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敗北の旅  作者: 壇狩坊
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第四章 二幕 無戦意。

 空太はもう眠い、と眼を擦りながら部屋を出て行った。

 去り際、

「そういえば和也くんはどこ行ったんだ?」

 なんてことを問われたが、適当に誤魔化しておいた。別に言わなければいけないようなことでもないだろう。

 ベッドへと横たわり、重い目を閉じる。

(今頃地上はどんな状況だろう・・)

 多くの高校一年生が屍体として見つかるはずだったのに忽然としてその数を減らしているのだ。歩く死体、なんて都市伝説が出来上がりそうだ、と一人考える。

(でも何で父さんたちは救助の為に校舎の中へ入れたのだろう・・)

 ただ今、単純に疑問に思ったことだったが、案外この疑問には二三分と時間を要しても中々に明確な答えは導き出せなかった。たしかに朱雀さんや他の血者が力を合わせたりしたら可能なのかもしれないが、今の自分の知識では見当もつかない。

 そもそも焼けた校舎内には政府の人間だって居たはずだろうに。そんな中、救助活動など、たとえどんな力があったとしても・・。

 ・・・。

(・・どうでもいいか)

 アマタは一人嘆息する。

 もしこれが一つの物語なのだとすれば、読者はその全ての謎に対して疑問を持つかもしれない。だけれどこの世界はそんなフィクションじゃあ、無い。

 すべての事実一つ一つに過程がいるのか。違うはずだ。

 皆がこうして救出されている。何らかの方法で父さん達が助けだした。

 僕が今、こうしてそれを見聞きしているというのに、それに納得しない理由が存在するのか?

(・・そうじゃないな)

 別に納得しようなどとは思わない。ただ一つ、事実は事実だ、と。そう思いたいだけだ。納得はしていないのかもしれない。だけれど、納得しなくてはいけない理由なんてものだって、そもそも存在しない。存在したとしたらそれはあまりに強欲、もとい周りへの負担は少なくもならないだろう。

 理由も、納得も、道理も、過程さえもいらない。

 ただそこに救出できたという事実が、確かにあるのだから。


 それから三人は翌日から、医療活動を知識のいらない分野で手を貸すことになった。空太が反対をするかも、というアマタの小さな懸念は杞憂と終わった。

 そしてそれは思っていた以上の重労働であり、朝から夜までみっちりと体を止めることを許されず、ここはブラック企業か何かかと疑わされたほどだった。

 そして、そんな活動が続き、一週間が過ぎた頃のことだ。チラホラと体を動かせる人が出てきた所であった。

「君らはどうして大丈夫なの?」

「え?」

 突如話しかけて来たその青年は、校内で一度は見たことがあるのだが如何せん名前を覚えていない。だが君、と言っているので知らない同士だから気を遣うことはないだろう、とアマタは頭の端で考える。

「たまたま・・学校を休んでいて、さ」

 そっか、と青年は息をつく。

 別に嘘を吐きたいわけではない。だが、いまここで校舎から抜けだした、なんて言った所で妙な疑問が浮かび上がるだけだろう。

 例えば、実は前々からこうなること知っていた・・とか。

 そうなれば妙な疑いをかけられてしまうから、と自分を納得させる。


 そして、二週間が過ぎた。

 アマタはこの頃不思議に思うことが段々と増えてきた。それは、治った人間に対してこの地下施設について雑把に説明した所で、

「・・そうなんだ」

「へぇ・・」

 なんて、そんな薄い反応で済んでしまうところだ。

 皆の体に宿るメルトブラッド関連の話をしたところでも、

「・・だから、国は俺達を攻撃したんだな」

 などという、こういったいい意味で想定外の反応が多かったのだ。

 もしかしたらこのままではブラッドクオリア化を受け入れてくれないのかもしれない、という思惑があった。それは、そこに確かな戦意が伴っていないからだ。

 だがその思惑は、やはり都合よく破られることになった。

 一度、朱雀がその姿のまま超高高度跳躍や、土柱作り、穴掘りなどを見せると、

「スゲェ!」

 や、

「俺もなりたいっ」

 等といった、やはり高校一年生らしい無邪気な反応を見せてくれた。

(これはもしかすると・・)

 最高の形、なんじゃないか・・!?

 アマタだけでなく、空太に朱雀。他大多数の大人も、誰もがそんな期待に胸を躍らせていた。

 復讐心でもなく、防衛心でもない。第三の感情、好奇心は確かにきっかけとしての勢力を大きく広げつつあった。


 アマタがここに来てから約一月が経った。

 早い、あまりにも早いその一月の喧騒にまみれた日常からはようやく身を置ける落ち着きを取り戻し、各人休暇をとれる程度には余裕が取れた。まだまだ意識が戻らない人だっているものの、それに対応できる人員はちゃんと確保している。

 アマタ、和也、深夏の三人は患者から、そして一緒に医療活動を続けていた大人たちからも感謝の言葉をこれでもかと言わんばかりに伝えられ、胸の高まりを味わう。

 そして、ある昼のことだ。

「これから、皆にメルトブラッドについて。そして、ブラッドクオリアを受け入れるかの意思表示をしてもらいたいと思う」

 多くの高校一年生が食堂で昼食を食す中、事前に大人たちの中で話し合われていた案件が進められた。まだ皆のブラッドクオリアに対しての関心は特定の人間にしか沸いていないが、それでもそれをきっかけに皆が賛同できるようになればいい、という少し早計と知りつつの行動だった。

 しかし、やはり思い通りに行くことは難しく、関心を持っていた人でも自分から、というのはそれなりの決断のようで、集まった人数は男子数十人程度と収まった。

 何度か空太が声を掛けるも、だんだんと反応が薄くなってきた所で活動は打ち切りとなった。

「中々思い通りにはいかないね・・」

 里見は残念そうにそう呟く。

「俺たちがもっと誘ってさ・・空太さん助けてやろうぜ」

 そう目の前で和也と里見は相談を交わす。

「ブラッドファイアはいつ導入するの?」

 アマタが問うと、

「近いうちに行われるんじゃねーかな。立候補してくれた人から順次開始していく、って言ってたし。俺としてもできるなら今やってほしいくらいなんだけど・・」

 きっと和也は一ヶ月前からずっと待っていたに違いない。それより気になったのは最後の濁し方だった。

「・・けど?」 

 和也は顔を俯かせ、表情を悟られぬよう身構える。

「・・お前は、どうするんだ」

 和也はアマタに慎重にそう問う。

 だがその神妙さとは裏腹に、アマタは苦笑する。

「ムリだよ・・」

 弱々しく、苦笑う。その決意は変わらない。

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