9,それでもササジンに会ってみたい僕とうれしさと不安
ショックだった。辛くて苦しくて、一人の部屋で、ずっと泣いていた。
それがきっかけで不登校気味になってしまい、もちろん、その理由は誰にも言わなかったけれど、父に、学校に行かないならさっさと辞めて働けと激怒されたのだった。
あんな思いは、もう二度としたくない。ササジンにキモいと思われたくない。
だけど、友達としてならば、ひょっとすると、ササジンと親しくなれるかもしれない。
そこまで考えて、ふと我に返る。いやいや、まだ一緒に小此木山に行くなんて決まってないじゃん。
ササジンは、ホントにそこまで考えていなくて、僕が誘ったら、「そんなつもりじゃなかったのに」と思って、やんわりと断ってくるかもしれない。
でも、僕の見た目が冴えないことも、ササジンがそんなつもりじゃないかもしれないことを踏まえても、それでもやっぱり、僕はササジンに会ってみたい。
僕だって、もしかしたら実際に会ってみて、「イメージと違った」と思うかもしれない。なにしろ、一目惚れをしたといっても、写真一枚しか見ていないのだ。
たまたまあの写真はものすごく僕好みのイケメンに写っているけれど、実際はそうでもないかもしれないし。
どっちにしても、僕はササジンに会ってみたい。これは、ものすごいチャンスなのだ。
僕は、部屋にとって返し、スマホにメッセージを書き込む。
―― ホントですか? よかったら一緒に行きませんか?
断られても、お互いに気まずくならないように、あえてさらっと書いて、送信する。もしも断られても、平気なふりをすればいい。
多分、実際はすごく落ち込んで泣いたりするだろうけれど。
その日のうちに、返信は来なかった。
まあそうだろうなと思いつつ、僕はいつも通りに過ごした。もうなるようにしかならないのだと思うと、意外と気持ちは落ち着いていた。
ササジンのことが一段落したら(一段落ってなんだ?)、久しぶりに実家に帰って、桃太郎をモフモフしたり、母の手料理を食べさせてもらったりしようか、などと思いつつ。
そして、夜になった。今夜来なかったら、もうDMは来ないだろうし、ササジンと会うこともないだろう。
そう思い、レンジで温めた冷凍の炊き込みご飯、その他モロモロを持って部屋に戻ると、来ていた。
―― ぜひ行きましょう! 僕は土日が休みなので、そのどちらかでどうですか?
「あ……」
僕は、ローテーブルの前にへたり込んだ。嘘……じゃない。
すごく、すごくうれしい。でも。夢見ていたことが現実になったとたん、不安でいっぱいになる。
人見知りの激しい僕は、きっと初めてササジンに会ったら、緊張して挙動不審になってしまうだろう。キモいやつだと思われて、嫌われてしまう。
どうしよう……。だけど、ササジンが「ぜひ行きましょう!」と言ってくれているのに、断るなんてできない。それこそ決定的に嫌われて、もうSNSのつながりもとぎれてしまうに違いない。
こんなことを考えてうじうじしている自分のことが、つくづくいやになる。そもそも、僕が誘ったのだから、断るなんていう選択はあり得ない。
たとえ嫌われるにしても、会わずに嫌われるよりは、会って嫌われるほうがマシなのではないか。いや、そのほうが精神的なダメージは大きいような気がするけれど、とにかくもう、会うしかないのだ。
ていうか、会うのが目的じゃなくて、小此木山に行くのが目的なんだよ。まあ、実は僕の第一目的は会うことだったりするわけだけれど、あくまで建前は、小此木山に行って、空の写真を撮ることなのだっ。
覚悟を決めて、僕は返信した。
―― 僕はいつでも空いているので、ササジンさんの都合に合わせます。とても楽しみです!
うわ、参った。本当にササジンと会うことに、いや、一緒に小此木山に行くことになってしまった……。