第五章 七幕 殺し合いへ
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~アマタの世界~
月島天太には、確かな過去が無かった。
人は誰しもそれなりの物語を歩まざるを得ない。
思い出を作り、トラウマを作る。生と死の重みを味わい、人の想いに答え、人の想いを求める。
一期一会。
人と出会い、人と生き、人と別れ、、、独りで死ぬ。
「どうしてだろう」
人と人とがかかわらず生きることは不可能だ。けれども、生きる上で必要な素質は、集団における個としての強さだ。
集団における、個の強さ?
「僕は、父さんに」
何か、出来たのか?唯一の父親である、あの自分の誉れたるあの人物に対して、なにか恩を返すことが出来たのか?
「何も出来ていない」
違う。
「何も、出来なかったんだ」
白い世界の中、一人で体を丸め、虚空へと身を預ける。
アマタは啜り泣いていた。
「何で・・!」
どうすれば、自分は満足だったのだろう。生きている内に感謝の言葉でも伝えておけばそれで満足だったのか?もっと彼に近づこうとすれば良かったのか?
全ては後の祭り。
「あ、あああぁぁ」
アマタの過去には物語がない。
恋も、友情も、それこそ身内の死だって。
だからこそ、この事件当初は物語に期待した。
それでも、期待以上のストーリーへの介入に、その心は耐え切れなかった。
「アアアアアア」
親を失い、味わった。
荒谷の時から蓄積されてきたその感情が、遂に爆発したのだ。
顔を上げると、視線の先にはあの憎き政府の犬が目に入る。
「許サナイッ」
憎悪が増幅し、駆ける足は更に速さを増した。
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「フン」
政府代表は飛び散った脳漿と血潮を袖口から払うように腕を振り、先程まで懇願を繰り返していた中年の屍体を嘲笑うように見下ろす。
「無様な」
気持ちの悪いものを視界に入れてしまった時のように目を細める。
彼は思う。自分は悪くない、と。全ては、仁義のある任務なのだ、と。
そのはずだ、と。思った瞬間だった。
「カアアアアアアアァァァッッ!」
「な、」
獰猛な容姿から考えうるそれは猛スピードで彼の首もとへと頭を伸ばし、
「アマタアアアァァァッッ!!」
どこからか聴こえた青年の声など耳に入ることもなく。
「やめろおお!!」
叫び、怯えた政府代表から放たれた銃弾を胸元に受けても諸共せず。
ガブリ、と。
男の頭部を丸ごと口へ含み、そして首を失くした上下半身はボトリ、とうつ伏せに地へと突っ伏した。
「うぁ・・」
その光景に、青年は絶句する。
数秒前まで威張り散らしていたその男は、ものの数秒でその命を落としたのだ。
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~アマタの世界~
やった、と。アマタは拳を弱く握る。
アマタの薄い意識は、この時完全に堕ちた。
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「なぁ」
校舎内、先程アマタよりアドバイスを受けた青年は既にそのとおり皆に説明を終えたものの、先程の皆はそれらに賛同すること無く落胆を繰り返していた。
そんな中、彼は呟いた。
「ソラさん、殺されちゃったよ」
「あぁ・・」
「どうすんだよ・・」
同調し、彼らは震える。そして、
「ハハハ・・」「ハハハ」「ハハ」
彼らの心は怒りに震え、壊れた。世界最高、最強の英雄、恩人を目の前で殺された。
青年は言った。
「こうなったら、殺しちまっても文句は言わせねぇ」
その眼光は、誰がどう見ても戦況に反した眼差しではなかった。
「仕返しても、誰も文句言わねぇよなああぁぁ!」
ウオオオォォォ!!!、と上がる狼煙は二度目の決起の瞬間となった。
ただ一つの、憤怒の感情を持って。
「・・何」
アンチウイルスを含んだライフルを手にし、立ち尽くしていた政府の兵士の独りは呟いた。
校舎の屋上から、数十に及ぶ点が空中へと高く跳躍し、こちらへと向かってくるのだ。
焦り、銃口を向け、スコープを覗く。
(狙いづらい・・!)
本来跳躍中の物体、つまり動き続ける物体を一線を描くことしか出来ない銃にて撃ち落とすことはプロでも至難の業と言われている。
だからこそ、最初の一発であのような事態を招くことが出来たのはある意味奇跡とも言えるだろう。
銃口より、火を放つ。
(よし・・!)
狙いは悪くないはずだ。跳躍中の物体に対しての狙撃の基本、泊まる一瞬を狙うこと。
空中を跳躍する物体には必ず一瞬の静止が存在する。それは、頂点へと達し、横移動のみとなる一瞬だ。更にこちらへと向かい飛翔しているので、そこから落下までの一瞬は直線状を狙えば当たる絶好の狙いの的だ。
だから自分はそこを狙った。
だが、
(・・外れた!?)
外れたのではない。跳躍してきたその男は空中で体を捻じり、回避したのだ。
(銃口を、注視していたのか・・!)
急ぎ、再装填を取り行う。だが、その時点で彼の身体は地へと辿り着き、
「ジ・エェンド、だぜ」
勢いそのままに体を一回転させ、首を蹴り飛ばし、生首そのものをその身から削いだ。
首より下が、銃を持ったままに地へと突っ伏す。飛んだ生首は隣の兵士の足元へと転がり、悲鳴を誘う。
「ソラさんの仇ダァァ!」
防衛などではない、後世に残るであろうこの日本において最大規模の戦争が、殺し合いが、今、始まった。
「和也、危ない!」
「アマタ!」
アマタだったそのケモノは駆けつけた和也と里見に対し敵意を向け、太い腕を振るう。空振りしたそれは地を抉り、穴を穿つ。
「策無しじゃ、どうしようもないって!」
里見は中距離へと間を空け、和也へと声を掛ける。
「俺が、コイツを包んでやる」
「え?」
「俺の防護膜で、コイツを包むんだ」
迫る攻撃を両者左右へと飛び回避する。
「そんなこと出来るの!?」
「やってみなきゃわかんねぇだろ!」
「無理だよ!」
「二人なら出来る!」
里見は危険を承知で和也の眼を真っ直ぐに見る。
「・・分かったよ」
「ありがとな!」
里見は思った。これが月島くんじゃなかったら、和也は動いてなかっただろうな、と。
苦笑した。胸糞悪い、汗臭い男の友情に。
「次の振り下ろしの後の硬直だ!そこでいくぞ!」
「うんっ!」
第三者目線だったら、不快だったかもしれない。
だけど、巻き込まれるのは悪くないと里見は確かに思っている。
「グアアァァァッッ!!」
太い腕が振り下ろされる。穴へと腕が突き刺さる。
((今!))
唇をいつもより大きめに噛み切り、血を多く体内へと吸収させる。
「うおおおお!」「やああああ!」
二人は両腕を掲げ、過去にない最高速でその防護膜を目の前に展開した。




