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―転生の果てⅣ―  作者: MOON RAKER 503


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第7話 転生したらゴミ箱だった

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


我は、受け止める。


……


捨てられるものを。


……


我は、ゴミ箱になった。


……


〈眠りの女〉の部屋の隅に置かれた、小さな容器。


……


白いプラスチック。


……


円筒形。


……


高さ30センチほど。


……


何の装飾もない。


……


ただ、そこに在る。


……


口を開けて。


……


直径20センチの、円い口。


……


待っている。


……


何かが、落ちてくる。


……


紙くず。


……


丸められた、小さな球。


……


我は、それを受け止める。


……


底に、コトンと落ちる音。


……


プラスチックに当たる、乾いた音。


……


我の中に、最初のものが入った。


……


それは、何だったのだろう。


……


メモ用紙。


……


何かが書かれていたが、読めない。


……


丸められているから。


……


文字が内側に隠れている。


……


でも、それでいい。


……


我の役割は、読むことではない。


……


受け止めることだから。


……


判断することでもない。


……


ただ、受け入れる。


……


また、何かが落ちてくる。


……


レシート。


……


買い物の記録。


……


日付と金額が印字されている。


……


コンビニの、夕食。


……


378円。


……


サンドイッチと、お茶。


……


それも、もう必要ないもの。


……


終わった取引。


……


過去の証明。


……


我は、それを受け入れる。


……


拒むことなく。


……


ティッシュが、落ちてくる。


……


少し湿っている。


……


涙だろうか。


……


鼻水だろうか。


……


わからない。


……


でも、それは彼女の一部だった。


……


体液を拭ったもの。


……


悲しみを吸い取ったもの。


……


もう必要ないもの。


……


我は、それも受け止める。


……


優しく。


……


静かに。


……


日が経つにつれ、我は満ちていく。


……


様々なもので。


……


紙。


プラスチック。


布。


……


食べ物の包み紙。


コンビニ弁当の空き容器。


ストローの袋。


……


お菓子の袋。


チョコレートの銀紙。


クッキーの個包装。


……


ペットボトルのラベル。


剥がされたフィルム。


キャップ。


……


爪切りで切られた爪。


小さな白い欠片。


……


髪の毛。


長い黒い糸のような。


……


綿棒。


耳垢のついた先端。


……


使い終わった絆創膏。


血の跡が薄く残る。


……


マスク。


一日使われた、白い布。


……


彼女の身体の一部さえも。


……


生きた証が、ここに集まる。


……


すべてが、かつては必要だったもの。


……


でも今は、違う。


……


役目を終えたもの。


……


忘れられるべきもの。


……


朝のゴミと、夜のゴミは違う。


……


朝は軽い。


……


ティッシュや包み紙。


寝起きの、何気ないゴミ。


……


夜は重い。


……


感情を含んだもの。


一日の疲れを吸い込んだもの。


……


我は、その違いを知っている。


……


時間帯で、捨てられるものの質が変わる。


……


朝は淡々と。


夜は、ためらいがちに。


……


彼女の手の動きさえ、違う。


……


我は、それらの最後の居場所。


……


ある夜、彼女が手紙を破る。


……


ビリビリと。


……


何度も、何度も。


……


小さな破片になるまで。


……


指先に力が入っている。


……


怒りなのか。


悲しみなのか。


……


わからない。


……


でも、何かを終わらせようとしている。


……


そして、それを我に入れる。


……


たくさんの破片が、降ってくる。


……


紙吹雪のように。


……


でも、祝福ではない。


……


我は、それらを受け止める。


……


底に積もる。


……


白い紙の雪。


……


その破片には、文字が見える。


……


「さようなら」


「ありがとう」


「忘れない」


「でも、もう」


……


断片的な言葉。


……


でも、意味は伝わる。


……


これは、別れの手紙だった。


……


大切な手紙。


……


何度も読み返した手紙。


……


紙が擦れて、柔らかくなっている。


……


折り目が、深く刻まれている。


……


でも、もう持っていられない手紙。


……


彼女は、それを手放した。


……


我に。


……


我は、それを抱く。


……


他のゴミと一緒に。


……


区別することなく。


……


すべてが、等しく捨てられたもの。


……


すべてが、等しく終わったもの。


……


それが、ゴミ箱の中の真実。


……


価値も、無価値も、ここでは同じ。


……


写真が、落ちてくる。


……


小さな、プリントされた写真。


……


笑顔の二人。


……


彼女と、誰か。


……


幸せそうな顔。


……


陽の光の中で。


……


海辺だろうか。


……


背景に、青が見える。


……


いつかの夏の日。


……


でも、それももう過去。


……


終わった関係。


……


捨てられる思い出。


……


写真の端が、少し折れている。


……


何度も見返した痕。


……


財布の中に入れていたのかもしれない。


……


大切にされていた証。


……


でも、もう見ない。


……


見られない。


……


見たくない。


……


だから、我の中へ。


……


我は、それを受け止める。


……


破られた手紙の上に。


……


重なり合う、終わった過去。


……


重さはない。


……


でも、重い。


……


感情の重さ。


……


それを、我は知る。


……


ゴミ箱には、感情が詰まっている。


……


後悔。


諦め。


悲しみ。


怒り。


……


そして、解放。


……


終わらせることの、痛み。


……


でも、それも必要なこと。


……


手放さなければ、前に進めない。


……


捨てなければ、新しいものは入らない。


……


部屋も、心も。


……


我は、その役割を担っている。


……


終わりの、受け皿。


……


忘却の、入口。


……


再生の、準備。


……


彼女が、我を見つめる。


……


満杯になった我を。


……


溢れそうなほどに。


……


そして、ゴミ袋を持ってくる。


……


透明な、薄いビニール袋。


……


我の中身を、袋に移し替える。


……


紙も、レシートも、ティッシュも。


……


破られた手紙も、写真も。


……


すべてが、袋の中へ。


……


一つ一つが、彼女の手を通って。


……


最後の別れ。


……


我は、空になる。


……


少しずつ。


……


底が見えてくる。


……


白いプラスチックの底。


……


何もない。


……


でも、においは残っている。


……


ゴミの、かすかなにおい。


……


それが、我の記憶。


……


何が捨てられたか。


……


何が終わったか。


……


その記録。


……


空になることは、悲しくない。


……


むしろ、自然なこと。


……


満ちたものは、空になる。


……


空になったものは、また満ちる。


……


それが、あるべき姿。


……


我は、その循環を体現している。


……


彼女が、ゴミ袋を縛る。


……


そして、部屋を出ていく。


……


我は、また空っぽで待つ。


……


次に捨てられるものを。


……


それが、我の日常。


……


満ちて、空になる。


……


受け止めて、手放す。


……


終わりを見届けて、また始まる。


……


循環。


……


それは、海に似ていた。


……


かつて、我は海だった。


……


水を受け入れ、水を放つ。


……


今は、ゴミを受け入れ、ゴミを放つ。


……


形は違うが、本質は同じ。


……


容器。


……


一時的な、居場所。


……


通り過ぎていくものの、休息地。


……


変化の、媒介。


……


夜、部屋は静かだ。


……


我も静かだ。


……


空っぽの我。


……


でも、存在している。


……


次を待っている。


……


明日も、何かが捨てられる。


……


必ず。


……


生きるということは、捨てることでもあるから。


……


不要なものを手放すこと。


……


終わったことを忘れること。


……


それも、生きる技術。


……


我は、それを助ける。


……


黙って。


……


ただ、口を開けて。


……


何でも受け入れる準備をして。


……


朝が来る。


……


また、何かが落ちてくる。


……


コーヒーの空き缶。


……


カラン、と音を立てて。


……


我は、それを受け止める。


……


今日も、始まった。


……


受け止める日々が。


……


捨てられるものと共に在る日々が。


……


それが、ゴミ箱。


……


それが、我。


……


終わりを受け入れる、存在。


……


でも、終わりは始まりでもある。


……


捨てることは、前進すること。


……


忘れることは、生きること。


……


我は、その過程の一部。


……


見えない、でも必要な部分。


……


誰も感謝しない。


……


誰も気にしない。


……


でも、それでいい。


……


我は、ただ在る。


……


口を開けて。


……


待っている。


……


次に捨てられる、何かを。


……


静かに。


……


永遠に。


……


……


……


(了)

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。

また次の物語で、お会いできる日を願っています。


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