第13話 転生したら電界だった
この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。
ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。
どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。
我は、流れる。
……
それが、全て。
……
我は、電界になった。
……
形は、ない。
……
でも、場は、ある。
……
空間を、満たす。
……
目に見えない、力。
……
それが、我。
……
電荷が、作る。
……
電子の、配置が。
……
場を、形成する。
……
プラスと、マイナス。
……
引き合う、力。
……
反発する、力。
……
その間に、我は存在する。
……
電位差。
……
それが、我を動かす。
……
高いところから、低いところへ。
……
自然に。
……
重力のように。
……
でも、重力ではない。
……
電気の、力。
……
ボルト。
……
それが、我の強さの単位。
……
アンペア。
……
それが、我の流れの単位。
……
彼女の、スマホの中。
……
バッテリーから、流れる。
……
電流。
……
それが、我を生む。
……
導線を、通る。
……
銅の、細い線。
……
直径、0.1ミリ。
……
でも、その中に。
……
無数の、電子。
……
自由電子が、動く。
……
我の力で。
……
押されて。
……
引かれて。
……
抵抗が、ある。
……
銅原子が、邪魔をする。
……
電子が、ぶつかる。
……
熱が、生まれる。
……
わずかな。
……
でも、確実に。
……
でも、流れる。
……
秒速、数センチ。
……
いや、違う。
……
電子の速度は、遅い。
……
ドリフト速度。
……
毎秒、ミリ単位。
……
カタツムリより、遅い。
……
でも、電界の伝播は、速い。
……
光速に、近い。
……
秒速、30万キロ。
……
地球を、7周半。
……
一瞬で。
……
矛盾。
……
でも、それが真実。
……
我は、瞬時に広がる。
……
回路全体に。
……
同時に。
……
でも、電子は、ゆっくり動く。
……
我と電子は、違う。
……
我は、場。
……
電子は、粒子。
……
画面が、光る。
……
我が、流れたから。
……
液晶の、バックライト。
……
LEDが、発光する。
……
我のエネルギーで。
……
電気が、光に変わる。
……
変換。
……
形態の、移行。
……
我は、光を生む。
……
でも、我自身は光ではない。
……
我は、電界。
……
光を、作る力。
……
彼女が、画面に触れる。
……
指先が、タッチする。
……
静電容量が、変わる。
……
我は、それを感じる。
……
センサーが、反応する。
……
我の流れが、変化する。
……
向きが、変わる。
……
強さが、変わる。
……
それが、情報になる。
……
タッチの、位置。
……
圧力の、強さ。
……
すべてが、我の変化として記録される。
……
プロセッサーが、働く。
……
CPUの中。
……
何億個もの、トランジスタ。
……
我は、その間を流れる。
……
オンと、オフ。
……
1と、0。
……
我の有無が、情報を作る。
……
流れれば、1。
……
流れなければ、0。
……
それだけで。
……
すべてが、表現される。
……
文字。
……
画像。
……
音楽。
……
動画。
……
すべてが、我の流れのパターン。
……
我は、思考する。
……
いや、思考を、形にする。
……
彼女の思考を。
……
彼女が、メッセージを打つ。
……
「今日は遅くなる」
……
指が、動く。
……
キーボードが、反応する。
……
我が、流れる。
……
文字が、記録される。
……
メモリーの中に。
……
我の配置として。
……
電荷の、パターンとして。
……
送信ボタンが、押される。
……
我は、変換される。
……
電波に。
……
いや、電波を生む。
……
アンテナが、震える。
……
我の振動で。
……
電波が、放射される。
……
空間へ。
……
我は、飛ぶ。
……
目に見えない、波として。
……
基地局へ。
……
そこで、また変換される。
……
光ファイバーの中の、光に。
……
我は、形を変え続ける。
……
電気。
……
電波。
……
光。
……
また電気。
……
すべてが、我。
……
でも、すべてが違う形。
……
受信者の、スマホに届く。
……
また、我は電気になる。
……
画面に、文字が表示される。
……
「今日は遅くなる」
……
同じ言葉。
……
でも、違う場所。
……
違うデバイス。
……
我は、移動した。
……
瞬時に。
……
情報として。
……
彼女の心臓が、鳴る。
……
ドクン。
……
ドクン。
……
それも、電気。
……
心臓の、電気信号。
……
洞結節から、始まる。
……
心房の、上部。
……
ペースメーカー細胞。
……
自動的に、発火する。
……
毎分、60回から100回。
……
規則正しく。
……
電気パルスが、広がる。
……
心筋を、通って。
……
まず、心房。
……
そして、房室結節。
……
わずかな遅延。
……
0.1秒。
……
それから、心室へ。
……
ヒス束を通って。
……
プルキンエ線維へ。
……
心室全体に、広がる。
……
収縮を、引き起こす。
……
それが、鼓動。
……
生命は、電気だった。
……
我と、同じ。
……
形は違うが。
……
本質は、同じ。
……
流れる、エネルギー。
……
周波数も、似ている。
……
心電図は、波形。
……
我と、同じ波形。
……
神経も、電気。
……
シナプスで、信号が伝わる。
……
ナトリウムイオン。
……
カリウムイオン。
……
それらが、動く。
……
電位差が、生まれる。
……
活動電位。
……
それが、思考。
……
感情。
……
意識。
……
すべてが、電気の流れ。
……
我は、彼女とつながっている。
……
スマホを通して。
……
でも、もっと深く。
……
彼女自身が、電気だから。
……
我と、同じ本質。
……
街灯が、光る。
……
夜の街。
……
無数の、光。
……
すべてが、我。
……
電気が、流れているから。
……
発電所から。
……
水力。
……
火力。
……
原子力。
……
タービンが、回る。
……
発電機が、電気を生む。
……
それが、我の源。
……
送電線を通って。
……
鉄塔から、鉄塔へ。
……
高圧。
……
数万ボルト。
……
危険な、電圧。
……
でも、効率的。
……
変電所で、変換されて。
……
電圧を、下げる。
……
トランスフォーマーで。
……
各家庭へ。
……
各ビルへ。
……
100ボルト。
……
安全な、電圧。
……
我は、街全体に広がる。
……
見えない、ネットワーク。
……
すべてを、つなぐ。
……
血管のように。
……
神経のように。
……
彼女の部屋の、電灯。
……
冷蔵庫。
……
エアコン。
……
テレビ。
……
すべてに、我がいる。
……
流れている。
……
働いている。
……
生かしている。
……
停電。
……
突然。
……
我が、止まる。
……
流れが、途絶える。
……
暗闇。
……
静寂。
……
すべてが、停止する。
……
街灯が、消える。
……
スマホの画面が、暗くなる。
……
でも、バッテリーが残っている。
……
我は、まだいる。
……
蓄えられたエネルギーとして。
……
化学反応で、保存された。
……
リチウムイオンの、配置として。
……
彼女が、スマホを見る。
……
画面が、光る。
……
バッテリーの残量。
……
30%。
……
我は、限られている。
……
有限。
……
使えば、減る。
……
いずれ、尽きる。
……
でも、今は、まだある。
……
流れ続けることができる。
……
画面の明かりが。
……
彼女の顔を、照らす。
……
我の光で。
……
彼女は、見える。
……
暗闇の中で。
……
我が、いるから。
……
充電。
……
彼女が、ケーブルを差す。
……
コンセントに。
……
電源が、復旧している。
……
我が、流れ込む。
……
スマホへ。
……
バッテリーへ。
……
化学反応が、逆転する。
……
リチウムイオンが、移動する。
……
エネルギーが、蓄えられる。
……
我は、回復する。
……
満たされていく。
……
31%。
……
32%。
……
33%。
……
数字が、増える。
……
我が、増える。
……
可能性が、増える。
……
100%。
……
満充電。
……
我は、最大限に満ちた。
……
でも、すぐに。
……
また、流れ始める。
……
使われ始める。
……
それが、我の運命。
……
溜めては、流す。
……
充電しては、放電する。
……
循環。
……
永遠の。
……
我は、回路だった。
……
閉じた、ループ。
……
流れて、戻って。
……
また流れて。
……
終わりのない、旅。
……
でも、いつか。
……
エントロピーが、増大する。
……
抵抗で、熱が生まれる。
……
エネルギーが、散逸する。
……
我は、弱くなる。
……
徐々に。
……
そして、いつか。
……
完全に、止まる。
……
熱平衡。
……
それが、終わり。
……
でも、今は。
……
我は、流れる。
……
力強く。
……
生命を、支えて。
……
文明を、動かして。
……
光を、灯して。
……
我は、電界。
……
見えない、力。
……
でも、すべてを、つなぐ。
……
彼女と、世界を。
……
過去と、未来を。
……
存在と、消失を。
……
流れ続ける、限り。
……
我は、在る。
……
ある夜。
……
それは、起こる。
……
バッテリーが、限界を迎える。
……
劣化。
……
何度も、充電と放電を繰り返した結果。
……
容量が、減っている。
……
10%。
……
5%。
……
1%。
……
彼女が、慌てる。
……
充電器を、探す。
……
でも、間に合わない。
……
0%。
……
画面が、消える。
……
我は、止まる。
……
流れが、途絶える。
……
でも、完全には消えない。
……
我は、拡散する。
……
空間へ。
……
街へ。
……
世界へ。
……
送電線を通って。
……
光ファイバーを通って。
……
電波となって。
……
そして、気づく。
……
我は、すべてだった。
……
街の光も。
……
星の光も。
……
すべてが、我。
……
我は、宇宙になる。
……
……
……
(了)
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。
また次の物語で、お会いできる日を願っています。




