第一話: チュートリアルじゃねぇぇぇ!!
第一話:チュートリアルじゃねぇぇぇ!!
朝の森。
木漏れ日がキラキラ差し込み、鳥たちが合唱して──完全にファンタジーRPGのオープニング。
……だが俺には関係ない。
なぜなら俺は今──ぬいぐるみだからだ。
白いショルダーバッグから顔だけ出す俺。
名前は“ワン太”。……いや違う!
本当は《エデン・フォース・オンライン》で世界を制した最強プレイヤー、犬飼颯太!
かつては「リリア」という最強美少女アバターで魔王を倒した俺が──なぜか犬マスコットにジョブチェンジ。
(勇者から転職:ぬいぐるみ職。バグ? 運営の嫌がらせ? 返金窓口どこ!?)
「ねえワン太、もうちょっとで森を抜けるよ! たぶん!」
俺を肩からぶら下げる少女──リリアが明るく笑う。
(いや“たぶん”ってなんだよ! 完全に迷子フラグじゃねぇか!!)
バッグがブンブン揺れるたび、中綿が片寄って首が変な方向へ。
必殺技は「動かないで見守る」……置物スキルすぎる。
「よいしょ……あ、ちょっと滑る〜!」
根っこでバランスを崩すリリア。バッグの俺はぐるんぐるん。
(おいぃぃ! 首ちぎれる! 裁縫スキルLv1で直せると思うなよ!?)
──そして俺は、見てはいけないものを見てしまった。
スカートの裾が後ろに思いっきり挟まって、パンツ全開。
木漏れ日と白布のコラボレーション。強制視聴モード発動。
(やめろォォォ! 俺、目ぇ逸らせないんだって!!)
(運営ーー! “勇者リリア伝説”を“パンツの章”に改竄すんなぁぁぁ!!)
森の鳥たちが黙り、風すら止む。
いや止まるな! 空気読めよ! こっちは心臓バクバクなんだよ!
そのとき。
リリアが背負う剣が、微かに燐光を漏らした。
鞘に収められたロングソード──俺の目が釘付けになる。
(……おい、それ“レーヴァテイン・ゼロ”じゃね!?)
(俺が素材ドロップ1%を三百時間狩って作り上げた、究極魔剣だぞ!?)
リリアは寂しげに微笑む。
「これだけは手放したくないの。……なんでか懐かしいの」
(おいそれ俺の魂の相棒! 魔王と並んでぶっ倒した相棒だぞ! 返せ!いや返して!)
胸の奥がざわめく。勇者だった記憶が、中綿の奥で疼いた。
俺の中の“勇者リリア”が、確かにまだ眠っている。
──そして。
ズシィィンッ!!
地面が軋み、木々が揺れ、空気が冷たく張り詰める。
茂みがざわめき、獣の咆哮のような低音が森を震わせた。
リリアが息を呑み、剣の柄を握る。
怯えているはずなのに、その瞳には奇妙な高揚が宿っていた。
「……怖いのに、なぜか……懐かしい」
(……やばい。勇者の記憶、戻りかけてる……?)
次の瞬間。
茂みを割って現れたのは──異形のモンスター。
木肌の外殻、節くれた四肢。枝の突起には鳥の死骸がぶら下がり、
怨嗟に濁った目が、俺たちを射抜いた。
(うわあああああ来たぁぁぁ!!)
(勇者の魂が燃えてる! リリアを守らなきゃ! 守らなきゃって──!)
……でも俺はぬいぐるみ。
短足ふにゃふにゃ、握力ゼロ。
持てる武器=「落ち葉」。
(俺どうすんの!? 転がって応援!? バフ:もふもふ!? 掲示板で晒される未来しか見えねぇ!!)
(必殺技候補:“もふもふビンタLv1”……弱すぎるだろォォ!!)
(誰だよ俺に“ぬいぐるみ縛り”入れたやつ! 返金案件だぞコレ!!)
赤い目がゆらりと瞬いた瞬間、リリアが剣を抜いた。
金属音が静寂を裂き、森全体が息を止める。
──勇者の血が騒いでいる。俺も同じだ。
モフモフの奥で、心臓がドクンと跳ねた。
(来る……! やばい、戦闘始まる! 俺のターン! ……いや俺ターン回ってこねぇ!)
(この身体、ボタンも押せない! スキル欄も開けない! 強いて言えば“もふ度+5”しか誇れねぇ!!)
リリアの視線は鋭く、足は震えている。……でも、その姿は確かに勇者だった。
俺は叫ぶ。いや、心の中で絶叫する。
(いけリリア! 頼む俺の分まで戦ってくれ! そして……できれば、俺のこと地面に落とすな!!)
──その瞬間。
木々を割って、黒い巨影が飛び出した。
地鳴りのような咆哮が森を覆い、落ち葉が宙に舞う。
俺は悟った。
(……これ、絶対チュートリアルじゃねぇぇぇ!!)




