第ニ話:ぬいぐるみ勇者、覚醒フラグを踏む!?
第二話:ぬいぐるみ勇者、覚醒フラグを踏む!?
──その瞬間だった。
視界の端に、青いウィンドウがパッと浮かぶ。
【NAME:ワイルドウルフ】
【Lv:4】
【属性:獣/地】
【耐性:火-△ 氷-◎ 雷-×】
【攻撃:2連爪(クリ率20%)/突進(スタン効果)】
【弱点部位:左肩下】
【ドロップ:牙/獣皮/低確率で《鋭爪の指輪》】
(……っ!? 来た! ステ画面! 勇者時代の反射、まだ生きてんじゃねぇか!!)
数字と特性が脳じゃなく魂に刻み込まれる。
(突進=スタン……これ食らったらリリア即死だッ!)
リリアが剣を構える。
けれど指先は震え、呼吸は浅い。勇者の姿なのに、中身はまだ“ただの少女”。
「ワン太、ちょっと見ててね──!」
(いや見てるしかできねぇけど!? 俺、観客席バフしか持ってないんだぞ!?)
リリアが踏み込む。
跳躍、回転、不慣れな魔法陣──だが祈りを混ぜた一振り。
(ああもう! “祈り剣”は死亡フラグランキング第一位だっての!!)
──爪閃!
ギャッ!!
リリアの腕に赤が散った。
俺の中綿が震え、胸の奥が熱く脈打つ。
(くそッ……動けねぇ……! ぬいぐるみ反撃スキル、DLCで配信してくれ運営ぇぇ!!)
だが、その瞬間。
リリアが抜いた“古びた鉄剣”に、紅蓮の紋様が走った。
錆びた刃がひび割れ、その隙間から光が噴き出す。
まるで長い眠りから目覚めるように、剣は低く唸った。
(……なにぃ!? “レーヴァテイン・ゼロ”……! 封印されてた力が今、解放されるのか!!)
魂の鼓動が剣と共鳴する。
リリアと俺の意識が一本の糸で結ばれ、その糸を通して魔剣が脈打つ。
「くっ……でもっ──まだ……っ!」
キィィンッ!!
爪と刃が激突し、火花が森を裂く。
リリアの一撃が獣の肩を裂き、黒い瘴気が噴き出した。
「……やった、当たった……!」
笑顔。だが、その刹那。
赤い瞳が煙を割り、リリアへ突き刺す。
体勢が崩れ、剣が揺らぐ。
(やべぇ……あと一撃……! 決まれば勝ちなのに!!)
「……こ、こんなの──まだっ……!」
最後の一撃を振りかぶる。──が。
ドサッ!
膝が崩れ、視界が傾いた。
彼女の呼吸が細く、弱くなる。
(リリア……! おい、立て……!)
その瞬間、俺はバッグから転がり落ち、地面へ。
見上げた先で、リリアのまぶたが閉じていく。
「……守らなきゃ……みんな……ワン太も……」
声が遠ざかる。
糸のように細く、消え入りそうに。
(やめろ……やめろ……! 推しヒロインが初戦で退場とか許されねぇだろ!!)
──そのとき。
俺の視界に、新たなウィンドウが浮かぶ。
【システムメッセージ:契約者との同期率 47%──覚醒条件未達成】
【警告:対象の生命活動が限界値に接近】
【選択せよ──解放か、消滅か】
(はああぁぁ!? 二択!? ラスボス演出だろこれ!? なんでチュートリアルから発動してんだよォ!!)
世界がスローに歪む。
葉擦れも、風の音も、水中みたいに遠ざかる。
残るのは──選択肢だけ。
どちらを選んでも、“ただのぬいぐるみ”には戻れない。
直感が、そう告げていた。
「……リ、ア……!!」
声にならない叫びが喉を突き破る。
布の縫い目が裂け、光が内側から溢れ出す。
(選ぶしかねぇ……! この相棒の剣と、リリアを守るためにッ!!)
──世界が反転した。
上下も左右も、音も色も、一度に裏返る。
真っ白な光の奥で。
俺は確かに、“何か”に手を伸ばしていた。
……そして、全てが弾け飛んだ。




