのは他者の「反応」であって料理人をしているつもりでも、他者が狩人と判断してしまえばそこまでなのだ。

 だとすると、アマタ自身を変えられるのも和也だけなのである。・・もっと厳密に言ってしまえば和也の考えるアマタ自身だった。

 そこらへん、この里見とゆう女は理解していた。少し意外だった。

「和也があってほしいと思うアマタ。でも今の月島くんは少し違うのかな。だったら、ここからは私の要求。

 和也が求めるアマタとゆう人格があるのなら」

「そこから先は、過剰な要求じゃないかなぁ」

 アマタは無理やり口を挟む。だが、ううんと里見は首を振る。

「それが和也のためになるなら他人も巻き込むよ。

 ・・月島くんには和也の望むアマタであってほしい、かな」

 一息、間を置く。

「・・僕にそんな度量あるかな」

「その度量を判断するのも、結局和也なんでしょ」

 ふむぅ、と屁理屈地味たその返答にアマタは息を鳴らす。

「だったとしても。客観的に僕を見たら、やっぱりあるようには思えないよ」

「でも私はあると思ってる」

 一息。

「とゆうよりは、アマタににしか和也を支えることはできない、和也を支えられる唯一の存在だと思う、かな」

「買い被り過ぎだよ・・」

「私だってそう思う。だって、クラスじゃ凄い暗かったよね」

 イヤァな笑みを里見は浮かべる。

 アマタはここ三ヶ月の過去を振り返る。

(まぁどう考えても根暗っぽさ丸出しだよな・・)

 里見の言葉にちょっとだけアマタはシュンとする。

「だからこそ私は和也がそこまで月島くんに執心する理由が分かんない」

(執心って・・)

「凄い言われようだと思うんだけど。特に和也に対して」

「そう?でも私、本気で和也を取り合うつもりだけど?」

 いや、だから僕は和也にそこまで執心してないし、取り合うつもりなんかないって!

 と、アマタは心中で叫んだ。

「その愛には敵わないよ」

「んにゃ、和也がどっちをとるかだからね」

 そう言って、里見は和也の隣へと寄り添った。

 思わず、溜息が出た。常時寡黙なアマタにとっては長時間(といっても数分)会話を合間無く続けることは疲弊へと繋がるほどに重労働だった。

 そんな表情を浮かべていたはずなのに、荒谷が、

「お前、口説いてたのか」

「冗談でも、やめてくれないかなぁ」

 そう。僕は疲れた状態で荒谷のちょっとした小言にも突っ込めないほどの度量なのだ。

 僕は結論を出す。

(結局、僕を含めてみんな普通なんだろうなぁ)

 和也はただ普通に焦って現状を見失っていて、里見は普通に和也の彼女としての役割を果たそうとしていて、荒谷は普通に現状の幸運を手に歩き続け、アマタはこの現状を何一つ変えようとも変えたいとも思わなかった。

 いつもそうだ。青春という人生のスパイスに対して刺激を求めない、人生甘党がアマタにとっては何よりの至福だったのだ。

 だからこんな状況でも、状況は変われども自分を変えない。それが今のアマタの最善策だった。

こういったニヒル臭い文章を書くのは少し自分でも恥ずかしい。

 でもやめられない。

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