第四章 三幕 能力発現
後日、ブラッドクオリアを望むものに対し、本格的なブラッドファイア導入の日が来た。
どうやらその様子は一般的に公開されるようで、たくさんのギャラリーの中、和也と里見はその小さな一つの錠剤を口に含む。すると、彼らの目は段々と細まってゆき、意識を遠ざけた末に眠りについた。
空太曰く、
「三日間をじっくりと時間を掛けてブラッドファイアは体中に広がったメルトブラッド因子をほぼ死滅させる」
ということなので、その間は身体は独りでにもっとも安静状態である睡眠という形を取らざるを得ないということなのだそう。
そして話す相手もいないまま、長い三日間が過ぎると、二人と他の被験者は目を覚ました。
「三日も、経ったのか・・」
「暇だったよ」
どうやら和也からしたらまだ三日前の錠剤を飲んだその時から数秒、という感覚でしかないらしく、時間感覚がどうにも掴み難いようだ。
和也は自分の両拳をグッパさせ、頬を緩ませながら言う。
「凄いな・・体の奥底が焼けているようで、力が湧いてくる・・!」
実の所、アマタは空太勅命の係を受け持っていた。それは、ブラッドクオリア化した人間の高度な身体能力よりも、誰が千載一遇の戦闘財産となる固有の「スキル」を持っているかどうかの調査だ。
朱雀から聞いた話だが、彼のように土を操ったり、光の血者のように電波を辿ったりと、特別に人間の枠から離れたブラッドクオリアに目覚めた人間は第二期被験者十四人中たったの五人だったらしい。
ここから分かるに、その能力に目覚めることができる確率は約三分の一であり、アマタはそれを誰がどのようなスキルを持っているかを調べることが任じられていた。
「・・ってことでさ。朱雀さんは自分で気づいたって言ってたからさ。持っていたら気付くみたいなんだけど」
「そうなのか・・」
和也は少々の暗みを表情に映し、
「でも・・なんか微妙だな・・。あるんじゃねーかっていわれたらあるような気がするし、無いと言われたら確かに無いような・・」
うーん、と思い悩んでいるようだが・・。
「別に持っていてどうこう、持っていないからやっかみをかけるわけじゃないってさ。持ってない確率のほうが低いんだし、気にする必要は無いんじゃないかな」
「そうか・・」
黒木和也、保留、と・・。
和也は立ち上がろうとするが、
「あ・・」
バランスを崩し、タイルに尻餅をつけてしまう。
「まだ上手く立てねー・・」
「アハハ・・ま、まだ時間はあるだろうからさ。ゆっくりいこうよ」
政府との戦争。それまでの時間がどれほど残されているのかは、未だ分からない。
「和也、楽しそうだね」
少し離れたところに里見の姿もあり、そう微笑ましげに口火を切られる。
「そうだね。力を手に入れたことがそんなにうれしいのかな・・」
ハハ・・とつられて空笑う。
「里見も、よく決断できたね」
「え、褒めてるの?」
「い、いやそんなつもりじゃないけど・・」
そもそもの話、意外ではあった。そう積極的に行動を起こすような人物ではないような気がするし、理由がイマイチ不鮮明、というのが正直な感想だ。
聞いてみようか、とも思ったがそこまで踏み込む必要は無いと直後の考えでかき消される。
「月島君はさ」
突然久々の苗字で呼ばれ、なんとなく懐かしさを感じる。
「どうして、戦わないの?」
「そんなの、決まってる」
断言できるから。
「恐いからだよ」
「そんなの嘘だよ・・」
里見は目をそらして言葉を続ける。
「だったら、あの時銃で人の頭を撃つことなんて、できるわけが無い」
怒った口調でそう告げる。
「違うよ。僕は殺されることが恐いんだ」
「そんなの、変わらないよ」
その理屈は良く分からないが、殺すことと殺されることが同じとは、いったいどういう道理だろうか。
「変わらないよ・・。同じく命がなくなるんだもん」
「どこが同じなのさ。
僕は死にたくないって、そう言ってるだけだよ・・」
戦意の無い人間が戦場に立ったところで、タダの邪魔者にしかならないだろう。
「月島君は、もっとそうゆうとこ、ちゃんとしてると思ってた」
「別に軽蔑されたってかまわないよ・・」
僕は、もっと底辺の人間だ。君たちと行動をともにしたのだって、ただの運命のいたずらでしかない。過去という紐が、どこまで続くかなんてのは分からない。
「なんで、こういうことはハッキリと決断出来ちゃうかな・・」
「消極的なだけだよ」
僕に力なんて、似合わない。贔屓目に見ても、引き立て役がいいところだろう。
「和也はずっと待ってる」
「言ってるの、聞いたこと無い」
「言わないだけ」
「言えない事じゃないだろう」
「言ってほしいからなんだよ、月島君」
そんなこと、和也だけが思ってることじゃないってことくらい分かってる。里見も、空太も、朱雀さんも、多くの人間がアマタに対しては期待をしている。
だから、今ここで株を下げなければ。アマタは数多の責任を背負いきれず、つぶれてしまうかもしれない。
「私と和也。そしてアマタくんは、高校一年生のみんなをここ一ヶ月一生懸命看護してきた。それでたくさんの感謝の言葉を、もらったでしょ」
「・・うん」
だから、なんだよ里見。
「私たち二人がこうして戦うことを決意したことで、じゃあ私、僕も、って一緒に決意してくれた人だっている」
それも一つのキッカケ。ならばそれでいいじゃないか。
「・・いい? 私たち三人は凄く影響力があるってこと、自覚して。だから、」
「ごめん」
アマタが無理矢理にその言葉の羅列を切る。
「もう、いくから」
アマタはぱたぱたと逃げるようにその場を去る。
アマタにはあまりにも重く、面倒な責任を負わないために。
背中を見せる。あいつはタダの臆病者だ、そう確信させる為に。




