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吐息と愛  作者: 九浄新
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第二話



 私は、塚原が作った朝食を食べ終わると、一丁前に他の先生との打ち合わせがあるという塚原を玄関先まで見送ろうとして、去ろうとしている彼の後を追った。


 塚原との関係は、小説家と担当編集者以上、恋人未満。

 いや、恋人未満やなんて言いすぎやわ。

 ただあいつが異常に私の世話焼きをしてるだけ。


 ただ、それだけやねん。


 だた、それだけ。


「俺、夜にも仕事が入ってるので今晩は来れません」


「……別にええよ。ちゃんと仕事してき」


「先生が寝てる間に今日の昼食と夕食作ってあるのでお好きなほうから食べてください」


「いや、いつからいてたんや」


 私からの鋭いツッコミに、塚原は苦笑いした後、「朝は得意なので」と微笑む。


 この生活が始まる前。

 塚原と出会って一週間程あとに私は過労と栄養失調で倒れ、一週間ほど病院のお世話になってる。

 その当時の担当は、流石にそこまでの世話をしてくるタイプではなかったし、逆にここまでしてくる担当編集者というのも珍しいやろう。

 

 だけど、塚原はそれをやってのけている。


 しかも、飄々と。


 それは私の前の担当編集者からの言いつけか、私とのいざこざからくる罪悪感か、ただ単にあいつがそういう性分なだけかのどれかやけど。

 別に、それが癪に障るとかではないけど、いちいち心がザワザワするんはなんでやろ?


「では、行ってきます。ちゃんと食べて、休憩もしっかりとって下さいね」


「わかっとる。しっかり仕事してき」


「はい、では」


 塚原はいつものように微笑んでから玄関を出て行った。


 嗚呼、嗚呼、嗚呼。


ザワザワする。

可愛い女なら、「行かないで」「一緒にいて」とか言うんかな?

でも、私たちの関係は、小説家と担当編集者。

ただ、あいつが私の世話を甲斐甲斐しくしてくるだけで、それ以上でも以下でもない。

私にそんなセリフ言う資格はないし、言う義理もない。


なんで、こんなザワザワするんやろうか。


私は、その回答を探すように書斎に引き籠もり、執筆活動に勤しんだ。

そして、お節介編集者の言いつけ通り、昼過ぎには彼が作っておいてくれた焼きドリアを温め直して、ピリ辛のたこきゅうりも冷蔵庫から出して半分を皿に盛り、残りは夕飯にすることにした。


「美味い」


 レンチンしてほこほこと湯気が上がる焼きドリアにスプーンを入れ、一口頬張る。

 とろりとしたホワイトソースが美味しい。

 たこきゅうりは酒にも合いそうや。また作らせるか。


 いつまでこの関係は続くのか。

 きっと、塚原が私の担当から外れたら終わる。


 私は、それまで、この生活に胡坐をかき続ける。



―続く―


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