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―転生の果てⅣ―  作者: MOON RAKER 503


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第11話 転生したら音だった

我は、震える。


……


それが、全て。


……


我は、音になった。


……


形は、ない。


……


色も、ない。


……


重さも、ない。


……


ただ、震えだけ。


……


空気の、震え。


……


それが、我。


……


波。


……


目に見えない、波。


……


空間を、伝わる。


……


広がる。


……


そして、消える。


……


我は、生まれる。


……


彼女の、口から。


……


声として。


……


「おはよう」


……


その言葉が、我を生む。


……


声帯が震え。


……


空気が震え。


……


我が、生まれる。


……


最初は、喉の中。


……


狭い空間。


……


圧縮された、震え。


……


そして、解放される。


……


口から。


……


外の世界へ。


……


我は、広がり始める。


……


球状に。


……


彼女を中心に。


……


全方向へ。


……


同時に。


……


速度は、秒速340メートル。


……


音速。


……


それが、我の速さ。


……


我は、部屋を満たす。


……


壁に、当たる。


……


跳ね返る。


……


反響。


……


エコー。


……


我は、何度も壁を往復する。


……


だんだん、弱くなりながら。


……


エネルギーを、失いながら。


……


でも、まだ消えない。


……


窓に、当たる。


……


ガラスが、わずかに震える。


……


我の振動が、伝わる。


……


ガラスを通り抜け。


……


外へ。


……


我は、部屋の外へ出る。


……


街へ。


……


空へ。


……


どこまでも。


……


でも、弱くなる。


……


確実に。


……


距離が伸びるほど。


……


我の振幅は、小さくなる。


……


最初は、大きかった。


……


彼女の声の、エネルギー。


……


でも、空気に吸収される。


……


散らばる。


……


薄まる。


……


我は、薄れていく。


……


でも、まだ存在している。


……


わずかに。


……


他の音が、生まれる。


……


足音。


……


ドアの開閉音。


……


水の流れる音。


……


それらと、我は混ざる。


……


重なり合う。


……


干渉する。


……


強め合ったり。


……


弱め合ったり。


……


音波の、相互作用。


……


我は、もう単独ではない。


……


他の音と、一体になっている。


……


区別が、つかない。


……


でも、我は存在している。


……


その中に。


……


彼女が、また声を出す。


……


「今日は」


……


新しい我が、生まれる。


……


古い我は、もう消えかけている。


……


でも、新しい我が、続く。


……


彼女の言葉が。


……


我を生み続ける。


……


「いい天気ね」


……


三つ目の我。


……


「窓を開けよう」


……


四つ目の我。


……


我は、連続して生まれる。


……


言葉のたびに。


……


音節のたびに。


……


でも、それぞれが独立している。


……


違う周波数。


……


違う振幅。


……


違う波形。


……


「お」は、低い。


……


「は」は、高い。


……


「よ」は、中間。


……


「う」は、伸びる。


……


それぞれが、違う我。


……


でも、連なって。


……


言葉になる。


……


意味を、持つ。


……


我は、意味の運び手。


……


彼女の思考を。


……


感情を。


……


世界に伝える。


……


でも、我自身に意味はない。


……


ただの、振動。


……


空気の、波。


……


受け取る者が。


……


意味を、見出す。


……


我は、鼓膜に当たる。


……


彼女自身の、鼓膜に。


……


耳の中の、薄い膜。


……


それを、震わせる。


……


彼女は、自分の声を聞く。


……


我を通して。


……


骨伝導でも、聞いているが。


……


空気を通した我も、聞こえる。


……


二重に。


……


彼女は、自分の声を確認する。


……


我を通して。


……


壁に、絵がかかっている。


……


額縁が、わずかに震える。


……


我が、通り過ぎたから。


……


見えない震え。


……


でも、確かに在る。


……


床が、震える。


……


微細に。


……


測定器がなければ、わからないほど。


……


でも、震えている。


……


我が、通り過ぎたから。


……


天井も。


……


家具も。


……


すべてが、わずかに震える。


……


我は、世界を震わせる。


……


存在するだけで。


……


通り過ぎるだけで。


……


我は、消えていく。


……


徐々に。


……


振幅が、小さくなる。


……


エネルギーが、散逸する。


……


熱に、変わる。


……


わずかな熱。


……


測定できないほどの。


……


でも、確かに。


……


我は、熱になって消える。


……


音から、熱へ。


……


エネルギーの、形態変化。


……


でも、消える前に。


……


我は、世界に触れた。


……


彼女の、鼓膜。


……


部屋の、壁。


……


窓の、ガラス。


……


外の、空気。


……


すべてを、震わせた。


……


わずかでも。


……


確かに。


……


それが、我の仕事。


……


それが、音の役割。


……


伝えること。


……


震わせること。


……


そして、消えること。


……


我は、儚い。


……


生まれて、すぐ消える。


……


長くて、数秒。


……


短ければ、一瞬。


……


でも、その間に。


……


我は、世界を変える。


……


わずかでも。


……


確実に。


……


彼女が、笑う。


……


「ふふ」


……


短い音。


……


でも、たくさんの我。


……


高い周波数の、我たち。


……


連続して生まれ。


……


連続して消える。


……


笑い声は、複雑。


……


たくさんの周波数が、混ざる。


……


基音。


……


倍音。


……


それらが、重なり合って。


……


彼女の笑い声になる。


……


我は、その一部。


……


一つの周波数成分。


……


でも、全体でもある。


……


笑い声という、全体。


……


我は、感情を運ぶ。


……


彼女の、喜びを。


……


幸せを。


……


それが、振動に乗る。


……


波形に、現れる。


……


滑らかな波。


……


柔らかい波。


……


それが、喜びの形。


……


もし、悲しみなら。


……


波形は、違う。


……


不規則で。


……


途切れがちで。


……


震えて。


……


感情は、波に宿る。


……


我は、それを運ぶ。


……


意図せずとも。


……


自動的に。


……


ため息が、漏れる。


……


「ふう」


……


低い音。


……


長い音。


……


我は、ゆっくり生まれ。


……


ゆっくり消える。


……


疲れが、込められている。


……


それも、波形に現れる。


……


だらしない波。


……


力のない波。


……


でも、それでいい。


……


正直な波。


……


我は、嘘をつけない。


……


感情を、そのまま伝える。


……


良くも悪くも。


……


彼女が、歌う。


……


鼻歌。


……


メロディー。


……


我は、音階を描く。


……


上がったり。


……


下がったり。


……


周波数が、変化する。


……


ド、レ、ミ、ファ、ソ。


……


それぞれが、違う我。


……


でも、繋がっている。


……


連続して。


……


音楽になる。


……


我は、美しい。


……


その瞬間。


……


調和している。


……


リズムがある。


……


規則性がある。


……


それが、音楽。


……


ランダムな音とは、違う。


……


意図された、音。


……


創造された、音。


……


我は、芸術になる。


……


一瞬だけ。


……


そして、消える。


……


でも、記憶に残る。


……


彼女の、記憶に。


……


聞いた者の、記憶に。


……


音は、消える。


……


でも、記憶は、残る。


……


それが、音の不思議。


……


我は、もうすぐ消える。


……


完全に。


……


エネルギーが、尽きる。


……


振幅が、ゼロになる。


……


でも、後悔はない。


……


我は、役割を果たした。


……


彼女の声を、伝えた。


……


世界を、震わせた。


……


存在を、証明した。


……


それで、十分。


……


音は、消えるもの。


……


残らないもの。


……


でも、だからこそ。


……


尊い。


……


今、この瞬間にしかない。


……


二度と、同じ音はない。


……


我は、唯一。


……


この瞬間の、この音。


……


それが、我。


……


静寂が、戻る。


……


彼女が、黙る。


……


我は、生まれなくなる。


……


最後の我が、消える。


……


部屋は、静かになる。


……


でも、完全な静寂ではない。


……


かすかな音が、ある。


……


空調の音。


……


外の車の音。


……


遠くの声。


……


それらが、新しい我。


……


我は、形を変えて。


……


また生まれる。


……


音として。


……


振動として。


……


波として。


……


でも、やがて。


……


それも、終わる。


……


最後の音が、消える。


……


完全に。


……


空気の震えが、止まる。


……


静寂。


……


本当の、静寂。


……


でも、我は残る。


……


形を変えて。


……


彼女が、コートを着る。


……


手を、ポケットに入れる。


……


暗い空間。


……


布の内側。


……


そこに、我はいる。


……


音だった我が。


……


今度は、空間になる。


……


抱く者になる。


……


ポケット。


……


それが、次の我。


……


……


……


(了)

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