97,僕の後悔と穏やかに話す叔父さんとひどく動揺する両親
「僕は、同性同士で恋愛するのが悪いことだとは思いません。人と人が愛し合うのに、性別は関係ないと思いますよ」
「悪いことだなんて言ってないわ。ただ、突然そんなことを言われても、頭がついていかないのよ」
そう言って、母は両手で顔を覆ってしまった。
「……だったら、僕のせいだ」
思わずそうつぶやくと、はっとしたように母が顔を上げ、みんなの視線が僕に集まった。ひるみながらも、僕は話し始める。
「気がついたときには、同性が恋愛対象だったんだ。だけど、きっと一生恋人なんてできないと思っていたから、誰にも言うつもりはなかった。
高3のとき、学校に行けなくなって、進学も就職もできなくて、お父さんたちをがっかりさせてしまったけど、原因は、実は失恋だったんだ。
あのとき、いくら聞かれても話せなかったけど、くだらない理由でごめん」
母が、ゆらゆらと首を横に振る。
「失恋って言っても、別に告白して振られたわけじゃなくて、片思いの相手に冷たい言葉を投げかけられて、勝手に傷ついただけなんだ。バカみたいだけど、苦しくて悲しくて、眠れないし、食べられないし、ただ涙が止まらなくて……。
そんなことで、みんなに迷惑をかけて、本当にごめんなさい。あのとき、もしも理由を打ち明けていたら、もっとがっかりさせてしまったかもしれないけど、少なくとも、今日、こんなことには……」
もしもあのとき、勇気を出して話していたら、こんなふうに今、両親や彼に辛い思いをさせずにすんだかもしれない。こみ上げる涙を必死にこらえていると、叔父さんが、穏やかな声で話し始めた。
「あのときの晴臣くん、ガリガリに痩せて、今にも倒れてしまいそうで、本当に心配だったなあ。アルバイトをお願いしたときも、内心は、こんな状態で一人暮らしをさせて大丈夫かなって、ちょっと不安だったんだ。
だけど、すごくよくやってくれて、久しぶりに帰って来たら、マンションの中はモデルルームみたいにピカピカだし、それに晴臣くん本人も、あのときの憔悴ぶりが嘘みたいに、元気そうで明るくて、本当にびっくりしたよ」
それから叔父さんは、両親に向かって語りかける。
「その理由が、笹垣さんに会ってわかったんですよ。はたから見ても、二人はとてもいい関係を築き上げていて、お互いを大切に思っていることがわかって。
彼がそばにいるから、晴臣くんはこんなに幸せそうなんだなあと思いました。バツイチの身としては、うらやましいくらいですよ」
さらに叔父さんは、父に向かって言った。
「さっきから一言も話さないけど、兄さんはどう思っているの?」
すると父は、目をしばたたかせながら言った。
「どう思っているも何も、俺だって突然のことに驚いているんだ。今まで、晴臣の趣味嗜好がどうだとか、具体的に考えたことはなかった。
女っ気がないのはわかっていたけど、内気だし、高校に入ってからは友達もいないようだったし、ただ単に、人付き合いが苦手なんだろうと……」
父の話がとぎれたところで、彼が口を開いた。
「今日は、晴臣くんと交際していることとともに、これからのことなどもお話ししたかったんですが、日を改めたほうがいいでしょうか」
すると、母が疲れたように言った。
「まだほかにもあるのね。受け止められるかどうかわからないけれど、後回しにされたら気になってしかたないから、今、全部話してください」
ずいぶん失礼な言い草だと思うけれど、それは多分、僕のせいでもあるのだ。僕のせいで、両親はひどく動揺している。
彼はあくまで誠実に、丁寧に話した。
「僕は現在、会社に勤めていますが、カフェを開くのが夢で、この数年、そのための準備をしながら暮らしてきました。本来ならば、あと3年ほどは貯金と勉強に当てるつもりでいたんですが、最近、とても条件のいい貸店舗が見つかりまして」




