第四章 四幕 白日の元へ
そして更に半月ほどの時間が過ぎ、ここに来てもう二ヶ月という時間をここで過ごした事になる。二ヶ月前までの自分ならば想像だにできなかった。というか普通の高校生活が続くと思っていたのだ。
「アマタ!」
回想に浸っていると、背後から声がした。
振り返ると、そこには猛スピードで走ってきて、土を巻き上げながら踵で急ブレーキをかける和也の姿が砂埃越しに見えた。
「うぉ・・凄いね、和也」
「あぁ!もう動きたくて動きたくてな・・。さすがメルトブラッド、って感じだ。今までの価値観を覆されるような、そんな気分にもなる」
へぇーと興味無さげに嘆息を漏らす。
「感謝、したくなるくらいだ」
和也はそう、語尾に呟く。
「それはできないよね・・」
はは・・とから笑う。
「このメルトブラッドが原因で多くの人間が死んだんだもんな」
「メルトブラッドが、か・・」
だとしたら、少し自分とは意見が違えている。
「その力を、兵力として扱おうとした、政府が悪いんだよ」
「・・そう、だな。
むしろ大学時代に研究していた人たちは、一つの人類の夢を叶えようとしていたはずだ。今では悪魔のように思えるこのウィルスだって、元を辿ればただの好奇心から生まれたキボウのカケラ見てぇなもんだったろうな」
そして、和也は結論付ける。
「力は悪くない。使い方が、悪いんだ」
そして、その間違えた使い方をしてしまった政府は、その尻拭い、もとい全てを帳消しにしようとやっ気になり、皆を殲滅させんとした。
「・・・」
なんとなく、何を口にすべきか言い淀んでいると、
「って、アマタ、そうじゃねぇよ!それどころじゃねlんだよ、アマタ!」
「え?え?」
二度も名を呼ばれ、両肩をガンガン揺さぶられ頭の中がグチャグチャになりかける。というか、血の力によって腕の筋肉も増強されているので、中々に肩が痛い。
「俺に、固有のスキルがあったんだ!」
言われ、調査員としての自分の責務を果たすべく、
「良かったね。じゃあさっそ」
「薄い・・」
「え?」
一変したその和也の表情に少々の戸惑いを隠せない。
「もうちっと喜んでくれればいいだろうにな」
呆れるようにそう視線を送る。
「え?や、やったーわーいわーい今夜は赤飯だー!」
「棒読みにも限界が無いな・・」
喜怒哀楽が薄いことが月島天太の真骨頂だ、誰かにそう言われたのは数日前のことだ。
「で、スキルって言っても、どんなんなの?」
矢継ぎ早にアマタが問うと、
「バリヤーだ」
「バリアー?」
「バリヤー」
何となくどこに語弊の違いがあるのかは丸分かりなのだが、そんなものはもうサイゼリアにおける討論で終えていた。
「ま、ちょっとオレのことを殴ってみろよ」
「え、いいの・・?」
バリヤーというのだから大丈夫なのだろうが、しかしこの至近距離で有効なほどに汎用の聞くものなのだろうか。だが、見てみぬことには判断できないので和也が唇の端をかみきり、地を飲み込んだことを確認すると、
「おりゃ!」
「いてぇ!」
アマタの打撃はいとも容易く和也の胸骨を穿った。
「え、ちょ」
「いやなんかその、悪意というか、ほんとに殴るぞーって感じで来てくれないか?」
何となく無理難題とも思えたが、たしかに冗談交じりのパンチであったことは事実なので。次は本気で殴ってみようと思う。
「ぐほぉ」
再び、胸に大きく字を広げた和也は、その痛みに耐えかね、地面に膝をつく。
「え、ちょ」
二度目となるこれはハッキリ言って対処不能だ。
「えーっと・・」
言い淀んでいると、和也が立ち上がる。
「こ、このようにわかると思うけど・・」
「う、うん」
満身創痍から語られる言葉にはなにか重みがある。
「スキルを持っていると、基本的な能力が弱体化されるらしい」
「え、その証明だったの?」
「聞くより見たほうが実感得られると思ってな・・」
じゃあスキルは発現していなかった、ということだろうか。
「俺のスキルは悪意、敵意を持つ人間からの攻撃を防ぐ、障壁使いだ」
「障壁?」
と、そこで和也が両手を前に出してその前には確かに透明の膜のようなものが浮いている。
「え、でもこれペラペラっていうか・・透き通るよ?」
「だーかーら!悪意、敵意を持つ者からの攻撃しか止められないんだって!」
なるほど。だとすると・・。
「僕に実験は無理だね」
「ま、実際そうだろうな・・」
虚偽の悪意を持つなんてのは、アマタにとっては無理難題だった。
「おらぁ」
と、突然和也がアマタに対してボディブローを繰り出した!
「ぶふぅ」
アマタは何処か骨が折れたような気がしてその場にうずくまる。
「ほらぁ、俺がウザいだろう?反撃してこいよぉ」
アマタには和也の意図が汲み取れた。つまりは悪意、敵意を無理矢理にも生み出そうとしているのだ。
「無理だよ・・」
「ビビってんのかー?」
そりゃぁビビリもする。和也は元々野球部で相当のスポーツを繰り返してきた上に身長に関しては僕より随分と大きい。
反してアマタはか弱い存在であり、スポーツに関して特に何もしていない上、身長は里見と張れるくらいだ。
ビビリもする。だけどそれ以上に無理な理由が今出来たのだ。
「折れた・・かも」
「、え」
かくしてアマタは、自覚していないほどに大きなブラッドクオリアの力を持ったある個体からの不意打ちにより、全治二週間ほどの軽い骨折という面倒を背負ったのだ。
確固たる、メルトブラッドの力というものの偉大さが証明された事実と共に。
そして、三ヶ月が経った時、ついにその状況は動いた。
怪我が治った僕は和也の能力がどこまで有効なのか、形状変化は可能なのか、等々実験している時、一つの一方が地下ぐらしの僕ら全員の耳を劈いた。
「地上の奴らが、俺達を見つけやがった!」
状況を図るに、どうやら地上の月見高校で出入りをしていた人物がおり、どうやら今、
学生は別の場所で校舎を開いているようで、そこで改修中の高校に部外者が参入しているのがおかしいと見た政府側の人間が背を追ったところ、この地下施設が見つかったらしい。
「すまない、みんな・・」
見つかったその人物は一人の親だった。どうやら地上からの食糧配給絡みだったらしい。
「仕方ねぇことだ。いつかこの日が来ることは、分かっていたんだからな」
なだめる意味を込めて、空太はその男性の背を叩く。
「でも月島さん、半年はバレず持たないと、ここは自立できない、と・・」
「・・あぁ、大丈夫だ、それなら」
そう言って、空太はその場を離れた。
「ついに戦わなくちゃいけないのか・・」
和也が隣でぽつりと呟く。
「父さん、ほんとに大丈夫なのかな・・」
「大丈夫って・・何が?」
「空太さん、どこか体調が悪かったりしたの?」
和也と里見。双方がアマタの言葉に疑問詞を掲げる。
「ううん、そうじゃなくてさ。ここは半年地上からの支援を続けられることでやっと自立することができるようになる、って話は知ってるよね」
二人はコクリと頷く。
「だけど、こうして政府の人たちにはその半分、三ヶ月しか経ってないのに露見してしまった」
「つまり・・空太さんが嘘をついたってこと?」
里見が隣でそう答える。
「うーん・・嘘、っていうか」
アマタはその口を渋る。
「優しい嘘、つーことだろうな」
「和也?」
突然何となくかっこいい言葉を発した和也に僕ら二人は首を傾げる。
「だからあの状況で「まだ三ヶ月あるから大丈夫じゃない」なんて言ったらよ・・」
「そっか・・あの背を追いかけられた男性の重荷になっちゃうんだね」
だからあえて嘘をついた、と。
「だとしても、どうするんだろ、父さん」
嘘はあくまでも嘘だ。実際、食料の備蓄がなくなってしまえばその言葉が虚言であったことなど、即効で露見してしまうだろう。
「俺は、むしろ警戒すべきなのはそこじゃねぇと思うけどな」
「え?」
つまりは考えうる最悪の仮想、それこそが現実となるのだ。




