8,神様に届いた願いと「僕も行ってみたいなあ」の意味と過去の出来事
神様に、僕の願いが届いたらしい。夜になって、ササジンからDMが来た。
―― 僕も猫は好きです。今はマンションで一人暮らしなので飼えませんが。
今日の空っぽさんの写真、雲がむくむくしていて、ちょっと猫みたいですね。一枚ごとに少しずつ形が変わっていくのが、こま落としみたいで素敵です。
僕のSNS、ゆるゆるですが(笑)、空っぽさんに気に入っていただけてうれしいです。
あぁ~~~っ! あの雲が猫みたいだって、ササジンも僕と同じことを思ってくれたんだ。
ゆ、ゆるゆるだなんて……。でも、あのままの雰囲気をキープしてほしい。
急にせっせと更新し始めたりして、フォロワーが増えたら困る。僕だけのササジンでいてほしい、なんて。
僕は、さっそく返信する。
―― 僕もあの雲が猫みたいだって思ったんです。同じように感じていただけてうれしいです!
空の写真を撮るのは、いつもマンションのベランダか近所なので、今度小此木山あたりに写真を撮りに行こうかなと考えているところです。
出不精の僕は、なかなか遠出をする決心がつかないので、自分を鼓舞する意味で、あえてそう書いたのだったけれど。
翌日の夜になるのかと思っていたら、数分後に返信が来た。
―― 小此木山、いいですね。僕も行ってみたいなあ。
……え? えっ!? これってどういう……。
僕は、ローテーブルの前で正座して、スマホの画面を凝視しながら考える。「行ってみたい」とは?
純粋に小此木山に行ってみたいという意味なのか、はたまた、いや、まさか、僕と一緒に行きたいという意味なのかっ?
僕が「行こうと考えている」と言って、ササジンが「行ってみたい」と言ったら、ここで普通は、「じゃあ一緒に行きませんか?」と誘うのが自然な流れではないのか?
ササジンは、そこまで深く考えずにそう書いたのか、あるいは、「じゃあ一緒に」と僕が言うのを前提で書いたのか?
ということは、つまりはそういうことなのかっ!? いや、でも、まだ知り合ったばかりで、僕がどんなやつか知らないのに、そんなことってあるだろうか。
それはまあ、僕は最初に写真を見て一目惚れして、今は一日のうち23時間くらいはササジンのことを考えているわけだけれど。
だけど、ササジンは僕の顔も知らないのだ。そこで、はっとしてスマホをローテーブルに置き、僕は洗面台の前に走る。
洗面台の鏡の前に立ち、僕はまじまじと自分の姿を見た。
髪は一ヶ月前くらいに切ったのでまあまあだけれど、顔はどうだ? 体型は? こんなんでササジンに会って大丈夫なのか?
19歳にしては子供っぽい気がするし、生っ白ろくて、いかにも気弱そうで痩せていて、貧乏くさいというか、しょぼくれているというか。
僕のこのルックスを見て、ササジンはどう思うだろう。まあ、別に僕にイケメンを期待しているわけではないだろうけれど。
そうだ。そもそもササジンは、僕をそういう対象として考えているわけではないだろう。
そうじゃないからこそ、何も気にせず、軽い気持ちで「行ってみたいなあ」なんて書くのだ。そりゃあそうだ。
普通に考えて、ササジンの恋愛対象は女性だろう。あまり考えたくないけれど、もしかしたら彼女だっているかもしれない。
だから僕も、そういう気持ちを隠して、無邪気なふりをして……。僕が恋しているなんて知ったら、それこそドン引きしてSNSもブロックされて、二度とネットでの交流さえできなくなってしまうに違いない。
僕はふと、高校生のときのことを思い出す。僕には、ずっと片思いしている人がいた。
その人は同級生の(もちろん)男子で、ヘタレな僕に告白なんかできるはずもないけれど、それでも、好きな気持ちがダダ漏れしていたようで、ある日、いつも目で追っていた彼と目が合ったときに言われたのだ。
「お前、いつも俺のこと見てない? なんかキモいんだけど」