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敗北の旅  作者: 壇狩坊
13/33

第三章 四幕 真相1

サブタイトル通りです。すいません。

 朝食場は朝空太が部屋へとやってきて、寝不足故の寝ぼけ眼ながらも耳を傾けると彼曰く、昨晩は夜通しで大変だった、等の世話話を聞いた。聞きながら、空太の持ってきた着替えにゆったりと着替えると、

「それでな、」

「終わったよ」

 空太のトークをへし折るように自身の行動の終了を告げる。

「ん、そうか、じゃあいこうか」

 部屋を出、眼前にいたのは、

「よ、おはよ、アマタ」

「うん」

「おはよ」

「うん」

 昨日の最後にわかれた時とは少しなにか吹っ切れたかのようにスッキリとした面持ちをした和也と里見だった。

 各々へと挨拶を交わすと(自分のは挨拶と呼べるのかは一体全体分からなかったが)、

「んじゃ、朝食だ。・・このプレハブアパートも、今はお前らしか使ってないが、アイツラ・・高一共が目を覚ましたら、もっと賑やかになるだろうな」

 果たしてそんな起きてすぐに賑やかに慣れるほど楽観的な人間がそういないと思うのはおかしくないだろう。

 食堂、と掲げられた看板が下げられた場所には相当に広いスペースが取られており、医療棟が学校の体育館ほどだとすると、こっちはグラウンドと言っても良かった。だが、外を見れば一目瞭然というものだが、この地下はかなり広い上にそのほとんどが自由に使っても文句を言われない立地だ。だとすると、この広すぎるスペースも漫画家で言う空白恐怖症のようなもので、なんとかたくさんの土地を使ってやろうとしたもったいなさからの精神なのかもしれない、とアマタは妙な見当をつけた。

 そしてもう一つは眼前には広々と広がりながらもそれを埋め尽くすかのように対抗するかのように人の数も並ではないことが一目で分かった。更に、彼らの目から感じ取れるそれは、決して充足のとれた生気を感じ取れないことも事実だった。

 それはそうと、空太が昨日言っていた三千人、というのも、にわかには信じがたかったが、こうして目にしてみれば何らおかしくないようにも思える。

 と、そこで数人の高一の親御さんであろう人々が前を通り過ぎる際、此方に目を向けた。

「誰・・?」

「怪我が治ったのか・・?」

「いや・・そんな報告は・・」

 との声が聞こえる限り伺える。どうやら現状では「完治して一人で動ける若者」というだけでここでは希少である上、奇異な目で見られるようだ。

 だとすると、

(あんまり、目立たないほうがいいのかも)

 しれない。ある意味、妬まれたりしてもおかしくない状況といえば状況だ。

 と、そこでその想いを案じたか、空太が、

「堂々としてて、いいんだ」

「え・・?」

 その言葉は凛、と張っていた。

「お前らは、いやお前らがここで堂々と生きれるために俺達はこうして活動しているんだ。

何をビクビクとする必要がある。

 何、彼らにだってその内気が向いた時に事情を話してやる」

「それでいいのかな・・」

 何しろ自分の子が重症の親御さんだって少なくはないだろう。だというのにのうのうを同じ世代の人間が歩いていたらさすがに不謹慎というものではないだろうか。

「いいんだ。彼らだって馬鹿じゃねぇ。黙るときは黙るさ」

「ふぅん・・」

 不安そうに三人は感嘆の声を漏らした。

 食堂の開店時間なんてものはわからないが、どうやら先程の此方を一瞥した人たちもそうだが、食事を終えた後だったようだ。予想でしか無いが、今眼の前にあるカウンターの前には数十分前には長蛇の列が出来上がっていたのだろうと推測する。

 トレイに載せられたへんてつもない朝食を手に、各自テーブルを囲むように席へと腰を落とす。

「あれだな、ほとんどコンクリートで出来てんのな・・」

 テーブル等を触り、和也が感慨に耽るように周りを見回す。

「昨日会った、朱雀ってやつの功績さ」

 朱雀・・昨日お目に掛かった、まるで怪人かのように土を操り、高く飛び上がった青年だ。

「・・・あ!」

 そういえばあの時、父さんの話が長々となって朱雀さんの話、もとい存在を軽く無視していたことを、一夜明け、味噌汁を啜る今遅まきながら思い出した。

「どうかしたか?」

「あ、いや・・」

 和也等はそのことを覚えているのだろうか。・・いやないだろう。和也の人柄ならばたとえそんな些細とも言えることだとしても多少の責任を背負おうとするはず、そして態度に見えるはずだ。

 今度会った時、謝ったほうがいいだろうか。

(・・いいんだろうなぁ)

 念には念、という意味でも悪いことは何も無いだろう。

 しかし彼の力とは一体全体やはり何なのだろう。多少頭を回そうとも、理論立てて説明することは可能という空太の言葉が全く信じることは出来なかった。

 それでも一つ、推測するならば。

(『人間』技、じゃあないだろうなぁ・・)

 少なくとも、だ。

 今さっきの空太の言葉でもあったが、朱雀さんがこのコンクリート等の施設におけるオブジェクトを生成しているのだとしたら、それはとても汎用性に富んだ能力である上、あまりにも一人に対してハードワークを押し付け過ぎではないだろうか。彼はこの地下そのものさえも自分がほとんど手掛けた、といったような事を口にしていたのでその功績は伊達なものではないだろう。

 朝食を続ける中、周囲に目を移らせると和也の面持ちが妙なことが伺えた。やはり、信頼してない、といったようなことはないようだが、どこか緊張の面持ちを隠せないようでいて、どこか彼らしくないように思えた。

 空いていた腹を満たすためにその心は食事に対して一心を投じているのか、沈黙が続く中、アマタは独りでに口を開く。

「それで・・父さん」

 その後に質問を投じようと口を開きかけたところだったが、それは叶わなかった。

「少し、待ってくれ。実は、呼んだ人がいるんだ」

「人・・?」

「あぁ。和也くんと、深夏ちゃんが一番気になっている人、さ」

 と、和也が視線を浅く上げる。

「俺達・・が?」

「あぁ」

 一体誰だろう、とアマタはひとり思いを巡らせていると、横目に小走りで近づいてくる人物が二人、目に入った。そしてこちらへと目を付けるとパッと明るい表情へと目を見開き、

「深夏!」

 今声をかけた、二人の内一人の女性は後ろ髪を首筋辺りで結び、服装は一般的な薄い青のロングスカートに少し余裕のある同色で無地のTシャツを着用している。顔柄は地味な服装に反して比較的若めのように思える。

「マ・・ママ!」

 応じて、深夏がガタッと椅子を押し下げて立ち上がる。

「和也・・」

「父さん・・!」

 同様、もう一人の男性は温厚そうな面持ちで、メガネを掛けている。工事現場のような服を着ていることから、もう一人の女性よりは肉体労働的な働きに力を入れているように見えないでもない。

 里見の母親らしき人と深夏は実に一日ぶりの長い、長い期間の再会に胸を震わせ、抱擁を交わす。心情は同じなのか、和也も同じように安堵の表情を顔いっぱいに広がらせる。

 それを見る空太とアマタはその光景を微笑ましげに眺め、温かい何かが左胸に広がるのを感じる。

「俺の時は、お前、あんなに喜ばなかったよな・・」

「・・父さんが、悪い」

 何しろあの時の状況は此方からしたらあまりにも切羽詰まっていたというか背水の陣というか、とにかく跡がない状態だったというのにあのようなあまりにも悪意の塊にしか思えない行動原理はアマタには理解できなかった。

 それで感動しろ、というのもバカバカしい話だ。


「深夏の母、里見麗心です」

 ペコリと麗心は頭を下げる。

「和也の父、黒木桐獅です」

 二人共椅子へと座り、再びの落ち着きを取り戻す。

「えっと・・彼は?」

 里見麗心は遠慮がちにアマタの方へと平手を向け、空太へと視線を向ける。

「俺の息子、アマタ、月島天太だ」

「貴方が、空太さんの・・」

 もう一度こちらへと十五度ほど軽く頭を下げてくる。ども、みたいな感覚でアマタも同じように会釈を返す。

「あの・・まずはじめに聞かせてもらいたいのですが」

 里見麗心は更に口を開き続ける。どうやら最初の印象よりは随分と口が達者、というよりは無口ではない、という印象が植え付いた。

「深夏を・・守って、くれたのですね?」

 それはアマタと和也の眼を見ての開口だった。

「えぇ、っと・・」

 アマタはどう答えていいか分からず口篭らずを得なかった。

 それを見た深夏はフフッとほほ笑みを浮かべ、

「そうだよ。二人が・・和也と月島くんが、私を守ってくれたんだよ」

 だが、その表情は一瞬の暗闇へと堕ち、

「でも・・本当は、もう一人にも助けてもらったんだけど・・」

 さすがにそれ以上を今ここで説明するには深夏には荷が重かったか、そこからの言葉は続かなかった。

「・・そう。でしたら・・ウチの深夏が、お世話になりました・・っ!」

 と、告げ何度となく頭を下げると、両手で顔を覆い少々の嗚咽を喘ぎ始めた。

「ママ・・」

「本当に・・有難う・・本当にっ・・!」

 自分としてもそんな号泣されるほどのことをしてきた覚えはなかったが、こうも真っ向から感謝されて嫌な気がするわけも、謙虚になる気にもなんだかなることは出来る頭にいた。

 自分の子が、死んだと思っていたんだもんな・・そりゃあ生き残っていれば底まで感慨深くもなるのかもしれない、とアマタは一人目を細める。

「ねぇママ」

 落ち着きを取り戻した母親に対して深夏が話しかける。

「何ですか?」

 里見麗心という人間は娘に対しても敬語を使っているようだった。大した事情があるわけではなさそうだったが、非常に上品だ、という印象を聴き手に対して植えつけるには効果的は方法だな、と思う。

「パパは、どうしたの?」

「パパは・・地上に残っているわ」

 え、と深夏は少々の困惑の表情を浮かべる。

「てことは・・ウチも?」

「あぁ」

 同様、黒木家も同じ問答を繰り返す。月島家は・・聞くまでもないだろう。

「でも・・それって危険じゃないの?」

 不安げに深夏は空谷目線を移しつつ問う。

「大丈夫だ。安心してくれ。今地上に居る高校一年生の親御さんたちは、絶対に安全だ」

 断言した。

「・・どうして、ですか?」

「それも含めたことを・・今から全てここで話そうと思う。かなり長い話にはなるが・・理解してもらいたい、いや、しなきゃいけねぇことだ」

 グッと空太は右の拳を机の下で握る。

 その辛辣そうな表情から感じ取るに、これから明かされるであろう内容は、やはりその表情通りの物語、シナリオなのだろう。

 少し荷が重くなるのも、今の空太に比べたらクソ食らえのようなものだろう。

「と言っても、一体どこから話せばいいのかもわからないな・・」

 確かにこっちは知りたいことが多すぎて、だけれどもそれら一つ一つがつながっているのだとしたらちゃんとした順序を踏んで説明してもらわないと困るというものだ。

 初段階が一体何なのかさえ、わからない状況なのだ。

「じゃあま、とりあえずこの国の内状から説明しようか。

 お前らならわかってるだろうが・・国は今、全国の高校一年生を殲滅する、という目的のため、死力を注ぐという恐ろしい方向に動いている。・・いや、むしろ大半の作戦は終わった、というべきなのだろうが

 それは、それだけは警察からの情報奪取によって既知であった。

「だけど・・その、国が僕達、高校一年生を殲滅するなんて暴挙に出る理由は、一体何なんですか?」

 和也が真面目な表情をして空太へと問いかける。

「暴挙・・か。まぁいい。

 数年前の話・・と言っても数十年も前のことだ。

 日本はある事情から一つのプロジェクトを政府を通じて研究大学へと持ち込んだんだ。そのプロジェクト名は『ブラッドアーツ』。それがその時に政府が大学へと依頼し、ここまでの大事件へと至るまでの事の発端だ」

 数十年前と、回想のような話になり、突然遠い話のように思えてきてしまった。

「プロジェクトをその大学へと持ち込んだ理由。

 というのもその時期、ある大学が研究していたーー大雑把に言ってしまえば人間の血流速度や成分を操作し、その人間の形態そのもの変化を与える、という実験を成功させた」

 そこまでの大きな話しならば大々的にニュースになってもおかしくないだろうとも思ったが、アマタはそのようなことを聞いた覚えは一度もなかった。

「そこを政府・・いや、日本は目をつけ、これらの研究成果を世界に発表しない代わりに多額の報酬金を払い、研究成果そのものを政府そのものが創りだした「こと」にした。

 プロジェクト『ブラッドアーツ』。それは、日本を武装化し、世界においトップに躍り出るための「人材」をつくり上げることだった」

「・・何故、今の日本がそのような、まるで戦争を引き起こす火種のような事をする必要があるのですか?」

「世界恐慌、バブル崩壊。決定的だったのは二十五年前に起きた〈火種の分岐点〉。通称、ファウスト・ブレイク事件。日本のマイナーな宗教団体が膨らみアメリカ、中国に対し行った大規模なテロ行為。それらによる被害は数万人にも及んだ。

 当然首謀者たちは日本ではなくアメリカにおける裁判法にて裁かれ、今も牢獄の中で地獄を見ているやつだって居る。

 それから両国は日本に対しての外交をあまりにも理不尽な要求、要請を繰り返し、意図的に友好関係を断ち切ろうと必死になったんだ。数万人の犠牲は、日本という国にあると言わんかばかりにな」

 それに、両国はそれぞれ独立する力がある、と付け加える。

 ファウスト・ブレイク事件。それを耳にしたことがない日本人は現在いないだろう。何しろ今では小学生の教科書に乗っているほどなのだから。

「そして、膨らんだ赤字、高まる不満。日本政府が最も敵視したのは、どこだと思う?」

「米国や、中国じゃないんですか?」

「そうだ、冷静に考えればそうに決まっているんだ。だが、長い期間に及ぶ不満の声と経済的不安は人の判断を誤らせた。

 政府が敵視したのは、日本そのものだったんだ」

「どうして・・」

 深夏が眉をひそめ、神妙な表情で聞く。

「日本、というより、日本の憲法だ。・・分かるか?」

「平和主義を・・憎んでしまった、ということですね」

 桐獅がそう呟く。

「日本はそもそもの自信、勝ち目であった個人の技術、繊細さ、安定性。それらにおいてもう他国に対して勝利できる見込みを持つことが出来ず、経済は停滞どころか右肩下がりと言った風に変わっていた。

 だからこそ、いずれ底をつくことを知った日本は密かに未来における資源闘争に打ち勝つための軍国化を進めたわけだ」

「それが、『ブラッドアーツ』、ということですか・・!?」

「あぁ、そうだ。

 そして計画は順調に進められた。第一次実験では生まれたての赤子に対して投薬をし、数年の成長過程を経て、成功に終わった。実験で得られたのは、注入された薬物を総称した「メルトブラッド」の効果、効能だった。

 それは実に、成功の一言で済ますには勿体ないほどのものだった。皮質硬化に筋肉増強、脳内活性に視力聴力第六感、自然界ではあり得ない能力の発現、その他諸々大幅な一般人に比べたグレードアップが検出された」

 身体能力の強化。そして、自然界ではあり得ない能力の発現。それは・・あまりにも既視感か何かを感じさせる言葉だった。

「なにより研究者たちが熱狂的に燃えたのは、一般人との見た目の相違の無さだったらしい」

 ・・・?

(あれ?・・荒谷さんとシンヤは・・変わってたような)

 だがそもそも実はまだ全くの別件という可能性もまだ残されている。

 とりあえずその疑問は触れないでおく。何となく今だけは空太の独壇場のような気がするから。

「でも・・どうして、そんな人間の体そのものを変化させる、なんて難関は方法を取ろうとしたんですか?戦車とか、原子爆弾とか、別の方法があったと思うんですけど・・」

「私も、それ聞くとなんだか、人権的になんかダメな気がする・・」

 和也と里見がアマタの気配りを無視して間に割り込む。

「人間の体そのもの、というよりは中身を更に密にする、といったほうが的を射ているかな。君らの指摘はやはり最もだ。だが、最もであるが故に他国との闘争をするに関して、他国は警戒することは容易ではないだろう」

「どうゆう・・?」

「ま、一つの思いついた一例にすぎないが・・もしも各国にメルトブラッド被験者が送り込まれたとして、比較的小国ならば一体何人で制圧に至ることが出来ると思う?」

「小国・・というと、一国千万人程度だとして・・五百万人くらいでしょうか」

「十万だ」

 ・・・!

「メルトブラッド被験体十万人で一国を乗っ取ることが、出来る。それほどにこの完成された個体は破壊的に強い。そして更にこの数値は等比じゃあ、ない。コイツラ被験体はそれぞれ常人とは比べ物にならないレベルの知能も兼ね備えている。

 世界一の国と呼ばれている北アメリカを制圧するには、三十万いれば事足りるそうだ」

 三億にも及ぶ人間たちを、たったの千分の一の数で制圧できるというのか・・?

「父さん・・その数値、信じられるの・・?」

「さぁな。俺は奴らが出したリザルトを今記憶の中で読み上げているだけだ」

 それが頭の中全てに入っているというのも偉業と思えないでもなかったが。

「政府の考えていた作戦は一つ。

 各国の攻撃、防衛兵器の破壊と武力的制圧」

「そんなことしたら、死人がいくら出るというんですか・・!」

 和也は現実でないことを聞いているかのように顔を真っ青に染める。

「そうじゃないんだ」

「・・え?」

「世界を武力によって統治する。だがもう一つ、第三の項目があったんだ。それは、「殺さない」ことだったんだ」

「殺さないって・・そんな「理想的な」戦争が、可能なんですか?」

「だからこその人間兵器なんだよ。火器や銃器、爆弾なんかを頼ったら死人はどうやってもでる。だけど押さえつけるのが人間の手そのものだったらどうだろう?きっと世界的に見た大局的な被害は各国の抵抗によるこちらの少数のメルトブラッド被験体の方だろう」

「殺さずに、戦争を終えることが出来る、ということです、か・・」

 死の発生しない戦争。・・それは、本当に理想といえるのか?

 平和主義に反していないなんて、堂々と口に出せるのか?

 いや・・だからこそなのか。戦争はするけど死人は出さない。平和主義という言葉のグレーゾーンを狙った、ということなのだろう。

「だとしても、全ては机上の空論でしか無かったわけだが・・。

 と一まずこんなところか。質問は、あるか?・・あるよな、そりゃ」

 三人共、と思いきや麗心と桐獅まで挙手しており、皆に苦笑がおきる。

「ま、ちょっとおいて置かせてもらって、と・・。

 そうした目標を持った彼らは成功した実験体を元に更なる改良に改良を求め、強い個体を作るために大学と政府は多額の金と時間を費やした。

 そうして数年にも及ぶ研究の末、実験的に実用化に踏み切ろうと更なるステップを踏むことになる。政府は名も無いような孤児院から十五人の赤子を引き取り、隠蔽行為を巧妙に仕組みつつ、それら十五人を第二次被験体として使用したんだ」

 少し、疑問にも思う。

「十五人、ですか・・?」

 和也も同じようなことを思ったのか、小さく疑問を漏らす。

「あぁ。つまりそれはまだお前ら高校一年の世代じゃあない。大体一個上くらいだな。

 名前を持たない彼らには国から世界に向けての革命を起こす原点、という高位な存在として崇め、敬意を表してあらゆる神の名を授けた」

 神の名、なんて付けられたら正直生きづらいようにも思えないでもないような・・。

 と、そこでアマタは一人の人物を頭の片隅から呼び戻す。

「もしかして・・朱雀さん、って・・!」

「あ・・!」

 和也はアマタの言った意味を瞬時に頭中で理解し、それらの結びつきに驚嘆を隠せなかった。

「あぁ。アイツは第二期ブラッドアーツ作戦における被験体、十五人のうちの、一人だ」

 今まで懸命に話を聞いてはいたものの、どこか遠い話のように聞いていたものだから、突然身の回りの人間に関する事項になり、事の重大性、もとより問題は至近距離に在ることを再認識させられる。

「分かるか?

 昨日起きた事件はまるで機能が発端だったかのようにも思えたかもしれないが、もうずっとまえからその火種は散らされ、導火線は短くなりつつあったってことをな・・」

「じゃ、じゃあ・・なんで俺達が狙われることに、なってしまったんですか」

 和也が少々焦るように空太へと視線を上げる。

「政府はメルトブラッドの改良に加え、身体能力の強化、演算能力の向上、もとい効果効能が発現する時期が生後すぐでは身体が不安定なままに成長することを第一次実験で確認することが出来た。それにより、発現時期を生まれてすぐではなく思春期を迎え、感情の揺るぎが激しく身体において大きな変化が起きる十六~十七才をターゲットタイムとした更なる真のメルトブラッドの開発した」

「そんなことが、意図的にできるものなの・・?」

 空太は一つそこで深い溜息をつく。

「・・できるわけが、ないんだ」

「・・え?」

「ターゲットタイムを十六~十七才、というのは本当だった。大学と政府、そしてスパコンの超計算による演算、方法は全て、可能だ、という結論に達した。

 だが、それは全て、机上の空論でしか無かった」

「・・どういうこと・・!」

 里見が一体誰に対しその眉間の皺を寄せているのかは果たして分かり過ぎるものだが、今のアマタでもその感情は共有できた。

「そもそも十六~十七才の間に能力を発現させる、なんて言っているが、日常生活で学校から帰っている途中突然ボンッと空に飛べた、なんて、なるわけが在ると思うか?」

 おどけたように空太は言葉を続ける。

「研究員はそうはならないよう、軍国として闘ってもらうその時に、それを告げた時に発現できるよう、「トリガー」をメルトブラッド内に打ち込んだんだ」

「トリガー・・?」

 引き金、つまり発現するタイミングにおける状況、状態のことだろう。

「非常に大きな感情の揺らぎ、死に至らしめられた時に感じる恐怖、そして瀕死までに追い詰められた時の大量出血。それらを研究者たちは第二次被験体からの能力発現時のトリガーとして設定した」

 大きな感情の揺らぎ。死に至らしめられた時に感じる・・恐怖。

 その二つは、昨日の二人の犠牲を、強制的に記憶から脳内へと映像として流し込む。

「それらを彼らは第二期被験体から取り入れたわけだが・・ここで生じる問題とは、一体何だと思う?」

 問題。異常事態が発生した、というニュアンスであろう。

「正解は時間経過、という不確定要素の追加によるメルトブラッドの多種多様に渡る成長だ」

 分かるかっ。

「時間経過、十六~十七までの間体内に混在しながらも普通の生活が送れるよう調整はされていた。そもそもこのメルトブラッドは血中にごく少量の劇薬を注入するもので、発現することがなければ全くの日常生活において問題はなかったんだ。多少であれば出血をしたとしてもそのバランスが崩れることはなかった。それは研究者たちにとって誤差の範疇であり、計算にも含まれていた。

 だがその問題というのは、十五年近くに渡る体内混在によるメルトブラッドの成長であり、そしてそれは研究者たちとて知り得ないことだったんだ」

「それなら・・何故僕達が、こんな目に遭っているんですか?だって、それは第二期被験体の話ですよね?」

 和也は確認するようにそう空太を見る。

「そうだ。だがな、そういう意味ではそこの時間による成長というを取り入れ忘れた演算ミスは、今となっては些細な事とも言えないでもない。

 メルトブラッドは確かに成長した。だが、それでも発現する時期は変わらなかった。そして、お前らの一つ下が第二期被験体・・。

 さて・・この異常な問題に気付けるか?」

「異常・・」

 というと、どこだろうか。研究者たちはそのミスに気づくことが出来るのはいつだろうか。・・きっと能力の発現時、つまり十六~十七年後、ということになる。

 あれ・・それから十六~十七年後、ということは、

「もしかして、ほとんど現在・・?」

 そして更に気になるのは彼らは第二期被験体にもかかわらず自分らのいっこ下だということだ。

 つまり導き出される答えは。

「その欠陥的メルトブラッドを・・軍国とするべく政府は、全国の赤子に間違って注入してしまった・・ってこと?」

「そうだ。政府は最も大事なことである第二次被験体の実験結果を「机上の空論」として出してしまい、第二期被験体にメルトブラッドを注入して異常がなかったことから実験は成功したと「誤認」してしまった。これこそが政府が取り違えた最大のミスだ。

 成功と履き違えた政府はその流れに乗り、翌年の四月二日~翌々年の四月一日までの赤子に対し、メルトブラッドを・・」

 注入してしまった。つまりそれは、集団ウイルス感染、それも国が意図して行い、勃発した事件ともなるとそれはもう国一つの問題では収束は付けられないだろう。

 ややこしく入り組んだ話になり、少々頭の中がパンクしかける。プシューと煙が出てもおかしくないため、気休め程度に茶をすする。

 そういえばこの場は一応朝食、と題されたものだったはずだ、と思いだし、周りの皿等を見るとどの皿にももう既に食物は残っていない。どうやらもう既に全員が朝食としての集まりを忘れ、会議に夢中になっているようだ。

 当然それは自分らだけに限った話で、広い範囲における周りを見回せば、ほかに見当たる人間は厨房の中で働く数人のおばちゃんが忙しそうに働いているくらいでほかに見当たる人は皆無だった。

 それはそれで、静けさを増し、これらの会話のシリアス度合いが増え、聞くに聞かざるをえない状況を作り出す。

 空太はまだ言葉を続け、まだその終わりの兆候は見えない。

「そうして注入された世代、というのが、お前らというわけなんだ・・。政府直結の命令で全国の医者は生まれてすぐの赤子にメルトブラッドを注入した。メルトブラッドを注入したことを知っているのは全国の医者のみで、その両親には伝えられなかったそうだ」

 もし知ったとしたら、さすがに自分の子に対して怪しげな投薬をされていることは逆鱗そのものであり、きっとその時点でとんでもない事件にならざるを得なかっただろう。

 最も、その時に気づくことが出来ていれば、今のような絶望的状況にはならなかったのかもしれないが・・。

「その年の出生数は実に七十万を少し超えていた。その七十万超の赤子全て一人残らず例外なくメルトブラッドを打ち込み、十八年後には日本は世界に対しての革命を始める・・それが、その時の政府にとっての理想だったのだろう」

「だけど・・その十五年後、つまり俺達が能力を発現させるに至る歳になる直前に、第二次被験体が、欠陥的メルトブラッドであることを、証明してしまう・・ということっすか・・」

 ハァ・・と和也は大きく、呆れたような、諦めたような、複雑なため息を吐く。

 一段落ついたと認識したアマタが一つ手を挙げる。

「あのさ・・もしかして、その第二期被験体の人たちって、朱雀さん以外にもここにいるのかな?」

「あぁ。第二期被験体の一人がその成長してしまったメルトブラッドのせいで暴走してしまう・・これがつまり『ブラッドショック』、というやつだ。きっとこれが日本における一番初めのブラッドショックだろうな・・」

「え・・?二期の人たちって、もしかしてずっと研究所みたいなところに収容されていたんですか・・?」

 でなければ何かしらのニュースもとい騒ぎになっているに違いないからだ。

「・・あぁ」

 俯きがちに空太は答える。

「だとしたら・・朱雀さんたちは、ずっと実験体として十七年近くもの時間を過ごしたってことですか・・!?」

 昨日のあの表情や仕草。気さくな感じで先輩臭が漂うようで、頼れそうなそのイメージ。だけれどその実態は、それは奴隷に近い研究者たちにとってのモルモットとして使われていたんだとしたら。

 あの表情は、どこから来たのだろうか。

「それは違うぜ、和也」

 その声は背後からのものだった。

「朱雀、さん・・」

 一体どこから聞いていたのかは判らないが、そもそも彼は二期被験体なので事のあらましは全て認識済みのはずだ。

「違う、というと・・?」

「俺達十五人は元来名が無く、それは未来永劫変わらないはずだった。

 だけどアイツら研究者たちに俺達十五人は名前を授けられた。

 その、なんだそもそも俺達は孤児院にいたんだろ?親に捨てられて、世間からも後ろ指を刺されて・・」

 彼のその表情は何となく昨日とは打って変わったような哀愁ただよう雰囲気を感じさせる。

「つまり本来なら無かったはずの、本当の“人“としての生を与えてくれた。今となっちゃどう思えばいいのかなんて分からねぇ。だけど、確かに言えるのはあの場所で暮らしていた時の俺達は本当にアイツラに対して感謝の念を絶やさず持っていたってことだ」

 それに、と彼は言葉を続ける。

「あの時、あの場所での暮らしはまったくもって苦しいものではなかったんだ。欲しいものは言えば買ってきてくれたし、衣食住に関しては日本でも有数に裕福だといえるだろう。

 ただ外に出られなかっただけだ。他の十四人もいたし、研究者達だって仲良くしてくれたぐれぇだ。こんな暮らし、一生続いてもいいと思ったことだって一回や二回じゃねぇ」

「実験のことは、知らされていたんですか?」

「あぁ。今で言えば多分、まぁ見たことはないが学校の授業みたいな要領でメルトブラッド、もといブラッドアーツ作戦について説明された。その時は何の疑問も持っていなかったんだけどな」

 それ程に信頼を抱いていた、ということだろう。

 だとすると。

 それは、一度裏切られた時のショックの大きさは、尋常では無いんじゃないだろうか。

「俺達同い年の中でも最も長い年月を生きてきた四月生まれで男の奴がいた。そいつは気さくでムードメーカーで、そして・・一人の女に、恋心を抱いてたんだ」

 表情が変わり、話の内容が暗部へと落ち始めていることに気付かせられる。

「十六~十七になると特定の条件、つまりトリガーによってメルトブラッドを利用した人体強化、つまり「血の昇華」。研究者は『ブラッドクオリア』と呼んでいたな」

 単語をまとめてみる。注入する劇薬が『メルトブラッド』。つまり核成る血。

 それによる人体強化がなされることが『ブラッドクオリア』。すなわち血の昇華。

 それら全てをまとめる作戦名は『ブラッドアーツ』。それは、血から成る武装。

 そして、

「俺達の中でも細かに言えばソイツが一番上だし、やっぱりソイツが一番初めにブラッドクオリアを引き起こすんじゃねぇかとは皆思っていた・・。

 だが、そいつはその目に焼き付けた。

 そいつが好きだった奴と、他の男が接吻、もといからだを交わしているところをな」

「もしかして、それがトリガーに・・?」

「あぁ。何しろ広くはない施設だったからな。

 いよいよ始まったか・・そう思った。だけど、アイツの様子がおかしい、そう思った時には何かが壊れるような音が施設内に鳴り響いた。

 それは、ソイツがもう既に人間でない何かへと化け、暴走して施設中の物を、何からともあれ破壊し始めた音だった」

 そして、メルトブラッドの成長による暴走『ブラッドショック』。つまり血による暴走。

「そ、それで、どうなったんですか・・?」

「幸いけが人は数人で済み、事は収束を保った。そして、アイツは眠らされて研究者による研究対象となった。

 そうして数日が経つと・・気付いてしまったんだ。研究者たちの眼が明らかに前に俺達を見る目とは違う、まるで怯え、憎んでいる・・それは異物を見るような」

 それはどれほどに辛いことかは、果たして理解に及ばない。

「そして、俺は聞いてしまったんだ。研究者たちとの会話を。

『あいつらを生かしておいてはいけない』と。

 その時だったろうな。俺の人生における、最大に絶望したポイントは」

「その時、ブラッドショックには、陥らなかったんですか?」

 和也はそうハッキリと疑問を告げる。

「あぁいや。そこまでは逝かなかったな・・。何だ、個人差とかそんなのも在るだろうしな」

 下限の個人差は無いらしいがな、と付け加える。

「でもおかしくないかな・・。なんだか、その人間を兵器として扱うのだとしても、どうしてそんなに「曖昧な」兵器を作り出したんだろう・・」

 そうでもないさ、と空太が告げる。

「朱雀が言ったとおり、個人差はあるにしても下限の個人差はない、つまり必ず十六才以上には上がらなければいけないわけだ」

 そう聞くと確かに曖昧、というか適当な作戦には聞こえない。いや、もう作戦というよりは陰謀というべきなのだろうけど・・。

 ・・・まって。

「政府が昨日一斉に高一に対して攻め込んだのって・・それを知ってのこと?」

「・・気づくか、アマタ」

 思いつくことはつまり、高校一年の誕生日を迎えると晴れて一六才、つまりブラッドクオリアもしくはブラッドショックに陥ることが出来る年齢に達するということだ。

 そして今日の日付は6月末日。そして、空太の言った情報が確かだとすると、今この現時点でメルトブラッドの能力が発言しうるのは四~六月末までの人間、つまり全高校一年生の内の約四分の一というわけだ。まだその対応出来うる数だったからこそ政府は早い段階で攻撃を始めたのかもしれない。どうしてもそれより以前までには無理だったのだろう。

 自分たちがその作戦を勝手に進めておいて、いざアラが出始めたら全てをなかったコトにしようとする。

 それら日本の信じがたい陰謀を理解し始めると、事の大きさよりもその異常性に寒気を覚え、憎悪の念が耐えない。

 歯噛みする和也とアマタとは反し、朱雀は薄ら笑う。

「まぁ話を続けさせてもらう。それらを聞いた俺は他の十三人に対して全て話した。そして出た結論は施設の脱出だった。

 それらは決して容易じゃあ無かったが・・そして外で出会ったのが、このソラさんだった、というわけさ」

 つまりは偶然、ということだ。ぴん、とこちらへと指を銃の形にしてウインクをしてくる。

「さてと・・ここからはお前たちに関係が出てくる話だ」

「え・・?」

 薄々は気付いていたが、この長々と語られた説明があったとしても、今更状況は変わらないし、変えられない。アマタ自身としては具体的なこれから案を早く言ってほしいと頭の片隅でかすかに考えていた。

「朱雀が一体どのような経緯で昨日のような力を手に入れたか、ということさ」

 ・・・。

 言われてみれば、もっともな質問、いやメルトブラッド等に関連されてくるのだろうけれど、それでもどこかしらで質問をするべきだったかもしれない。

「そもそも俺が一体どうやってこんなにたくさんの情報を入手したのかなんて、一体全体皆目見当もついていないんじゃないか?」

「あ、確かに・・」

 思わず和也は呟き、言葉を待つ。

「それもこれも、『光の血者』の功績なんだ」

この物語はあくまでもアマタと和也と里見の物語です。

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