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―転生の果てⅣ―  作者: MOON RAKER 503


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第2話 転生したら眠りだった

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


我は、白の中にいた。


……


どこまでも続く、白。


……


それは色ではなかった。


光でもなく、闇でもなく。


ただ、何もない空間。


……


いや、何もないのではない。


すべてが、まだ生まれていない場所。


……


可能性だけが、満ちている場所。


……


形を持つ前の、原初。


言葉になる前の、思考。


音になる前の、静寂。


……


すべてが、ここに在る。


……


でも、まだ何も始まっていない。


……


我は、そこに漂っている。


……


海ではない。


水の感触も、波の音もない。


……


重力もない。


方向もない。


……


ただ、在るだけ。


……


ここは、眠りだ。


……


我は、眠りになった。


……


身体はない。


形もない。


ただ、意識だけが薄く広がっている。


……


霧のように。


煙のように。


……


掴めないが、確かに在る。


……


まどろみ。


……


それが、我の名前だった。


……


目覚めと眠りの間。


現実と夢の境界。


……


曖昧な、でも確かな場所。


……


そこに、我は在る。


……


時間が、ない。


……


いや、時間は流れているのかもしれない。


でも、それを感じることができない。


……


一瞬が永遠で、永遠が一瞬。


……


すべてが、同時に存在している。


……


我は、誰かの眠りの中にいる。


……


〈眠りの女〉。


……


名前は知らない。


顔も知らない。


……


でも、我は彼女の眠りそのものになっている。


……


彼女が目を閉じるたび、我は生まれる。


彼女が目を覚ますたび、我は消える。


……


でも、消えはしない。


……


ただ、待っている。


……


次の眠りを。


……


彼女の意識が、遠くなる。


……


現実が、薄れていく。


……


その瞬間、我は彼女の中に入る。


……


いや、我が彼女を包む。


……


境界が、曖昧だ。


……


彼女の夢を見ている。


……


それは、我の夢なのか。


彼女の夢なのか。


……


わからない。


……


ただ、そこに在る。


……


森。


……


深い、静かな森。


木々が立ち並び、光が木漏れ日となって降り注ぐ。


……


その光は、温かい。


でも、影は冷たい。


……


コントラスト。


……


夢は、いつも極端だ。


……


彼女は、その中を歩いている。


……


いや、歩いているのは我なのか。


……


足音が聞こえる。


でも、足はない。


……


風が吹く。


でも、肌はない。


……


葉が揺れる音。


サラサラと。


……


鳥の声。


遠くで水が流れる音。


……


すべてが、感覚だけで存在している。


……


実体がない。


……


でも、確かに感じる。


……


夢とは、そういうものだ。


……


論理がない。


因果がない。


……


ただ、在るだけ。


……


森が、突然海になる。


……


木々が波に変わる。


幹が水柱になり、枝が飛沫になる。


……


葉が泡に変わる。


緑が青に溶けていく。


……


移行に、理由はない。


……


夢に、理由はない。


……


波の音。


……


ザァァァ……。


……


ああ、と我は思い出す。


……


かつて、我は海だった。


……


でも今は違う。


……


今は、眠り。


……


海が、また森に戻る。


……


波が木に変わる。


青が緑に戻る。


……


そして、森が街になる。


……


木々がビルに変わる。


葉が窓ガラスに変わる。


……


ビルが立ち並び、人々が行き交う。


……


でも、誰も彼女を見ない。


誰も我を見ない。


……


透明な存在。


……


夢の中の旅人。


……


それは、孤独だった。


……


いや、孤独ではない。


……


ただ、そこにいないだけ。


……


夢の中では、誰もが透明だ。


……


彼女が、立ち止まる。


……


そして、振り返る。


……


そこに、誰かがいる。


……


顔は、見えない。


輪郭も、曖昧だ。


……


でも、彼女は知っている。


……


「久しぶり」


……


声が聞こえる。


……


誰の声だろう。


……


彼女の声ではない。


相手の声でもない。


……


夢そのものの声。


……


我の声。


……


彼女が、微笑む。


……


その微笑みが、我に染み込む。


……


温かい。


……


夢の中でも、感情は在る。


……


いや、夢の中だからこそ、感情は濃い。


……


現実の重力から解放されて、純粋になる。


……


彼女は、その人と話している。


……


何を話しているのか、わからない。


……


言葉が聞こえない。


……


でも、意味は伝わる。


……


それは、別れの会話だった。


……


「さようなら」


……


その言葉だけが、はっきりと響く。


……


そして、相手が消える。


……


彼女が、泣いている。


……


涙が、我を通り抜ける。


……


温かい涙。


……


塩の味がする。


……


いや、味覚はない。


でも、わかる。


……


涙の成分を。


悲しみの濃度を。


……


我は、それを受け止める。


……


重さはない。


でも、確かに受け止めている。


……


眠りは、すべてを受け止める。


……


悲しみも、喜びも、怒りも。


恐れも、後悔も、諦めも。


……


現実で抱えきれなかったものを、ここで解放する。


……


吐き出す場所。


溶かす場所。


……


それが、眠りの役割。


……


我の役割。


……


だから、我は拒まない。


……


どんな感情も、受け入れる。


……


彼女の涙は、雨に似ている。


……


空が泣いているような。


……


世界が泣いているような。


……


でも、雨は必要だ。


……


雨がなければ、何も育たない。


……


涙も、同じ。


……


涙がなければ、心は渇く。


……


彼女の涙が、雨になる。


……


街が、雨に濡れる。


……


そして、すべてが溶けていく。


……


森も、海も、街も。


……


すべてが、白に還る。


……


我は、その中で漂う。


……


彼女の意識が、また遠くなる。


……


深い眠りへ。


……


夢さえ見ない場所へ。


……


そこは、静寂だった。


……


完全な、絶対的な静寂。


……


音がない。


光がない。


時間がない。


形がない。


……


感覚が、すべて消える。


……


ただ、在るだけ。


……


存在の最も深い場所。


……


核心。


……


我は、その静寂を知っている。


……


それは、死に似ていた。


……


でも、死ではない。


……


死は終わりだが、これは違う。


……


再生の準備。


……


種が土の中で眠るように。


根を張る前の、静止。


……


蝶が蛹の中で変わるように。


溶けて、再構築される時間。


……


眠りは、終わりではない。


始まりでもない。


……


その間。


……


変容の時間。


……


解体と再構築。


……


古い自分を壊し、新しい自分を作る。


……


毎晩、人は少しずつ変わる。


……


それを可能にしているのが、眠り。


……


我。


……


ここで、世界は形を変える。


……


古いものが消え、新しいものが生まれる。


……


彼女の中で、何かが整理されている。


……


記憶が、再配置される。


感情が、消化される。


……


我は、その過程を見守る。


……


いや、我がその過程そのものなのだ。


……


眠りとは、変容の時間。


……


目覚めた時、彼女は少しだけ違う人になる。


……


それは、転生に似ていた。


……


毎晩、人は小さく生まれ変わる。


……


そして我は、その門番。


……


意識と無意識の境界に立つ、門。


……


彼女が通るたび、我は開く。


……


彼女が去るたび、我は閉じる。


……


それを、繰り返す。


……


永遠に。


……


白が、また動く。


……


光が、差し込んでくる。


……


朝だ。


……


彼女が、目覚める。


……


我は、消える。


……


いや、消えはしない。


……


ただ、見えなくなるだけ。


……


次の夜まで。


……


我は、待つ。


……


眠りとして。


……


まどろみとして。


……


門として。


……


彼女の呼吸が、規則正しくなる。


……


目覚めの呼吸。


……


我は、その音を聞きながら薄れていく。


……


でも、安心していた。


……


また会える。


……


今夜も、きっと。


……


そして、その時。


……


我は、また彼女を包む。


……


優しく。


……


静かに。


……


白い世界で。


……


……


……


(了)

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。

また次の物語で、お会いできる日を願っています。


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