序章
3つ目。
序章
「ハァハァ、ハァ・・ァ」
僕らはひたすらに走った。背後より迫り来る脅威に満ちた怒号から逃げるようにして全力でその足を掻いた。
森のなかは足場が悪く、少しでも気を抜いたらなんの前触れもなく転がって捕まってしまうのだろう。
「、あ」
そう言って、予想通りというか、念頭に置いておいたためか、転びそうになった彼女の手を取って足を止めさせることを防いだ。
「あ、ハァ、ありがとう・・」
「・・・」
返事をする暇もなく、僕らはただひたすらに走り続けた。
なぜ、自分はこんなことにさらされているのか?
なぜ、今時分は逃げなくてはいけないのか?
そして何より一番に、なぜ僕らがなんとも重そうなアサルトライフルを構えた自衛隊などに追われ続けなければならないのか?
そんな思考は無駄なのだということはわかっている。それでも、1つだけ考えた末に出た結論がある。
それは、彼らは明らかに僕ら四人に対して圧倒的で、隠す気など毛頭ないかのような殺意があり、機会など伺うまもなく僕らを殺すつもりでいるということだ。
「ハァ、なぁ、やっぱり和解というのは無理なもんかよ?」
前を走る友人がそうひきつったままの笑顔で口を開く。
「無駄口をたたくな・・。転ぶし、舌を噛むぞ」
僕が答えるまでもなく、前の彼の隣を走る女性が呆れるかのような表情を浮かべる。
・・なんてクールな奴だ。
こんな状況にもかかわらず、彼女はいつも通りだ。
「冗談、だ」
息が切れかかっているのにもかかわらず、そう訂正の意を示す。
そんな軽口を叩くくらいなら、前後を交代してもらえないだろうか。
かくいう僕もそうやって自分の命が助かることだけを考えていた。
「ねぇ、あそこに隠れられないかな!」
そして僕の隣の少女がもうヘトヘトな表情でそう告げる。
彼女は・・僕と同じだな。
失礼なのかもしれないけれど。
とにかく、そう言った彼女の提案に従い、僕らは岩の間に身を潜めた。
聞こえるのは三人の疲労による激しい息遣いと自分の、高鳴りを収める気などサラサラ無いかのような心臓の鼓動だ。
「ねぇ、これどういうことなの・・?」
少し時間が過ぎ、皆の息が整った頃の事だった。
「さぁな・・けど、結局今俺たちにできるのはひたすらに逃げることだけだ」
にげる。
選択肢がそれしかない。僕はひとつのゲームを思い出した。たたかって技を決めるのか、アイテムを取り出して敵を捕まえるのか、はたまた手持ちにある他の使い魔へと変更するのか。
もう一つ、同しようもないときに使うのが「にげる」という選択肢だ。
だが、それにはひとつの小さな制約があった。
自分より強い相手から逃げられる確率は格段に少ない。
そんなことを考えているうちにバカバカしくなってきて、僕は一度頭を振る。
岩の間にはまだ先があった。どうやら向こう側の森へと抜けられるらしい。
「さてと・・そろそろ行こうか」
女がそう言った。僕らはひたすらに重い腰を持ち上げる。
そこには一体どんな感情から持ち上げられた腰なのだろうか。
行く宛もなく、ただ路頭に迷うような気がしてならない、そんな今の状況に。
「ほら行くぞ」
男は僕の手を引いてくれた。とても冷たく、冗談をいう余裕はただの見せかけだったようだ。
「・・うん」
弱々しく、僕はそう捨て吐く。何しろ彼なんかより僕のほうがよっぽど恐怖に怯えているからである。
一つ考えた。
これは、もしかしたら何かの旅の始まりなのではないだろうか?どんな物語でも旅の始まりは唐突であり、騒々しいものである。
そんなこと、無理矢理過ぎるポジティブシンキングだということは理解に容易い。
それでも、日常というモラトリアムに行き飽きていた僕にとっては一つの大きな、そう、壮大な旅でも始まったんじゃないかと、小さいながらも気持ちが高ぶっていた。
最後尾についていてよかった。きっと彼らが今の僕の表情を見たら薄気味悪くて僕が逃げられてしまうかもしれない。
「それはいやだなぁ」
孤独は寂しい。一人でも生きていけるけど、孤高というには恥ずかしい世代だ。
そして、僕ら四人は走った。ただひたすら目標もなく、見つからないように身を潜めながら。
もしかしたら、そこで僕らは捕まってしまったほうが良かったのかもしれない。
だって僕はまだ知らなかったんだから。
この旅は決して自らが勝ち得たものではなく、ただ愚鈍に敗北を繰り返すだけの旅となるのだから。
できれば感想お願いします。