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敗北の旅  作者: 壇狩坊
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第四章 一幕 共存or独立

ようやく四章です。

          四章


「父さん」

結局取るべき仮眠を取れなかったアマタは時計を見て皆の仕事が終わったところを狙って父親である空太へとコンタクトを取った。

「フゥー・・」

 仕事を終えた彼は、煙草を吹かせリラックスをした様子だ。

「・・どうした」

 空太は感じ取っていた。今のアマタがタダの与太話を自分へと話すためにここに立っているのではない、と。

「・・・」

 自分から話しかけておいて、中々に口を開かない。

 ハァ、と一つ空太が息を吐くと、

「お前の部屋、借りるぞ」

 互いの気持ちをぶつけ合い、互いが納得がいくためだ。空太は手持ちのシガレットケースを取り出してまだ余りのある煙草をその中へとねじ込んだ。


「・・どうして」

 互いに部屋の一角へと腰を掛け、視線を上げる。

「どうして、事前に僕達を助けることが出来なかったんだよ、父さんッ」

 考える時間は多大にあった。自分の心を平静へと落ち着かせ、冷静に話し合う心構えだって出来ていたはずだ。

 なのにこうしてひどく荒い口調になってしまう理由には見当がつかない。

 僕は感情表現がヘタクソって、和也言ってたじゃないか。

「・・ま、そう思うよな」

 アマタは朱雀からどこから何処までを聞いたかを話した。果たしてそれが一体どれほどの真相という真相なのかはわからないままに。

 アマタがそんな率直な疑問に辿り着いたタイミングは、実のところ一番初め、体育館裏にて出会った時のことだった。

「だって・・父さん達は、知ってたんだよね・・僕らが襲撃されることを、政府が作戦を進めていることを」

 それに対し、空太はごまかす気などさらさらなく正直な気持ちと事実を息子へとぶつける。

「勿論それらの作戦が施行されていたことは認知済みだった。だけど、それがいつ行われるのか、実行に踏み切られるのかは、それだけは確証が持てなかったんだ」

 そんな都合のいい言い訳があるか。アマタは心のなかでそう思う。

「方法だって、わからないままだった。ましてや事前に仕掛けられていた爆弾による範囲爆殺だなんてのは、想定していた薄い一本でしか無かったさ」

 だとしても。

「前々から・・僕達に警鐘を鳴らすことくらいは、出来たはずだよね」

 疑問詞は付かなかった。

「そんな迂闊の行動を起こして、国側にバレたらどうするんだ」

「・・そんなの」

 どうだっていいじゃないか。それによって国側は思い通りにはならなくなるのだから。

「いいか?昨日に行われた一連の殲滅事件は、国、政府が主導していると同時に、それ以上に国民が大きく加担しているということも、お前は分かっているのか?」

「わかってるよ。国民は沈黙を保つことが義務付けられているんでしょ」

 それは殺害した警察官から得た情報の一つだ。

「義務付けられたから従う。・・そんなの、一般論の一つでしか無いだろう」

 つまり、

「政府はこのテロと思われてもおかしくない殲滅作戦を遂行していく上で第一に大事にしたのは、完全に高校一年生を殲滅し切ることだ。

 だが第二のスローガンとして掲げたものは、『一般市民を傷つけない』だった」

「一般市民を傷つけない・・?」

 反抗、もしくはこの作戦のこと口に出した人間さえも処刑する、と全国民に公布した上で、そんなことを悟られたとしても果たして信じられるのか?

 ・・いや。

「それはそれで信頼に値する・・のか」

 真逆の事を言っている。

 反対行動を起こせば極刑に値する。

 だが何もしない場合は傷付けないことを保証する。

 だとしたら、国民はどちらへと身を寄せる?

 ・・一目瞭然じゃないか。

「こんなことをする、なんてのがいつもの日常の中の国民に知れたらそれはそれは大きなデモ活動に発展するだろう。だが、政府が堂々と公表し、国民の安全だけは必ず守ると保証している以上国民も迂闊な行動に出ることは出来なかった」

 そして、

「そんな中で、国民の誰かが俺達組織が形成していることを知った人間がいたとしたら、どうなる?」

「黙っている・・なんてことはできないね」

 それは、その沈黙は反逆行為と解釈されかねないからだ。

「そんなことになったら、まず真っ先に狙われるのは俺達、救援組織だろう。

 そうなってしまえばもう事態は収拾がつかない。まず俺達は自分の命を守るために逃走に明け暮れなければいけない。だが、俺達にはこの地下という空間がある以上保険という意味では守られていた。

 だが問題は高一共だ。警告を放ってしまった以上、全国の高一は逃げる宛もなくただ走り続けることしか出来ないだろう・・」

 確かにそうなってしまえば後の始末なんてのはどうにもならないだろう。高一共は強引に惨殺され、もしかしたら一般人にも被害は及ぶかもしれない。そして空太たちだって反逆行為と見なされ殺されざるをえないだろう。

「机上の空論とでも、なんとでも言えばいい。だけどな、多くの高一共を救助するためにも少なくとも一度は政府に攻撃をさせ、多くの犠牲を払ってでも俺達は生き残る必要があったんだ」

「だったらさ・・父さんの身内とか、その友達とか、そんな小規模な範囲の人間だけでも助けてあげればよかったじゃないか」

 言ってから思った。こんなに馬鹿な質問があるか、と。

 怪訝な表情を示し、空太は一つ問う。

「・・誰が、そんなことを許すんだ?」

 迂闊だった。

「先にも言ったが、俺達はひとつの組織だ。そして、その組織の指揮を執っているのはこの俺、月島空太だ。

 組織である以上、守らなきゃいけないルール、超えちゃいけねぇ「一線」ってのが存在する。それは組織の構成をブッ壊しかね無いほどに、デリケートなもんだ」

 アマタに対して呆れるように、空太は言葉を続ける。

「・・そんな中、皆が協力して、皆の子供が危険な状況だというのに、そのトップだけが自分の息子を身勝手に擁護していたら、どうなるかくらいお前にも分かるだろ」

 リーダーとしての空太は失脚し、トップのいない組織は自然消滅しかねないだろう。

「いい加減にしろよ、アマタァ・・!」

 その眼はギラつき、一種の憎悪を感じ取らせる。


「認めなくちゃいけないんだよ!俺達は既に一度あまりにも大きすぎる「大敗を」喫していることをッ!」


 空太は勢いそのままに言葉を続ける。

「国政府という俺達みたいな組織に比べたらバカ見てぇにデケェ組織にあまりにも大勢の高校生の命を奪われた俺達は、既に敗北者だ・・ッ!」

「ご・・ごめ・・」

 ごめんなさい、と。そう言えたら本当に楽だろうに、アマタは口を開けない。

「俺達の組織の中には自分の息子の屍体をその眼球に焼き付けたやつがいた。その人が今、どうしているか、分かるか?」

 声のトーンは微妙に下がり、先ほどのような畏怖は感じさせない。

「ち、地上に・・戻ったとか・・」

「あぁ、そんな人だっていた。だけど、お前や俺はそれを責められるか?」

 確かに、自分の息子を助けられるかもしれない、という名目で空太はやっていたとして、その望みは敵わないとわかった瞬間にその約束は切られ、絶望し、元の生活へと戻ってもおかしくない。

 むしろそっちの方が自然だ。

「だがな・・いたんだよ、来るべき、有志が」

「有志・・?」

 その意味をアマタは知っている。

「その自分の息子の命を失い、絶望をしてまでも・・いまだに俺達の救助活動を支援してくれる、そんな優しすぎる人間が・・」

「・・・っ」

 それは、一体どういう行動原理だというのだ。

「もしもだっ」 

 彼は強い口調で言う。

「もしも、お前が亡くなっていることを、あの場で目撃してしまったら・・俺は、この組織を指揮することなんてままならなかったと、思う。

 だから、だからこそっ!

 俺は、自分の子を失ってしまった親はたくさんいる。その中で、逃げ出してしまった人だって少なからず存在する。

 だけど俺は!その人達に対する、救済してやれなかった罪悪感に囚われるよりも・・」

 その眼は強い意志を抱いて、だけど弱々しく震えていた。

「失って、それでも他人のためにその人生を尽くすことが出来る俺が知るかぎり世界最高の救済者に!・・感謝の気持ちを、尊敬の眼差しを向けずにはいられないんだ・・!」

 僕は馬鹿で無知で。

「この施設を維持することだって、容易なことじゃあねぇ。患者だって、医療系の血の力を持ったやつが一人いるが、とてもじゃないが三千もの人間をまかないきれるものじゃあねぇ」

 父親の苦悩も知らず、あまりにも愚かな言動を繰り返してしまった。

「この施設は、そう言った私欲にまみれてない「良心の塊」みてぇな人間がいるからこそ、なりたっている、そういう場所なんだ」

 馬鹿な質問をしたなぁ・・!

「父さん・・ゴメン」

「別に謝ることはないさ。知らなかったお前が悪いわけがない。無知は恥じることじゃあない。

 悪いのは、知ろうとしないことだ」

 なぁなぁにしてしまう。それは非常に楽で、それ以上無い快楽だろう。

 だけどそれでは、上へといけない。

「むしろ知ろうとしてくれたことが、俺は嬉しかったぜ」

「父さん・・」

 僕は・・。

 アマタは逡巡し、その視線を俯かせる。

「どうしたら、いい?」

「どうしたら・・ねぇ」

 うーん、と空太は体を伸ばしつつ目を瞑る。

「茶、飲むぜ」

「あ・・うん」

 冷蔵庫から一つ500のものを取り出し、キャップを開けて喉を潤す。

「ふぅ・・」

 彼は今、質疑に対する対応を考えていた。

「お前にとって、今のこの状況における「勝利」とは、どんな形だとお前は見ている?」

「勝利・・?」

「先に言っておく」

 質問に対する答えを求める前に、彼は口にする。

「この先未来永劫、俺達に「勝利」の二文字は決して訪れない」

 断言する。

「・・え?」

「勝利、という言葉には相対性があり、相対するのは敗北だ。だが俺がここで約束する。

この組織から殺人者は出さない、ということな」

 先ほど朱雀が説明していた防衛力と繋がる話だろう。殺さず、勝つ。だが、この場合勝利という言葉は当てはまらない。なぜなら、それは敵、つまり国政府を「敗北」という形にはせしえていないからだ。

「俺たちに必要なのは、国政府と俺達との妥協点を探ることだ」

「妥協点・・」

 つまり互いが納得できる道理を、いかに見せつけられるか、だ。

「俺が一番懸念しているのはブラッドクオリアした所で兵力を持った高校生が憎しみ、憎悪、復讐心で戦いに臨んで反撃という形で敵政府の人間の中に死傷者を出してしまうことだ」

 あっさりと聞き逃してしまったが、空太は当然のように戦争が起きることを断言していた。

「いくら俺達が力を得て抵抗しようとも、敵は立派な一国だ。全勢力をかけてきたら勝てる見込みなど一分も残されていないだろう」

「だったら・・どうするの」

「あくまでもこっちからは「攻撃」ではなく「防衛」しているだけ・・。それを、兵力を持って証明することが必要だ」

「反抗はする。だけど、したくてしているわけではない・・とそう政府が理解した所でやっとまともに口論を交わせるわけだ」

 しかし、それはあまりにも難しすぎる難問だろう。

「あぁ。朱雀から聞いたそうだが、国がこっちを攻め入る理由なんてのはいくらでも思いつく。・・それこそ、口喧嘩で最初から済めば最高の形だが・・」

「じゃあ、父さんの思い描く最高の結末って?」

 そうだな・・と天井を見上げると、

「日本国民全体がブラッドクオリアした高一の安全性を認め、互いに共生していくこと・・だろうな」

 共生。それはあまりにも・・。

「だがこれはあまりにも理想論だ。更に目標は下げる必要があるだろう:

 アマタ自身、現にブラッドショックを引き起こしてしまった個体を見てしまっている以上ハッキリしていることがある。それは、少しでもブラッドショックを引き起こしかねない人間が身近にいるとしたら、それはまともな神経では生きていくことなんて出来ない、ということだ。

「現実的な線でいけば・・やっぱ組織の独立だろうな」

「独立・・」

 地上とのラインを完全に断ち切る、ということだろう。

「実際のところ、これだけの人材と血の力等々を合わせていけば、実質は可能だろうと思う」

「実質・・」

 引っかからせるような口調に、引っかかる。

「つーのも、今配給している食料やプレハブ、それに医療道具なんかはほとんどは元が地上の物資である上、今はまだ整った食料配給ができていない。

 必要なのは、なんだ?」

 アマタは昨日今日の二日でこの施設にある様々な施設を眼にしてきた。それは天井に吊るされた擬似日光であったり、場に合わないビニールハウスであったり、無理矢理にこじ開けた水路などだ。どれも不完全だッタという事実を吟味すると、必要となるのは・・。

「実生活を始めるための、準備期間?」

「半分正解だな。その期間を設けるために、密かに「地上側からのサポート」されることが最重要といえるだろう」

 食糧配給はいまはこの地下だけではままならないので地上からのサポートで賄う。そして、その食糧配給ラインが安定するようになれば、そこでやっと完全に独立という形をとることが出来るのだろう。

 だからまだその独立という形に踏み出すことは出来ない。

「それって、どれくらいの時間が必要なの?」

「ま、もうその準備期間は始まっててな・・今から必要な期間は」 

 彼は右の平手に対し、左の人差し指を差す。

「半年・・六ヶ月だ」

 思ったより短く呆気を取られる。

「それだけを耐え忍び、政府との戦闘関係を整えることが出来たら・・」

 あぁ、と空太は強く頷き、

「そこでようやく俺達は独立できるってわけだ」

終局に向かいつつあります。

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