82,びちょびちょのままベッドに移動することとクリームソーダと叔父さんの帰国
彼が部屋のドアを開ける。
「さあ入って」
中は、エアコンが効いていて、ひんやりしている。
「この部屋、久しぶり」
そう言いながら靴を脱いで上がるなり、彼に抱きすくめられた。
「本当に久しぶりだね。ああ、ずっとこうしたくてたまらなかったんだ」
僕は、ちょっとあせって言う。
「あっ、待って。汗かいてるから……」
暑い中を歩いて来て、びちょびちょで恥ずかしい。けれども、彼はつぶやいた。
「いいよ、このままで」
そして唇をふさがれる。キスなんて、本当に久しぶりだ。最後にしたのはいつだったっけ……。
甘く長いキスの後、彼にいざなわれ、僕たちは、そのままベッドに移動した。
僕たちは、裸のままベッドに横たわっている。エアコンが効いているにも関わらず、二人とも汗だくだ。
「晴臣くん」
彼が、僕の髪を撫でてくれる。
「とても素敵だったよ」
「あ……仁さんも」
そう言いながら、恥ずかしくて、僕は枕に顔をうずめる。
「腕、大丈夫だった?」
「うん」
「喉乾いただろ?」
「うん」
「シャワー浴びて、クリームソーダ飲もう」
「うん」
ああ、恥ずかしいけれど、なんて幸せな時間……。
「わー、おいしそう! それに、すごくきれい」
彼が作ってくれたクリームソーダは、なんとほんのりと赤いソーダの上に、赤いソースのかかったバニラアイスがのっている。
「赤いソースはイチゴで作ったんだよ。ソーダにも入れたんだ」
「すごーい……。あっ、写真を撮らなくちゃ」
僕はスマホを持って来て、美しいクリームソーダの写真を何枚も撮る。
「すごくよく撮れたよ。これ、スマホの壁紙にしようかな」
僕の言葉に、彼が笑う。
「壁紙の設定をする前に、まずは飲んでみて」
「ああ、うん。いただきまーす」
僕はストローを挿して、まずはソーダを飲む。
「おいしい! ちゃんとイチゴの味と香りがするよ」
それから、アイスのイチゴソースがかかったところをスプーンですくってぱくり。
「おいしーい! このソース、アイスとの相性もバッチリだね」
「そう? よかった」
彼もソーダを飲む。
「うん、おいしい」
「ねっ、僕これ大好き。仁さんって天才じゃない?」
彼があははと笑った。うれしくて、僕も笑った。ああもう、幸せすぎるう……。
ラグに並んで腰を下ろし、テレビを見ていると、彼が、そっと僕の左腕を取った。膝に乗せて、手首の辺りを優しくさする。
「細い腕だねえ。早くよくなあれ」
僕は、彼の肩に頭をもたせかける。
「仁さんがそうしてくれたら、すぐに治りそう」
「そうだといいけど」
ふふっとわらってから、彼が言った。
「この番組が終わったら、そろそろ帰る?」
「まだ帰りたくないな」
「本当は僕もずっといてほしいけど、でも、晩ご飯は家で食べたほうがいいよ」
「うん……」
「もう少ししたら、マンションに戻るんだろう?」
「うん、叔父さんが日本に帰って来る前には」
「それまでは、親孝行したほうがいい」
「家でご飯を食べるのが親孝行?」
「そうだよ。きっとお母さんは、晴臣くんがマンションに戻ることを寂しく思っているんじゃないかな」
「そうか……」
母の気持ちまで考えてくれる彼は、本当に優しいと思う。だから僕も、素直に家に帰ることにした。
そんなふうにして、ときどき彼と甘い時間を過ごしながら、夏が過ぎていった。
叔父さんが日本に帰って来る日取りが決まった。送ってくる荷物を受け取るために、僕はマンションに戻った。
母が掃除してくれていたので、どこもきれいだ。僕は、叔父さんの寝室をすぐに使えるように整えたりしたりしながら、徐々に生活のペースを取り戻していった。
叔父さんはとてもいい人だし、僕の恩人でもあるけれど、一緒に暮らしたことはないので、少し不安もある。まあ、最初のうちは緊張するだろうけれど、すぐに慣れるだろう。




