第五章 二幕 開戦
「それが、貴方達の結論ですか」
耳から聞こえるのは手先の声だった。察するに相当集音性が高いマイクだ。
「俺達は最初から息子を捨てられるほど冷徹な心を持っちゃいねぇよ」
不敵に笑って、空太は返す。
「残念だ」
彼は胸元から一丁のリボルバー式の銃を取り出し、撃鉄を引き起こしてコッキングへと持ち込むと、銃口を空太へと向ける。
「オイオイいいのか?それはそっちから戦争をふっかけ、始まりを意味することになるぞ!?」
「随分と威勢がいいじゃないか・・。少し黙れェッ!」
バン、と。
双眼鏡から覗く先、その銃口先から光が放たれた。
(父さん!?)
アマタがそのままの姿勢で眼を閉じようとするが、直前奇妙なことが起きた。
「・・は?」
その声は政府の手先によるものだった。
それ自体に疑問符は思い浮かばなかった。何故なら、アマタでさえもそのその現象に対して同じを反応を示していたからだ。
銃弾が、その回転速度を止めないまま、校門直上一メートル空中で止まっていたのだ。
「え・・?」
アマタも、小さく驚嘆する。
血みどろが飛び散ると予測していた政府の手先はその状況を飲み込むことが出来ず、静寂の中で空中にて回転を続ける銃弾を眺めることしか出来ない。
そしてその回転がやっと止まると、校門を閉じるためのレールの溝へとカランカランと乾いた金属音が鳴る。
どういう理屈だろう、と思案していると一つの推測が脳に飛び交った。
「もしかして・・和也?」
「そうだけどよ・・ったく、空太さんも無理難題を俺に押し付けてほしくないもんだ」
どうやら和也の防護膜は校門までも支配権においており、半球状に広がった膜は校門直上を境においておいたらしい。
「もう一つの能力っていうのは・・」
「分かるか?」
この防護膜は確かにアマタは在ることを知っていた。それは先程和也が展開しているところを見ていたからだ。
それなのにもかかわらず、政府の手先が目の前にある防護膜に気づかず発泡した理由とは。
「・・透明度?」
「正解だ」
つまり彼はその防護膜の存在さえも相手に認識させないと。そう言っているのだ。
(だとしたら・・)
逆に考えてみれば、父さんだってハッキリと認識することは出来なかったはずだ。なのにもかかわらずこのようなハラハラとする状況を作るということは、つまりそれだけ和也のことを信頼しており、それだけの覚悟があったということだ。
「何・・!?」
目の前で何が起きたかわからなかった政府の手先は一瞬の逡巡を見せる。
「さァ、引き金を引いたな!」
ニィと空太は邪気の無い笑みを浮かべる。
「こっちは日本全軍だぞッ!その意味が本当に分かっているのか!」
「わかっているさ!だけどな、わかってるだけじゃだめなんだって!そんなことわかってたとしても、ここで諦めた時の事の方が、もっと分かりたくねぇ!」
空太は胸元から一つの大口径の攻撃用には適さない銃を取り出し、上空へと向ける。
「平和ボケした日本軍なんかに、負けるわけがねぇだろ!
俺達には、確固とした生きる権利があるッ!」
パン、と。
空中へと打ち上がられた火線は遥か上空へと舞い上がると、美しく紅色に爆音とともに散った。そして、それと同時、
「「「「「「「「オオオオオォォォォッッッ!!!!!」」」」」」
その狼煙を合図に、空太の背後に居た一五〇〇人に及ぶ高校一年生が声を張り上げ、校門外へと駆け出す。
その勢いはまるで命を失いかけていることに対して全くの恐怖を持たない、スパルタクスの如き攻勢だった。
「・・・っ!」
耳元から伝わってくる地響きのような音にアマタはとても耐えられず、少しボリュームを下げる。
「ハハ・・スゲーな、マジで」
「うん、ほんとすごいよみんな」
隣の和也と里見は温かい表情で上空へと両手を掲げたままに呟く。
そして、開かれた戦況は敵も同様であり、相手の徹底抗戦も始まる。
銃声が、金属と金属がぶつかる音が響き渡る中、ひときわ大きなバン!、という音が戦場に響く。
音の方へ視線を向けると、そこは校庭を囲っていたコンクリートの壁だった。
(壁を壊した・・?)
政府は事前に設置しておいた爆弾を稼働し、今その壁を破砕した。その理由は、
(校門からだけでは、内部へと攻め入れないから・・)
きっとそれで間違いないだろう。
マイクを片手で口元へと近づける。
「父さん、聞こえる?」
「あぁ!デケェ声で頼む!」
これでも十分デケェ声を出していたつもりだったので、もう張り上げる勢いで声を出す。
「学校周辺の壁が、全部爆発した!多分、事前に爆弾が仕掛けられてたんだと思う!あ、今そこからうじゃうじゃ侵入してるよ!」
「了解!」
はぁはぁと息切れする中、戦況は更にスピードを増して変わっていく。
空太は侵入してきた武装集団に対応するべく、高校一年生に対して指示を下し、扇状にその群れは広がっていく。
「・・・!」
アマタは目の前の光景に対して、果たしてこれは現実か、という疑問に対して明確な答えを持つことが出来なかった。
まさに戦争とばかりに飛び散らされる無数の銃弾、しかしそれを目で見て、体を意図して反応させ避けていく高校一年生。アマタの目には銃弾の方が遅く見えたほどだ。
更に、空高くへと舞い上がり果たしてどこへと思えば敵の密集陣形のど真ん中へと身を投じる勇敢なる戦士に、校庭の土を掘り敵の真後ろへと移動し撹乱する者、そして両手を掲げ、そこから火や水などの多彩なスキルを用いて戦闘に赴く者までいた。
端的に言ってしまえば、異景と言ってしまっていいだろう。
(凄いな・・!)
これは、勝てる。率直にそう思えた。
カシラであったはずの先ほどの政府の手先はどこへ行ったのか分からないが、パッと見た感じだと随分と優勢に思える。
と、そこでババババッと聞きなれない音が耳に入り、その方向へと首を傾ける。
上空だ。
(攻撃ヘリ・・!)
用いてくることは予想の範疇ではあったが、それでもヘリを用いてくるということはそれだけの準備を国もしてきたということだろう。
ドゥルルルルルルとヘリの両下部に備えられたバルカン砲が校庭内の者へと火を吹くが、
和也と里見によって鍛え上げられた防護膜を破るまでには至らず、放たれた銃弾は半球状に広がった防護膜の上で止まり、そこかしこへと滑り落ちていく。
「和也、もうちょっと範囲広げられない!?」
「イケる!学校周辺も囲むようにするぞ!」
校庭の外へと攻撃を仕掛け始めた学生もちらほらと見当たったための処置だ。
「まじで!私ちょっとキツイかも・・」
「頑張ろうぜ!」
「うぇ・・分かった」
二人は両肩を絞るような姿勢を取り、力を加え続ける。
透明度を増したその膜は見難いが、うっすらと視認できた光の膜は確かに遠くへ、高くへと広がりを見せた。
アマタはどこか小さな確信を、胸の中で抱いた。
これは勝てるぞ、と。そんな痛い妄想を。
口火が切られた時より、三十分程が経過した。
「こっちから見て右側!政府側の増援が来たよ!」
「了解了解!」
視点を移し、校門付近西側には幾人かの横倒れている人間が見当たった。
トランシーバーの周波数を体育館に居る大人の方へと変更する。
「こちら屋上監視係!校門西に負傷者が数人いる!救護班を向かわせて下さい!」
「分かった!」
双眼鏡を覗く先には、体育館から数人で構成された救護班が担架を持ってその場へと、人のゴミの中を器用に掻い潜って向かう。
体育館は現在、見た目はそのまま体育館そのものだが、臨時的に闘えない大人たちと治癒系能力を持った高校生による臨時治療施設という形を執っている。
迅速に出て入った彼らの動きは全て元々予定されていたものである。なら喧騒の中を上手に掻い潜っていった彼らはコツか何かを掴んでいるのだろうか、とアマタはひとつ考える。
負傷者の元へと救護班が辿り着くとーーどうやら後ろからの流れ弾が当たったようだーー決まった形でそれらの負傷者を回収する。
彼ら曰く、弾当たったとしても、凝縮、強化された筋肉によって体の芯までには届かないで、致命傷には至らないらしい。
それでもどうやら弱点があるらしく、筋肉が増強できない部位が自分の弱点らしい。それはどこか、と問うてみると膝の裏や肘の表、それに脇の下なんかが意外な弱点らしい。他はほとんどが固められており、胸元なんかをパンチしてもビクともしなかった。




