表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感情喪失  作者: 娑紅羅月
4/17

袋の中身、新たな訪問者






「・・・・これは」



 莉彩は袋の中身を手にする・・・・・中身は、本だった。

タイトルは【迷宮幽霊】の特別続編、これは限定300冊で販売されていた代物だ。

迷宮幽霊は100万部を超えていて、しかも映画化をしていた程の人気小説で、なぜ続編が300冊という個数限定販売なのかは誰もが謎に思っていたのだった。


以前、オークションでたまたま見たときの落札額が、とんでもない額になっていたのは言うまでもなかった。

そして読みたい、と思う人はたくさんいた。


――――今それが莉彩の手の中にある、しかも無料で。

莉彩自身も大変読みたいものだった。正直、花とか、ぬいぐるみ、等の一般的なお見舞いはあまり好きではなかったので、もらっても困るものだった。

だが、これを本当にもらってもいいのだろうか、と思う。


莉彩はここで思いついた。



 本を読みたい、と思った、すなわちこれは欲求だろう、美味しい、不味い、という感覚もあった。

でも楽しい、嬉しい、悲しいとは感じない・・・・・何かの一時的なショックでこうなっているのではないのだろうか、いつかは元に戻のでは、もしそうなら戻ってほしい。と莉彩は思った。


なくてもそんなには困らないだろうが、味気ない人生で終わりそうな気がしたのだ。

もう、彼とは終わったのだ、あれほど悲しむことも恐らくないだろう。



おそらく今や、彼も莉彩もお互いの事はどうでもいいのだろう、という考えだったのだ。

新しい恋云々は今の莉彩には考えられなかったが、もし元に戻ることがあればそれもいいだろう、という考えを持っていた。

両親からよく言われていた、「人生は短いんだから、存分に楽しめ!」と。

彼らを見ていれば楽しんでいることが分かる。だからこそ娘にも楽しんでもらいたいのだろう。

小さいころから色々な所に遊びに行っていた。莉彩も両親も、出かけるのが好きだった。

今は仕事のためニューヨークにいるが、向こうでもさぞ楽しんでいることだろう。

(私のことなんて知らずに、ね)

莉彩は心の中で呟いた。






 どうしようか、と莉彩は迷っていた。

メールで今の現状を伝えようと思っていたのだが、いざ文章を作ってみようとなると上手に説明ができない。

元々メールを送ること自体、少なかったのだ。


打っては消し打っては消しを繰り返し続けていると、ついに疲れ、携帯を置いてベッドにくるまってしまう。

(どうしたものか)

考えてもいい案が浮かぶことはなく、時間だけが虚しく過ぎて行った。




 考えること1時間以上。

莉彩はやっとのことで文章を完成させ、メールを送ったのだった。



 時刻は20時28分。

メールを送信してからおよそ30分程度たった時の事だった。

ノックもなしにドアが開いた。

(来たか)

莉彩はベッドに潜り込み寝たふりをした。

「ちょっと莉彩?!って呑気に寝てるし!!」

「起こすのよ!今すぐ」

2人の会話が聞こえる、間違いなく、メールを送った例の2人だ。

仕事終了時刻は20時。

この時刻に友里が来ているということは残業はなかったのだろう・・・・・大方、美香が手伝ってやったんだろう、と莉彩は心の中で思い、ベットから起き上がりながら口を開く

「起きてますよ」



「理由もわからないの??」

先程から2人に質問攻めにされるが、答えることは「わかりません」しかなかった、むしろこっちこそ教えてほしい、と言いたいくらいだった。

2人は椅子に座って莉彩の方を向いている、一方莉彩はベッドの上で座っていた。


「医者とかには話したりは?」

「話してどうするの?感情が一部消えてるんです・・・・って?」

友里の問いに莉彩は即答した。

莉彩が答えると友里は「確かにそうか・・・・」といった。

医師に相談しても医師が困るだけだろうし、そんなとりわけ困っているわけでもなかった。



「じゃあ、・・・これからどうするの?」

次は美香だった。

彼女は椅子の上で険しそうな顔をして話をする、彼女だけではなく、友里もそうだったが。

「まぁ、どうしようもないと思うんで、しばらくはこのままかなぁー・・・。と思います」

一方莉彩は、何を考えているか全くわからないくらい無表情だった。

表情には美香も友里も気にしないが、口調の変化には流石に最初の方は驚いていた。


「このままなんて良くないわっっ!!何かしてみましょうよ、何か!」

「何か?」

ガタン。という音をたてて美香は椅子から立ち上がり、そう提案した。

その言葉に、友里と莉彩の目線は一気に美香に行く。

何かをする、と簡単に言うが、具体的に何をすれば元に戻る可能性があるというのだろうか。


「そ、それはまたあたしが考えておくわ」

ノープランだったようだ。

友里は期待の目を向けていたが美香の返事を聞いて脱力していた。

一方莉彩は「お願いします」と美香に言った。

2人は顔を見合わせ立ち上がり、ドアの方へ歩いて行った。



「何かあったらすぐに連絡して」

「わかった」

「退院したらメール頂戴ね」

「わかりました」


「「お大事に」」

「有難う御座います」

ベッドから立ち上がり莉彩は2人を見送り、再びベッドに戻った。



莉彩は携帯を手に取ると、すぐにメールを打ち始めた。

優真に、本のお礼をするためだった。


『こんばんは

本、有難う御座います、本当に、私がもらっても良いのでしょうか?』


と、言った内容の短文を打ち、携帯の画面に送信完了、と出ると莉彩は携帯を閉じ近くに置き、軽く食事をとって薬を飲み、すぐに眠りに落ちたのだった―――。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ