第三章 二幕 安全>>>>>>>>>>>>>安寧
アマタ、という人格は非常にわかりづらいです。
とは言うものの、やはり外出である以上慎重な行動、とゆうよりは意図的に不自然さを醸しださない、という行動は意識してみると少し難しいものであり、考えてみるとそもそも論としてこんな昼間から何とも黒光りが目立つスーツ姿が二人がモダンな雰囲気の女性を一人を連れ歩いているという姿は至って普通には見えないのである。
俯瞰から見てみれば、もうそれは質の悪いセールスマンと思われても仕方ないかもしれない。
とゆうか、先程から何回かすれ違う警察官はこっちを一瞥してはパトロールに戻る、といった感じで、どうやら本当に気づかれていないようなのだが、だからと言って果たして本当にやりすごせているかどうかは疑問である。こういった状況が無理にも疑心暗鬼に陥ることを余儀なくされるのだ。
「きょ、今日はきゅうりが特売らしいですわ!オホホホ」
なんて、里見は恐怖からか目が虚ろになってさらには不自然さを消そうと思っているのかもしれないが、むしろ際立ってしまうという有り様だ。
「里見、しゃべらなくてもいいよ」
「で、でもずっと喋らないのも不自然じゃない?」
「真っ昼間に三人のスーツ姿でスーパーの特売に行くほうがよっぽど不自然だっつーの」
なら黙って行くほうが無難だ、と和也は背後を一瞥する。
「尾行みたいなのもいなさそうだし、このままなら普通に辿り着けそうだな」
「そうだね」
そうして歩き続けて約二十分程。
スーツ作戦は以外にも功を奏し、校門前までは無難に辿り着くことが出来た。
「さて、問題はここからなわけだが・・」
三人は忍び足で入ってすぐ左にある体育館裏へと身を潜める。
「父さん、学校とか言っておいて、その詳細が分かんないんだもんな・・」
手中に在るその手紙をぎゅっと少々の憎しみを込めて握りしめる。
「やっぱり・・校舎の中とかなのかなぁ・・」
その里見の声は、やはり弱々しいものだった。当然である。残り男連中二人でも流石に気が引ける。理由なんて、言うまでもなく残酷なものだ。
その時だった。
「・・君たち?」
運命とかさだめとかそんなもので決められたことに一端の高校生が逆らえるわけがないんだな、結局ここでもう終わるのか。それが一人の少女の犠牲の上だったとしても。そう思ったアマタはひどく落胆した。
声をかけてきたのは、今まで幾度と無く見てきたジャングル柄の人間に近いが、微妙に柄が違う。だが、それでもひと目で公的動員だということは一目で予想できた。
果たして、どこまでの誤魔化しが効くだろうか。
「えっと・・少し様子を見に来ただけなんですけど・・」
「何言ってるんだ?ここは汚染物質が広がっている可能性が広がっているから今日一日は入ってはいけないと知らなかったのか?
アセスメントの人間とは思えないが・・」
イマイチピンとこない単語が出てきて和也の脳内は混乱が渦巻く。
・・?
「とりあえず、君たちを逮捕させてもらう」
ヤレヤレといった感じに懐からいくつかの手錠を取り出した。それに対抗すべく和也も持っていた伸縮式警棒を右手に構える。
・・おかしいな。
「アマタ、身構えろ」
「え・・あ、うん」
その違和感に取り残されつつも、自衛官の表情を伺いつつポケットからナイフを取り出してカバーを外す。
「・・うーん・・」
アマタは一つの事実を確信していた。それは溜息が出そうなほどにくだらない事実で。
と、突然自衛官はアマタの方へと突進を始め、
「闘え、アマタァァ!」
その強烈なタックルをひょいと横へ避けると、
「いい加減にしーろっ!」
ポカン、とアマタはその突っ込んできた後頭部に強烈なチョップをかます。
「いたっ!何すんじゃボケッ!」
「そっちが突っ込んできたんだろう・・」
呆れてものも言えないといった様子を見せつけるアマタ。それに対し、和也と里見は反応を見せることが出来ない。
「え、えっと・・?」
和也はその戦意の矛先を一体どこへ向けるべきなのか困惑がしばしば。里見はあいも変わらず和也の後部にて安全地帯を確保している。
さて、と体を起こした自衛官はその帽子をクイッと上へと上げ、その表情を顕にする。
「よくここまで来れたな。そしてよく生き残った。・・アマタ。そんでもって和也くんに・・えっと?」
「里見・・里見、深夏です」
「深夏ちゃんね、深夏ちゃん深夏ちゃん」
「そんな気安く呼ばないでよ・・」
アマタはその中年男性に対してハァとため息を漏らす。
「アマタ、これは一体・・」
「ああ・・ごめん、紹介が遅れた。・・とゆうかこのおっさんが悪い」
「おっさん言うなっ」
「父さん。月島空太。僕の父親であり、手紙の差出人だ」
と言われ、和也と里見はその見の硬直を一気に和らげる。
「なんだ、それ・・」
緊張していた身持ちだった和也はぺたりと地面へと膝をついてしまう。
「ま、そういうことだ。からかってすまなかったな。ちょっくら試しただけだ」
「試すって、父さん趣味悪い・・」
「なに、ほんの遊び心じゃないか」
ワハハと笑ってみせるが、和也はそれさえも呆然と見てしまう。
「ま、そのなんだ、俺は和也くんのことを覚えていたが、和也くんは覚えていなかったみたいだな。ま、それもそうか、赤ん坊の時くらいにしかあってなかったもんな。そりゃ仕方ねぇ」
ワハハと幾度と無く笑ってみせる空太。いったい今の世間の状況を理解しているのだろうか。
「ま、立ち話も何だ、こっちだ、付いて来い」
そう言って、彼は体育館の扉に鍵を差し回すと気持ちのいい音が鳴り、重い扉をガラガラと開ける。一度周りを一瞥すると、
「さ、入れ」
言われ、三人は中へと土足で上がり込む。
「なんでこんなところへ・・?」
「まま、いいからいいから。きっと驚くぜ」
ニヤニヤとへつらうその姿は無邪気だ。何とも父親と理解し難い部分もあった。
「つ、月島くんのお父さんって、何者・・?」
引きつった笑顔で里見がアマタを問う。
ま、そう思うよね・・とアマタは嘆息する。
そのなんだ、あまり言いたいことでもないが、隠すようなことでもない。
「・・医学者、だったかな」
「え、すごいじゃんっ」
言いたくない理由はすぐに自分とされてしまうからだ。とゆうか、兄妹ならまだしも親と比べるのはどうだろう。どれだけDNA過信してるんだよ、とアマタは切実な思いを胸中にて巡らせる。
数年前にこの事を一度クラスの友達に話すと、あってみたいという人が少なからずいた。だが、基本的に父は都会へとその身を繰り出しているので家にはそうそういない。そういえばここ一年近くあっていなかったことを思い出したのも今だ。だが当然、それらをはなしたところで小学生がそう簡単に信じるわけもなく、一時期うそつき呼ばわりされたことも事実である。
ちゃらんぽらんに見せておいて、その頭が常を逸しているところが、アマタにとってはあまり好いていない父親の部分だった。
天才、なのだ。
「ようし、入れ」
体育館の舞台裏へと案内され、入ると暗闇が広がっていた。
「足元気をつけてくれ」
「父さん、ここは・・」
言った所で空太は懐中電灯を取り出し、照らしだした先には更に奥へとつながっていそうなドアノブがあった。
そして、そこに鍵をさして開くと、そこはとてもではないが、学校側が意図して製作した空間とは思えない場所だった。あまりにも、狭い。横二メートルない程の四方部屋だ。
そこで空太はしゃがみ、張り付いていたタイルを剥がすと、思わず息を呑んだ。
「なんだ、それ・・」
目を疑った。まさにそれは秘密基地のようで、カッポリとそこには奥深い穴が在った。それは覗きこむとついその暗闇に飲まれそうなほどに深いように思えた。
「さ、ここから下へと下るんだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
ただ付いてきた和也はここで言ったんのストップを掛ける。
まぁ、当然といえば当然だろう。アマタの父親とはいえど、突如現れた中年オヤジに釣れられて、いきなり穴を潜れと言われればそりゃ疑心暗鬼にもなる。
一息を吐くと、
「この先に、一体何が在るんですかっ」
その強い口調に対し、空太は、
「そりゃオメェ・・秘密基地だろうが」
平然と、そう言ってのける。
「秘密・・基地?」
幼少時代の和也がもし聞いたとしたらたしかにワクドキものなのだろうが、この歳にもなるとさすがにただのいかがわしい単語にしか聞こえない響きであった。
「・・安全、なんですか」
神妙な表情で和也が再度問う。
「さぁ。それを獲得するのはオメェ自身だろうな」
「そうじゃなくて、」
「じゃあお前は生き延びれるのか!?」
和也の一瞬の反論に対して空太は強い口調で言い返す。
「地上の世界でこそこそと身を隠しながら過ごすのか?
周りの目ばかりを気にして誰にも自分を認識させないようにして生きるのか?
そんなきっぱりと世界から足を断てるのか?」
凄んだその声は、一層和也の精神を刺激し、酷く暗い表情を生む。
「果たして、そんな風に生きて、生きているって言えるのかねぇ」
空太は一本のタバコを吸い始める。
「フゥ。ま、そのなんだ、オメェが思うほどこの先は危なっかしい場所じゃあない。当面の安全くらいは保証してやれるだろうさ」
さぁ、どうする、と空太はその黒い右手を和也へと差し向ける。
「・・お世話に、なります」
「オゥ」
ニシシと笑い、二人は和解へと漕ぎ着けた。
・・里見は何の反感もないのか、ただ和也の後ろで佇んでいる。それが里見の意思ならば、それで全く何の問題もないのだが。
そうして、和也、里見、アマタの順に穴の側面についていた梯子へと手をかけて中を下り、最後に空太がタイル板を下部側からうまい具合にはめ込む。
思ったよりも梯子の距離は短く、そこからは全てが土で作られた螺旋階段が延々のように下へ下へと続いていた。
「これ降りるの・・」
円の中心側へとより、底を見下ろすが底が見えず、久しぶりの不満を漏らす里見。
「ま、そう長くは続かねぇ。数十分ほどだ」
数十分。それは、相当歩くということじゃないですか、お父さん。
「これ、なんですか」
と、和也は出っ張った青く太い管を指さす。
「あぁ、そりゃアレだ、電話線だったか。よく思い出せねぇけど、地上の人間のためのそうゆうやつだ」
イマイチ曖昧な言葉だらけで理解しづらかったが、なんとなく言いたいことは分かる。
「あんまさわらんといてくれ」
意識してみると、たしかにそこかしこにまばらに出っ張っている管は少なくなかった。
つまり世間には秘密裏に作られた空間、ということだろうか。
だったとして。どのような方法でこのような場所が作られたかは、まったくもって見当がつかなかった。
大体四十分ほど下り、更にトンネルを通って辿り着いた先は、
「な・・」
思わず、嘆息、というか、言葉にもならないものだった。
天井部には定滑車が八つ付いており、それを繋いだ幾本ものワイヤーの先には何とも重そうで分厚い鉄板が広々とぶら下がっていた。更にそのワイヤーはまだまだ下へと続いている。
それは詰めてみれば三百人ほどは難なく乗れそうなほどの広さであり、言ってみれば貨物用の大型エレベーターのようなものだった。
更に、続いてきた自分たちのトンネルだけではなく、そこかしこにそれらしきトンネルがいくつも連なっている。つまりここ以外にもつながっているということだろう。
「ま、さっさと乗ってくれ。これで最後だ」
三人は乗り、空太が端のほうでパネルを操作するとガゴンと揺れることもなくいつの間にか高度を下げ始めていた。
「父さん、ちょっと、こんなのいつ作ったのさ・・」
勿論一人ではなく、何らかの組織が作ったのであろうが、それでも困難を極めると思ったのだ。
「ま、そうだな・・一年前・・よりちょっと最近くらいだな」
その答えは非常に曖昧で何とも受け取れるような雰囲気の言葉だった。
一年前。つまり、一年の内にこんな大掛かりな工事を行った、ということか?そもそもどうやってこんな大きな部品をここまで運んでくるんだ?
「はぁ・・」
今日一日、こんな疑問ばかりだ。全く得体のしれない自体ばかりで、全くこっちの思考する時間を与えてもくれない。
このエレベーターも、妙なくらいに静音性が高く、それはそれで奇妙な感覚に囚われ、少し気持ち悪くなった。
「・・父さん」
「なんだぁ?」
疲れた所で、思いついた疑問を投げかける。
「・・本当に、この先は安全なの?」
「・・・」
アマタは疑問を感じていた。こんなにサバサバとした人間が、何故先程の問答に対して渋ることがあるのだろうかと。
対して空太は少々驚いた。自分の息子が、隠そうとしていた事実を突き詰めようとしてきたことに対して。
そもそもの話として。世間がこんな状況な中で、本当の安全が保証される場所なんて、あるわけがないのだから。
「当面の安全は保証する、といったはずだぜ」
「・・ま、そうなんだけどさ」
そういわれてしまえば、答えられない。
「・・お前をそんな人を疑う人間に育てた覚えはないぞ」
「正しく育てられた覚えもないんだけど」
そもそも期間的に彼に育てられた時間は多いとはとても言えない。日常的にそばにいたのはいつも母だった。父とは半年に一度会うくらいである。生活費を送ってもらってるので文句は当然言えないわけだが。
「お前、言うようになったなぁ」
「父さん、今がどんな世間か分かってるんだよね・・」
瞬間、表情を少しだけ曇らせ、
「・・あぁ、わかってるさ。お前以上にな」
「どういう意味?」
「そのままだ」
そういえば忘れてた、と空太は恥ずかしそうに頭を搔くと、
「・・アマタ。お前が帰ってきてくれて本当に良かった。ありがとう」
「・・何を今更」
死に物狂いで帰ってきたことを知ってのことなのだろうか、とアマタは考える。それでも照れを隠しきれず、少し頬を染めてしまう。
「で、で?質問の答えは?」
「あ、あーそうだったな・・」
と、親子似たもの同士で頭を搔く。
「いいか?安全っつーのはな、そこに在るものじゃない。自分で勝ち取るものだ」
「つまり、そこにはないの?」
「ある。だが、それは結局「当面」だ。本当の安全は保証できない。
だが、それを得るための力を手に入れる方法なら、在る」
「わからないな。なんで和也が安全を得る方法はあるのにそこは安全じゃないの?」
アマタが危惧していること。それは、
「和也に、何させるつもりなの?」
父親相手なので、少しだけ口調が強くなる。だが、それは気にならないほどだった。
「・・戦場における安全地帯ってのは結局その場しのぎなんだ。永住を保証するわけじゃあ、無い」
当然、ここの中が安全なわけも無い。
「和也くんだけじゃない。強制をさせるつもりはないが、深夏ちゃんにも、勿論オマエにも力を貸してもらう腹づもりだ」
その言葉の真意が一体何を指しているのかは一切合切検討もつかなかったが、あの時と同様、言いたくないことなのだろう。
「アマタ、覚えておけ。自分で勝ち得てやっと手に入れる安全、安心。
そして、他者に守られることを依り代とする安寧。
それは、全く違う、別物だってことをな」
安寧には、必ず限界がある。それが今空太の伝えたい思いであった。
そしてその真意が、ようやく勝利への兆しになり得ることを知るのは、もう少し後のことだった。
里見の口数が減る時期




