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敗北の旅  作者: 壇狩坊
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第五章 一幕 終局へと

五章


「いいか、よく聞け」

 戦争当日。三〇〇〇人にも及ぶ高校生が地下区域の一角へと集合し、壇上では空太が拡声器を手に声を上げていた。

「まずは一言。戦うことを決断してくれたお前たち勇敢なる戦士に、俺は全力で感謝する。ありがとう」

 高校生の中に微笑が生まれる。

「戦うキッカケがどうだったのかは、知らない。日本政府に対する復讐心かもしれない、誰かを守りたかったのかもしれない・・または、ただの興味本位だったのかもしれない。

 だが!今これから起きる戦争において!日本政府に対する恨みは一切合切捨ててもらう!いいか、俺達が戦う理由はただ一つ!ここら一帯の地下区域の独立だ!日本に対して恨みを晴らすわけでも、恨みを売るわけでもない!」

 空太は大きく息を吸う。


「これは戦争だ!だが、それは政府側の認識だ!俺達にとってこの戦いは防衛!

 未来を見据え、必ず相手に死人を出すな!」

 

 分かったか、と空太が言い終えると、

「「「はい!」」」

 三〇〇〇もの返事が地下一帯に響き渡り、ドォンと残滓を残す。

「・・良い返事だ。行って来い!」

 生地は黒く、背中に白で「Blood Defencer」の刺繍が入ったコートを三〇〇〇人は統一して着ている。それは反抗する力はあっても無用な戦いをする気はない、ということを相手側に伝える意味合いを持っているらしい。

 その黒い三〇〇〇人の内の一五〇〇人の姿が列を揃え、地上へと登っていく。

 聞くところによると、三〇〇〇という大多数の人間が一度の戦闘で出るとなると、逆に溢れかえる形になり戦闘が上手く回らなくなるらしい。

 だから、対策として一五〇〇と一五〇〇の前半と後半の二組に分けて様子を見ながら少しずつ交代をしていくという方針だ。

 前半には主力となる男子、後半には比較的女子が多い。だから前半一五〇〇人で勝負が決められるなら決めてしまいたいと空太は口にしていた。

 もっと細かな指示等はあったそうだが、如何せんアマタと和也、そして里見はそれら二班とは大きくかけ離れた別の指示を下されているので、後のことは聞かされていなかった。

 上へと登る途中、

「うわー緊張してきた・・」

 里見は腹を抑えてそう口にする。

「多分前線に出るヤツのほうが緊張してると思うけどな。俺は意外と緊張してないかな」

 他と比べれば安全そのものだ、と。和也は抜けた表情でそう語る。

 アマタはと言えば、高いところから皆を見下ろして、見たことを空太へと電話で伝えるという・・。

(なんか、申し訳ないなぁ)

 この罪悪感は今に思い始めたことではない。だが、恐怖心に負けたつけが回ってきたと思えば安いものだった。


 最初にこの穴蔵を通り終えた時は数十分もの時間を掛け、非常に長く感じたものだ。だが、この時ばかりは同じどころか上りなので更に時間を食うはずなのにも関わらず短く感じてしまった。

 そして、もう五ヶ月ぶりにもなる地上の空気は心地よく、南の空を見上げると丁度頂点へと太陽が爛々と輝いていた。校舎の中心に張ってあったはずの時計は爆発の衝撃で壊れてしまったのかおかしな時刻を示していた。近くの大人に聞いてみると、どうやら今現在時刻は一二時丁度らしかった。

「アマタ、深夏。屋上へと上がろう」

「・・うん」

 和也の呼びかけに応じる。

 校舎の中に入ると、いつも通りの下駄箱が目に入る。五ヶ月前の逃亡の際、一番初めに寄った場所だ。何となく塩らしい気分になってしまう。だが五ヶ月もの長い時間全く手を付けられていないせいか、どこか焼け焦げた匂いがそこら中に漂っていた。

 そしてそれは、一つの誤差を生じさせた。

「あ・・そうだったな・・」

 和也はカリカリと頭を搔く。

 それは僕ら三人が屋上へと上がるべく、最上階へと足を運んだ時の事だった。

「僕も・・失念っていうか」

「別に問題無いと思うけどね・・」

 五ヶ月前の爆発から全く手を付けられていない。

 つまり、僕達一年生が学習していた最上階である四階は爆発の衝撃から屋上が崩れ、そしてその瓦礫が散乱していた。この現在の月見高校における屋上といえるべき高さの限界はここ四階なのだ。

 それも前までここで普通に授業を受けていたというのだから笑えない。

「それじゃ、準備にかかろうか」

 和也は言う。

 アマタは首にかけられた双眼鏡で校門近くを見る。

 そこには一五〇〇人どころではない数の政府側の武装集団が確かに身を収めていた。

 意外だったのは、

(いきなり戦争、ってわけじゃないんだなぁ)

 やはりそれは父親の空太を含む大勢の一般市民が確かにそこに混じっていることが彼らが攻め入る要因において最大のネックといえるのだろう。

 最後の最後まで一般市民、つまり彼らが守らなければいけない存在が自分たち側へと傾いてくれることを信じていたかったのだろう。

 実際、そこまでの献身さがあるのであれば、此方にも譲歩してくれても可笑しくはないとも思えたが、そこはさすがに話が違うだろうとアマタは頭を振る。

 彼らは、僕らを殺しに来ているのだ。


 自分たちとは同種ではないから。   危険の可能性を持っているから。

          武力を持っているから。


 そんな理由があったとしても。

 人が無差別に同等、平等であるはずの人を惨殺していい理由などに、なるはずがない。

 アマタは一つ思い出す。

 今ここに立っている三人が奪った四つの命を。

 確かに僕達三人・・いや、四人は自分たちの利益の為に四つの待っている人がいたであろう人間を殺した。それは、きっと許されることではないのかもしれない。

 だが、そこには確かな理念、信念、貫き通す想いがあった。

 彼らのように異種をあざ笑うかのように殺したのとでは意味と価値が違う。

 人を殺す理由なんて、普通の人間なら持ち得ない事情だ。

(僕らは、彼らとは違う)

 確かに異種であることは、認めている。だけど、そこに異種だから、という理由で殺害を目論むことに此方側は腹を立てているのだ。

 彼らとは違う。日本政府との違いを証明するため、その為にこの戦争は繰り広げられるのだ。

 彼らは、きっと良かれと思いつつこの作戦に陽動されているのだろう。

 一つ、大局的な考えをしてみる。

 一般市民という善性を守り、高校一年生という悪性を駆除すべく突き動き続ける政府。

更に一般市民が悪性の味方をしているというのに未だそれへとすくいの手を差し伸べている。

 彼らは確かに仕事をしているのだ。国を守るため、治安を守るために。

 だが、そこに人情はない。すべての殺しの責任に、仕事という大義名分を載せ、自分の責任という柵から身を外すのだ。

 それが果たして悪いのかどうかは正直判断に苦しむ。当たり前だろう。

 彼らには悪意が無いのだ。良かれ、良かれと。

 分からせないければいけない。こっちにはこっちの生き方があり生きる権利がある、と。


 アマタは一つ息を吐く。

「・・アマタ?」

「月島くん?」

 目を閉じ、深呼吸をするアマタを心配してか、二人は声を掛ける。

「気にしないで。がんばろう」

 二人は頷き、慣れた口つきで口内を噛み切り、血を喉へと通す。和也曰くその感覚はまるで背中から羽が生えるような感覚、という妙な表現で、気持ち良くは無いらしい。

 和也の広げた両手から段々と広がっていく膜はその大きさの止めどを知らず、どんどんどんどん大きくなっていく。

 里見はその背後で和也の背中へと手を当て、力を送っている。

「おぉ・・」

 アマタが思わず感嘆する頃には和也は一段落終えたように額の汗を拭った。

「これも、ここ数ヶ月の鍛錬の賜だ」

「私は、ちょっと疲れたかも」

 防護膜は学校区域を半球状に覆うように張られており、その膜は敵意・殺意のある攻撃を通さない。

 これならば空中からの攻撃はある程度防ぐことが出来るだろう。

「ま、それよりアマタの気付いてないもう一つの能力があるんだぜ」

「もう一つ?」

「ま、些細な事だけどな。それよりお前も仕事したほうがいいんじゃないのか?」

「あ、うん」

 二人はこうして話しつつも意識は常にその防護膜へと送っており、きちんと自らがこなすべき仕事を遂行している。

 そんな二人をただ傍観しているわけにもいかないので、アマタは事前に空太から渡されたトランシーバーを手に、短い上下レバーを上へと引き上げる。

 このトランシーバーは空太のモノへと繋がっているため、事前に知らされていた周波数へと数値を調整する。

(これで、いいのかな)

 このような電気機器に強いアマタではなかったが、とりあえず言われたことは正しくやったはずだ。

 トランシーバーと連動したヘッドセットを頭へと装着。首にかけられた双眼鏡。そして皆と同じBlood Defencer の刺繍の入ったユニフォーム。なんとか立派な偵察隊のようになった気分にはなれた。

(ん・・きこえる)

 ヘッドセットの音源は空太の胸元へ付けられたマイクと繋がっており、ザッザッと聞こえることから察するに今グラウンドを歩いているのだろう。

 双眼鏡で状況を確認する。校門向こうには政府側多くの武装集団。校門の此方側、グラウンドに広がるのは一五〇〇人にも及ぶ高校一年生の群れ。その先頭に立つ人間こそが月島空太だった。

 同様、校門手前にも、二ヶ月前の憎たらしい表情が今でも思い浮かぶ政府の手先が仁王立ちしていた。

 数秒後、空太とその手先は近距離で相対し、眼光を散らす。

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