第五章 五幕 本当は
だがそこで、ついにそれは訪れた。
空太が、白旗を掲げ前方へと歩いて行ったのだ。
そして拡声器を通し、
「攻撃を止めてくれ!」
敵へと、そう申し立てた。
敗北が、決定した瞬間であった。
敵陣営はスコープから視線を外し、肉眼にて空太を見やる。ヘリも攻撃をやめ、和也と里見も防護膜を解除する。
溢れかえっていた高校生は落ち着きを取り戻し、空太へと視線を移す。
いつの間にか上空に重なっていた暗い雲からは、ポツポツと冷たい雨が降り始めていた。
「俺達は、降伏する・・!」
段々と強くなる雨脚の中、その空太の声はやけに耳に残った。
そんな中、上品な傘を差した陰が、のっそりと政府軍陣営の間を縫うようにこちらへと歩いて来たのだ。
「おやおやぁ。ようやく降伏ですか」
見慣れた政府軍の代表だ。アマタはトランシーバーを通して声の小さい会話を盗み聞く。
「あぁ・・もう勝てない」
「今さら、というものですよね。
・・ですが、私たちの目的は変わりませんよ?」
空太は強く唇を噛みしめる。
「何とか・・ならないでしょうか・・!」
「何とか・・と、言われましてもなぁ」
フフ、と彼は汚く嘲笑う。
「此方としてはもう既に譲歩し続けてきたわけなのですよ。親御さんたちには元の居場所へと帰るための時間を必要以上に与えたつもりですし。
その上、今こうしてやっとこちらの秘密兵器の使用を許可したわけなのです。
あのような爆殺は・・人民主義国家として、人道的にも憚られますからな。
正直此方としても使いたくはなかったのですよ」
彼は空太の周りを円周上に闊歩する。
「いやはや、予想以上でしたよ。序盤に関しては負けていたと言っても過言ではなかった。ですが、貴方達の敗因は主に二つです。
一つは人数、戦力に確かな限界が有ること。私たちは国です。貴方達に比べれば、ほとんど無限と言っても相違ないでしょう。それこそ、本当にいざとなれば外交を通じてアメリカにだって、核を要請することだって可能だったわけです。・・まぁ、どうあってもそこまでには至らなかったわけですが」
「貴方達は、本気になるまでもなかった・・と」
「えぇ。そして、もうひとつはそれら敵についての数的有利不利を知識として知り得ていなかった、ということです。
私たちは貴方達高校一年生が約一五〇〇人程ということを把握していました。ですが、貴方達は此方の戦力最大値を知らなかった。
だからこそ、私たちはどれだけの戦力を投入すれば最低限の労力、金銭で貴方達を殲滅できるかを考慮することが出来たのです。
情報を制すものは戦争を制す。そのままの意味です」
そしてもう一つ、と言い加えると、
「無様にも、ブラッドショックに陥った愚かなる人間を捕えることによって、それらに抗するウイルスを開発することが出来たこと・・でしょうか」
「・・そう、か」
アマタは一つの推測をした。
もしかして、それは荒谷のことなんじゃないか、と。
そして更にこんな蛇足を付け加えてしまう。荒谷のせいで、この戦争は負けるんじゃないか、と。
(僕は、本当に馬鹿かッ!!)
そんなわけが、無いだろう!彼女は最後まで僕らを生き残らせようと戦った。あの勇姿が、自分らにデメリットを生じさせるなど有り得るわけがないだろ!
アマタは自分の口内を噛み締め、血が滲む。
「どうか、皆を助けて下さい・・!お願いします・・っ!」
空太は頭を深々と下げ、雨が彼の背中を強く叩く。
空太は思っていた。こんな自分が情けない、と。こうして戦いさえ勃発していなければ、どうにかなったんじゃないいか。自分に、もっと正しく強い発言力を持ってさえいればなんとか丸く収めることができたんじゃないか、と。
せめて、親御さんたちだけでも帰してあげればよかったんじゃないか、と。
「貴方がこうして白旗を上げたからこそ、こうして撃ち方を止めているわけですが・・別に、此方に攻撃を辞める理由なんてものは存在しないのです」
アマタの背中に、酷く冷たい虫酸が走る。それは、今までで味わったことのないものだ。
ヤメロ。
アマタの鼓動が大きく一つ跳ねる。
荒谷の顛末が視界にフラッシュバックする。
「頼む!俺達は二度と、一生涯、地上とは干渉しないッ!だから!」
空太はズブズブになったグラウンドの上で膝をつき、情けなく頭を垂れる。
「情けない・・。大の大人が、こんなところで土下座ですか」
ヤメテクレ。




