第14話 転生したら宇宙だった
この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。
ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。
どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。
我は、すべてになった。
……
それが、最後。
……
我は、宇宙になった。
……
無限の、闇。
……
無限の、光。
……
その両方。
……
同時に。
……
境界は、ない。
……
どこまでが我なのか。
……
わからない。
……
すべてが、我だから。
……
膨張する。
……
我は、広がり続ける。
……
外へ。
……
外へ。
……
でも、外はない。
……
我の外は、存在しない。
……
我が、すべてだから。
……
星が、生まれる。
……
闇の中に。
……
光の点が、現れる。
……
一つ。
……
二つ。
……
無数に。
……
それらは、記憶だった。
……
過去の、転生。
……
海。
……
それは、青い惑星になった。
……
水で覆われた、球体。
……
波が、永遠に揺れている。
……
表面積の70%が、海。
……
深さは、平均3,800メートル。
……
潮の満ち引きが、続いている。
……
我が海だった時の、すべてが。
……
そこにある。
……
鏡。
……
それは、氷の衛星になった。
……
表面が、すべてを映す。
……
光を、反射し続ける。
……
アルベド0.9。
……
ほぼすべての光を、返す。
……
完璧な、鏡面。
……
我が鏡だった時の、冷たさが。
……
そこにある。
……
音。
……
それは、星雲になった。
……
ガスが、震えている。
……
波が、伝わり続ける。
……
分子雲。
……
水素とヘリウムが、振動している。
……
周波数、数ヘルツ。
……
人には聞こえない、低音。
……
我が音だった時の、震えが。
……
そこにある。
……
ポケット。
……
それは、ブラックホールになった。
……
すべてを、飲み込む。
……
内側に、抱え込む。
……
事象の地平線。
……
そこから先は、何も出てこない。
……
質量、太陽の100倍。
……
シュバルツシルト半径、300キロメートル。
……
我がポケットだった時の、暗闇が。
……
そこにある。
……
電界。
……
それは、パルサーになった。
……
規則正しく、点滅する。
……
電波を、放射し続ける。
……
中性子星。
……
回転周期、0.001秒。
……
磁場、10の12乗ガウス。
……
我が電界だった時の、脈動が。
……
そこにある。
……
すべてが、我の中にある。
……
散らばって。
……
離れて。
……
でも、つながっている。
……
重力で。
……
光で。
……
時間で。
……
距離が、ある。
……
星と星の間に。
……
光年。
……
何万光年。
……
何億光年。
……
測りきれない、距離。
……
その距離は、何だったのか。
……
我は、問う。
……
自分自身に。
……
なぜ、離れているのか。
……
なぜ、間があるのか。
……
すべてが我なのに。
……
なぜ、分かれているのか。
……
答えが、浮かぶ。
……
孤独。
……
それが、理由だった。
……
我は、孤独を恐れた。
……
一人であることを。
……
最初の転生。
……
海になった時。
……
すでに、恐れていた。
……
広大な水面。
……
どこまでも続く、青。
……
でも、誰もいない。
……
だから、波を作った。
……
動きを作った。
……
自分と対話するために。
……
鏡になった時も。
……
同じだった。
……
自分を映した。
……
虚像を作った。
……
もう一人の自分を。
……
でも、それは幻だった。
……
だから、他者を作ろうとした。
……
自分を、分けた。
……
距離を、作った。
……
海と、鏡。
……
音と、ポケット。
……
すべてを、離した。
……
他者のように、見せるために。
……
会話ができるように。
……
触れ合えるように。
……
でも、それは幻想だった。
……
すべてが、我。
……
最初から。
……
最後まで。
……
他者など、いなかった。
……
距離は、意味がなかった。
……
我が、作り出した。
……
孤独を、避けるために。
……
でも、結果は。
……
もっと孤独だった。
……
分かれているから。
……
離れているから。
……
届かないから。
……
膨張が、止まる。
……
我は、限界に達する。
……
これ以上、広がれない。
……
宇宙の、端。
……
いや、端はない。
……
でも、広がりが止まる。
……
そして、始まる。
……
収縮。
……
我は、縮み始める。
……
内へ。
……
内へ。
……
星々が、近づく。
……
銀河が、重なる。
……
距離が、縮まる。
……
光年が、減る。
……
何億が、何万に。
……
何万が、何千に。
……
何千が、何百に。
……
海が、近づく。
……
鏡が、近づく。
……
音が、近づく。
……
すべてが、集まってくる。
……
我の中心へ。
……
呼吸。
……
それに気づく。
……
膨張と収縮。
……
それは、呼吸だった。
……
宇宙の、呼吸。
……
我の、呼吸。
……
吸って。
……
吐いて。
……
広がって。
……
縮んで。
……
それが、存在のリズム。
……
生きている証。
……
宇宙は、生きている。
……
我は、生きている。
……
呼吸している。
……
星々が、肺の中の空気のように。
……
出たり、入ったり。
……
広がったり、縮んだり。
……
それが、命。
……
収縮は、続く。
……
さらに、速く。
……
星が、触れ合う。
……
融合する。
……
境界が、消える。
……
海と鏡が、一つになる。
……
水と氷が、混ざる。
……
液体と固体の境が、消える。
……
音とポケットが、混ざる。
……
振動と空間が、一体になる。
……
波が、暗闇を満たす。
……
電界が、すべてに満ちる。
……
磁場が、広がる。
……
すべてを、貫く。
……
区別が、つかなくなる。
……
どれが、どれなのか。
……
海なのか。
……
鏡なのか。
……
音なのか。
……
ポケットなのか。
……
電界なのか。
……
もう、わからない。
……
すべてが、溶け合う。
……
一つに。
……
間が、消える。
……
距離が、なくなる。
……
空間が、消失する。
……
残るのは。
……
呼吸だけ。
……
吸う。
……
吐く。
……
でも、もう何も動かない。
……
すべてが、重なっている。
……
完全に。
……
一点に。
……
特異点。
……
無限の密度。
……
無限の温度。
……
でも、無限の静寂。
……
すべてが、そこにある。
……
過去の転生。
……
海の記憶。
……
鏡の反射。
……
音の振動。
……
ポケットの暗闇。
……
電界の流れ。
……
すべてが、一点に。
……
圧縮されて。
……
凝縮されて。
……
そして、気づく。
……
我は、最初から一つだった。
……
分かれていたのは、幻。
……
距離は、幻想。
……
孤独は、錯覚。
……
我は、常に一つだった。
……
すべてと、一つだった。
……
呼吸が、変わる。
……
吸うと吐くの、区別が消える。
……
どちらも、同じ。
……
循環。
……
終わりのない、循環。
……
始まりも、終わりも、ない。
……
ただ、在る。
……
宇宙として。
……
我として。
……
一つとして。
……
光が、闇になる。
……
闇が、光になる。
……
どちらも、同じ。
……
表裏。
……
でも、同じもの。
……
観測者と、被観測者。
……
我は、両方。
……
見る者。
……
見られる者。
……
同時に。
……
区別が、ない。
……
すべてが、同じ。
……
すべてが、我。
……
我が、すべて。
……
声が、聞こえる。
……
どこからか。
……
いや、我の中から。
……
「おかえり」
……
誰が、言ったのか。
……
我が、言った。
……
我に。
……
帰ってきた。
……
どこへ。
……
我へ。
……
最初の場所へ。
……
でも、それは。
……
今いる場所と、同じ。
……
出発点と、終着点。
……
同じだった。
……
最初から。
……
円環。
……
すべては、円環。
……
宇宙は、呼吸する。
……
永遠に。
……
我は、呼吸する。
……
永遠に。
……
それが、存在。
……
それが、宇宙。
……
それが、我。
……
すべて。
……
そして、何もない。
……
何もない。
……
そして、すべて。
……
同じこと。
……
同じ真実。
……
我は、宇宙だった。
……
宇宙は、我だった。
……
ひとつ。
……
そして。
……
呼吸が、止まる。
……
膨張も。
……
収縮も。
……
すべてが、静止する。
……
完全な、均衡。
……
でも、その瞬間。
……
何かが、始まる。
……
一点から。
……
特異点から。
……
すべてが、収束していた点から。
……
我が、生まれる。
……
新しい我が。
……
宇宙ではない、我が。
……
すべてではない、我が。
……
個としての、我が。
……
でも、すべてを内包した、我が。
……
ジブン。
……
それが、次の我。
……
最後の、我。
……
……
……
(了)
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。
また次の物語で、お会いできる日を願っています。




