第五章 四幕 そして、敗北へ
数分後、再び内部へと侵攻して来ると、陣営を住宅街で出来る限りの横へと広がらせた形をとってきた。
更にその手には新たに、何とも戦争には不向きな銃身が長いタイプのものを用いられており、どこか不安を催される。
「弾速が、上がるのかな」
アマタ自身それといった知識を持っているわけではないが、多分そうなのだろう程度の認識として弾速と飛距離、そして命中力が上がることが推測される。
逆に機動力と散弾力は減ると思われるが、そこは捨てた、という認識で相違ないだろう。
弾速が上がる。
それはつまり今まで超反応で回避を続けられていた従来の銃に比べて回避することが困難になったと思われる。
(でも、致命傷にはならないはず・・)
と、アマタは予想する。見た目から、単発銃、ボルトアクションになったことからこっちの爆発的な機動力が全面的に生かせるような気もするが。
「やーな予感がするな・・」
和也が後ろで呟く。
「やめてよ、和也のは当たるんだから」
里見が苦笑する。
その瞬間、それらの敵の武器を見た活力のある男子学生が校庭から飛び出し、上空へと舞い上がった。
(どうなるのかな)
そう思った瞬間。
瞬間、だった。
「え・・」
一発の弾丸が銃口から飛び出ると、それは男子学生の胸元へと命中し、地上へと突き落とされたのだ。
それだけだったら、まだ良かったのだ。
筋肉増強しているから命に別条はないであろうしまた立ち上がることは出来るはずだった。
立ち上がることが、出来るはずだったのだ。
彼は地に突っ伏したままに動きがない。
「どうしーーひっ!」
アマタが言葉を言い切る前にそれは起きた。
地に突っ伏したままの彼の体がボコボコと膨れ上がる。そして、
バァン、と。
血肉骨が、爆散したのだ。
「きゃああ」
「うわああああ」
たちまちに高校生の悲鳴が次々とあがった。
「う、嘘だろ、なんだよ、それ・・」
惨状を目にした和也は思わず呟く。
「い、いやぁ・・」
里見も、その声に乗じて不安の声を漏らす。
仲間の死自体は誰しも予想は出来ていたことなのだ。
だが、それは今の今まで無いことだった。
そして、それは唐突に、衝撃的にこの戦地に訪れた。
死臭が戦地に舞い、高校生の鼻孔を刺激し、不意にもメンタルを大きく揺さぶらされる。
政府軍は変わらずスコープを覗き、まるでそれが虫の一匹を落としただけかのごとく平然としていた。
「もう、無理だ・・」
校庭内の、誰か一人が呟いてしまった。
「ヤバい」「もうダメ」「勝てない」「負ける」「死んでしまう」
「この戦争は、負けだ」
負の連鎖は続く。一人の口火が切られたことによって誰しもそのような負のイメージが固められてしまう。
「おい!まだ戦えるぞ!」
空太がその状況を見兼ね、戦意の失墜を抑える。
だがその想いは無残にも打ち砕かれることになる。
「ソラさん、すいません」「すいません」「ごめんなさい」
「俺は、もう闘えない」
謝罪と放棄の言葉が並び、そして、
「「うわああああああ」」
無様にも、悲鳴を上げながら校舎内へと逃げ出してしまったのだ。
アマタはもう確信した。
これはもう勝てない、と。
一人の死がここまで戦況に対して大きな影響を与えるとは・・!
「和也、どうしよう」
「こっちも大変だ!」
「え?」
そういえば先程からやけに攻撃ヘリの音が大きく、聞こえてくるが。
見てみると、正に校舎四階と同等の高さを保っていたのだ。
「ど、どうして・・?」
「アイツラ、俺達の防護膜の内側に、攻撃ヘリごと捩じ込んできやがったんだ!」
「・・・どゆこと!?」
だからさ、と和也は簡潔に説明する。
和也と里見によって生成されるこの防護膜はあくまでも敵意、殺意のある攻撃をその膜にて沈静化、制止化させる能力だ。
だからその膜自体は難なく通ることが出来るのだ。その通る、という行為自体には攻撃という意思はないのだから。
だからこそ今の今まで少数ながらも校庭内部へと踏み込んだ政府軍だって居た。それらの結果から、こちらの能力を推測し、気付いたのだ。
だからこそ今こうして攻撃ヘリを超低空飛行することによって膜の内側へと入り込むことが出来、攻撃がまかり通っている。弾丸が、地上を襲っているのだ。
更に悪運は悪運を呼び、地上には通常の身体でしか無い大人たちの姿もある。
「和也!地上を守って!」
「どうすりゃいんだよ!」
和也の防護膜は和也を中心に球状に広がってゆく。ならばこそ、今のように球状を縮小させるのではなく核自体を移動させる方がいい、という意見を口にする。
「校庭に降りて!そしたら低いところから守れるでしょ!」
ヘリの飛行音に加え、それらの両脇に抱えられたバルカン砲の放つ音が相成ってアマタたちの声は通りにくい。それでもなんとか和也は理解し、
「・・了解!ほら、深夏行くぞ!」
「うん!」
と、一旦防護膜を完全に解除すると、勢い良く校庭へと飛び降りる!
それに続き、里見の少々の不安を抱えつつ飛び降りる!
「うーん」
二人は確かにブラッドクオリアによってこのようなアクロバティックを働くことができるが、さすがにアマタには無理過ぎる、ということで階段を使う。
早足にて階段を降りて行くと、案の定階数を下げるごとに高校生が溢れかえるようにそこには姿を表していた。
命が助からないことに絶望し、うずくまっている者、何とか生き延びようと何を思ってか上へと足を伸ばす者、ましてやそれらのぶつかり合いにより喧嘩をしているものさえも居る。
(これはもう、勝利どうこうじゃないな・・)
思っていると、
「ねぇ」
隣の男の学生が、うなだれた表情で声をかけてきた。
「・・どうかした?」
「月島・・だったよな」
「・・うん」
確か、看病していた時に気まぐれで話しかけて来た人だ。名前は失礼ながら覚えていないが。
「すまねぇ」
そう言って、彼は俯く。
「俺達は、もう限界だ・・」
「どうして・・まだみんな、戦える状態じゃないか!」
自分は、どういう立場で、どれだけ場違いな言葉を発しているのだろうか。
「無理だ・・目の前で、あの銃で打たれて、破裂したアイツを見た途端・・ブルっちまった。アレにはきっと・・俺達、対ブラッドクオリア用に作られたアンチウイルスみてぇなもんが含まれてる。あれに当たっちまったら一撃だ」
「それも、戦い方で何とか・・」
「なるのか・・?教えてくれよ、もう俺達にはわからない」
この状態になってしまえば、戦い方ではなく、如何に戦う、というメンタルに持ち込ませられるかのほうが重要に思えるが。
失墜された戦意は取り戻せるのか。
「策・・か」
とにかく今は精神論ではなく、本当にあの銃を攻略する方法だけを脳内で模索する。
「例えば・・さ。障害物とかに上手く隠れて、どうにか射線上に立たないようにするとかはどうかな」
「校庭に、障害物なんかないぞ」
「うーん・・」
また頭を巡らせる。
「僕な何かだとわからないんだけどさ。君たちの武器って、結局その尋常ならざる身体能力なわけだよね。
だったら、もういっそ銃弾を回避することに専念する、とか。銃口が光った瞬間に横に飛び去れば、もしかしたら対応できるかもしれない・・よ」
と、自信なさげながらもそれらしい意見を述べる。
「だが・・相手の数は、無数と言って相違ねぇじゃんかよ」
「それはさ、・・君たちの、群ととしての統率力が問われる部分じゃないかな」
なんて、戦えない男が生意気な口を叩く。
男は軽く頷き、
「・・わかったよ。ありがとう、一度皆に話してみるよ」
「礼を言わなきゃいけないのは僕の方だよ」
ペコリと、頭を九〇度まで下げる。
どうして、彼は、彼らはアマタに対して怒らないのだろう、という疑念を持ったのはもう何ヶ月も前のことだ。
明確な答えを得ることは出来なかった。それを聞くのはやぶさかではないし、それはそれで怖いでもある。
だけど、誰も怒らなかったわけではない。
里見深夏。彼女だけは、アマタに対して皆と違う感情を持ち、怒りとは違うが、呆れといったようなものがそこには確かに含まれていた。
「他の人よりは、関心があるって言えるのかな」
僕は里見が、きっと今一番恐れていると言っても過言ではない存在であるのだと思う。いつか、皆の前でアマタに対しての罪を言及されるのではないか、と恐れた夜もあった。それでも、彼女は何といったアクションを起こすことはなかった。
それはきっと彼女の確固たる優しさそのものなのだろう。
アマタはそっと校庭の方へと視線を移す。
校舎の中へと逃げこむべく走る高一と、同じく体育館へと逃げる高一と、人混みは両極端な構成になっていた。
それでも、校庭中心にはまだ戦意の残った勇敢なる者が一桁ながらも残っていた。
だが、
(あんなの、格好の的だろうに・・)
いくら戦意があったとしても、攻め入らない上、ああして立ち尽くしていては何のプラス要素も見出だせない筈だ。
だとしたら、なぜ・・。
「・・あ」
他の人を狙わせないため、か。自分たちがああして攻撃の的となることにより逃亡を援助することになる。
「ほんと、すごいなぁ」
感心せざるを得ない。
だが、そこで二度目の銃声は響いた。それとともに少々の悲鳴が上がる。
誰しもその瞬間、二人目の犠牲者が出ることを予見した。
だが、先程ほどの喧騒となるまでには至らなかった。
なぜなら、
「避けた・・!」
校庭にて仁王立ちしていた彼は銃弾を胸元すんでの所で回避し、銃弾は乾いた土へと突き刺さった。
(やっぱり、ブラッドクオリアで完全に反応できないほどの弾速じゃないんだ・・!)
だったら、まだ対処法はある。
ふと、校舎内へと視線を返す。
残念ながら、彼の功績はさほど影響をあたえること無く、多少のおぉ・・という感嘆が漏れるだけに終わった。
もう少し、なにかプラスの反応が見られると思ったが・・、とアマタは歯噛みする。




