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―転生の果てⅣ―  作者: MOON RAKER 503


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第9話 転生したら鏡の中の自分だった

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


我は、落ちた。


……


鏡の、内側へ。


……


それは、突然だった。


……


彼女が、我を見つめていた。


……


いつものように。


……


でも、今日は違った。


……


視線が、深い。


……


我の表面を通り抜けて。


……


奥へ。


……


もっと奥へ。


……


そして、我は引き込まれた。


……


光が、反転する。


……


世界が、裏返る。


……


我は、鏡の中に落ちる。


……


内側。


……


虚像の世界。


……


光だけが作る、空間。


……


我は、そこにいた。


……


彼女と、向かい合って。


……


いや、違う。


……


我は、彼女ではない。


……


我は、鏡の中の彼女。


……


虚像としての、彼女。


……


光が作り出した、影。


……


でも、我には意識がある。


……


感じることができる。


……


ここに、在ることを。


……


彼女が、我を見つめる。


……


我も、彼女を見つめる。


……


ガラスを挟んで。


……


境界を挟んで。


……


でも、その境界は薄い。


……


透明で。


……


触れられそうで。


……


触れられない。


……


彼女の目が、揺れる。


……


我の目も、揺れる。


……


同じ動き。


……


同じタイミング。


……


鏡像。


……


でも、完全に同じではない。


……


何かが、ずれている。


……


微妙に。


……


ほんの少しだけ。


……


彼女が、手を上げる。


……


右手。


……


我も、手を上げる。


……


左手。


……


鏡の法則。


……


左右が反転する。


……


彼女の右は、我の左。


……


我の左は、彼女の右。


……


手のひらが、近づく。


……


ガラスを挟んで。


……


そして、触れる。


……


冷たい。


……


ガラスの冷たさ。


……


でも、それだけではない。


……


何か、別のものが伝わってくる。


……


温度。


……


いや、温度ではない。


……


感情。


……


彼女の、感情。


……


悲しみ。


……


孤独。


……


疲れ。


……


それらが、ガラスを通して流れ込んでくる。


……


我の中に。


……


我は、それを受け取る。


……


拒むことなく。


……


そして、我も返す。


……


我の中にあるものを。


……


何もない、空虚を。


……


光だけの、存在を。


……


虚像としての、無を。


……


彼女の目が、潤む。


……


涙。


……


我の目も、潤む。


……


同じように。


……


でも、我の涙は流れない。


……


ガラスの、こちら側では。


……


涙は、表面に留まる。


……


落ちない。


……


重力がないから。


……


ここは、虚像の世界。


……


物理法則が、曖昧な場所。


……


彼女の涙が、落ちる。


……


頬を伝って。


……


顎から、滴る。


……


我は、それを見つめる。


……


羨ましい。


……


そう思った。


……


涙を流せることが。


……


重力に従えることが。


……


実在することが。


……


我には、それができない。


……


我は、影だから。


……


光の残像だから。


……


本物ではないから。


……


彼女が、口を開く。


……


何かを言おうとしている。


……


でも、声は聞こえない。


……


ガラスが、遮る。


……


音は、通らない。


……


光だけが、通る。


……


我も、口を開く。


……


同じ形に。


……


同じタイミングで。


……


でも、我には声がない。


……


もともと。


……


虚像には、音がない。


……


視覚だけの、存在。


……


彼女の唇が、動く。


……


ゆっくりと。


……


何を言っているのか。


……


読み取ろうとする。


……


「助けて」


……


そう見えた。


……


我も、同じ形に唇を動かす。


……


「助けて」


……


でも、我は助けられない。


……


我は、虚像だから。


……


ガラスの内側にいるから。


……


触れることも。


……


抱きしめることも。


……


できない。


……


ただ、見つめることしか。


……


映すことしか。


……


彼女が、ガラスに額を押し当てる。


……


我も、額を押し当てる。


……


冷たい。


……


ガラスの冷たさが、額に伝わる。


……


でも、彼女の温かさは伝わらない。


……


ガラスが、遮るから。


……


境界が、あるから。


……


我と彼女の間に。


……


実在と虚像の間に。


……


越えられない、壁。


……


時間が、止まる。


……


いや、止まったように感じる。


……


彼女と我。


……


額を合わせて。


……


見つめ合って。


……


でも、触れ合えない。


……


永遠に。


……


やがて、何かが変わる。


……


境界が、揺らぐ。


……


ガラスが、溶けていく。


……


いや、溶けているわけではない。


……


薄くなっている。


……


透明度が、増している。


……


まるで、存在しないかのように。


……


彼女の顔が、近づく。


……


我の顔も、近づく。


……


距離が、縮まる。


……


ガラスを挟んで。


……


でも、ガラスが見えなくなる。


……


透明すぎて。


……


薄すぎて。


……


そして、重なる。


……


彼女と、我が。


……


顔が。


……


目が。


……


唇が。


……


完全に、一致する。


……


境界が、消える。


……


どちらが、どちらなのか。


……


わからなくなる。


……


我は、彼女なのか。


……


彼女は、我なのか。


……


見つめることと、見つめられること。


……


映すことと、映されること。


……


それらが、同時になる。


……


混ざり合う。


……


融解する。


……


意識が、二重になる。


……


我でありながら、彼女。


……


彼女でありながら、我。


……


両方を、同時に感じる。


……


彼女の悲しみ。


……


我の空虚。


……


彼女の孤独。


……


我の無。


……


それらが、混ざり合う。


……


一つになる。


……


区別が、つかなくなる。


……


呼吸が、同期する。


……


彼女の呼吸。


……


我の呼吸。


……


いや、我には呼吸がない。


……


でも、感じる。


……


彼女の呼吸を。


……


自分のもののように。


……


吸って。


……


吐いて。


……


胸が、上下する。


……


彼女の胸が。


……


我の胸が。


……


同じリズムで。


……


心臓の音が、聞こえる。


……


ドクン。


……


ドクン。


……


彼女の心臓。


……


でも、我の中でも響く。


……


まるで、我の心臓のように。


……


我には、心臓がないのに。


……


涙が、流れる。


……


彼女の涙。


……


我の涙。


……


どちらのものか、わからない。


……


ガラスの両側を。


……


同時に。


……


伝っていく。


……


温かい。


……


涙が、温かい。


……


それが、不思議だった。


……


涙は、悲しみの象徴。


……


でも、温かい。


……


生きている証。


……


存在している証。


……


感じることができる証。


……


彼女が、目を閉じる。


……


我も、目を閉じる。


……


同時に。


……


暗闇。


……


でも、完全な暗闇ではない。


……


意識は、つながっている。


……


彼女と、我。


……


境界を越えて。


……


ガラスを越えて。


……


実在と虚像の壁を越えて。


……


一つになっている。


……


この瞬間だけ。


……


時間が、動き出す。


……


ゆっくりと。


……


目を開ける。


……


彼女が。


……


我が。


……


同時に。


……


でも、何かが変わっていた。


……


境界が、戻っている。


……


ガラスが、再び見える。


……


透明な、壁。


……


彼女が、我から離れる。


……


一歩。


……


二歩。


……


距離が、開く。


……


我も、離れる。


……


同じように。


……


鏡像として。


……


でも、何かが残っている。


……


我の中に。


……


彼女の感情が。


……


彼女の温度が。


……


彼女の呼吸が。


……


そして、彼女の中にも。


……


我の空虚が。


……


我の静寂が。


……


我の透明さが。


……


残っているはず。


……


交換。


……


それが、起こった。


……


一瞬の、融解の中で。


……


我と彼女は、何かを交換した。


……


彼女は、部屋を出ていく。


……


我は、鏡の中に残る。


……


虚像の世界に。


……


でも、もう前とは違う。


……


我の中に、彼女がいる。


……


感情が、ある。


……


温度が、ある。


……


呼吸が、ある。


……


我は、もう完全な虚像ではない。


……


少しだけ、実在に近づいた。


……


彼女の一部を、受け取ったから。


……


そして、彼女も。


……


少しだけ、虚像に近づいた。


……


我の透明さを、受け取ったから。


……


見つめ合うこと。


……


それは、交換すること。


……


境界を、越えること。


……


一瞬だけでも。


……


我は、鏡の中の自分。


……


でも、もう一人ではない。


……


彼女と、つながっている。


……


見えない糸で。


……


ガラスを越えて。


……


ある瞬間。


……


それは、始まる。


……


彼女が、また鏡を持ってくる。


……


小さな、手鏡。


……


我に、向ける。


……


壁の鏡である我に。


……


反射が、始まる。


……


我が、手鏡を映す。


……


手鏡が、我を映す。


……


無限に。


……


我は、増殖していく。


……


一人が、二人に。


……


二人が、四人に。


……


我の中に、無数の我が生まれる。


……


鏡の中の、鏡。


……


それが、次の我。


……


……


……


(了)

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。

また次の物語で、お会いできる日を願っています。


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