78,ヘタレで冴えない僕が王子様を慰める不思議と別れの切なさ
「あっ、じゃあ……。晴臣くん、大丈夫?」
「えっ、何が?」
顔を見ると、彼は心配そうに僕を見つめている。
「だって、その……」
かつて片思いしていて失恋した相手が、女の子と歩いていたことか。
「大丈夫に決まってるじゃん。今はこんなに素敵でラブラブな恋人がいるんだもん」
「あっ、そうか」
「大丈夫じゃなかったら仁さんに話さないし、それに」
「うん?」
「仁さんが心配してくれて、すごくうれしい」
まったく、なんて優しいんだろう。彼に比べたら、用賀くんなんて、なんであんなに好きだったのかと我ながら不思議になるくらいだ。
僕たちは、駅ビルの中のカフェに入った。僕は片手で簡単に食べられるサンドイッチを、彼はトマトの冷製パスタを注文した。
彼が言う。
「今日は晴臣くんが育った街を見られたし、おそろいの本も買えてよかったな」
「たいした街じゃないけど」
彼が笑う。
「でも、小さい晴臣くんが、あの公園を駆け回っていたのかと思うと感慨深いよ」
「そう?」
「うん。好きな人のことを知るのはうれしいことだよ」
「そうか。僕も仁さんのこと知りたいけど、でも……」
「何?」
「ちょっと怖い。仁さんと出会ってから初めて気づいたけど、僕ってけっこう焼きもち焼きみたいなんだ」
「そうなの?」
「どこかに仁さんに思いを寄せている人がいたらいやだな、なんて。だから、初恋の話とか聞いたら、ちょっと……」
「それなら、僕だってちょっと嫉妬したよ」
「え?」
「さっきの彼。けっこうイケメンだったし」
意外だった。
「えっ、だってただの片思いだよ。しかもキモいって言われてるし」
「でも、晴臣くんがずっとあの子のことを思っていて、学校に行けなくなるくらい傷ついて泣いていたんだと思ったら……」
彼は悲しげな表情をしている。
「もう過去の話だよ。仁さんに比べたら、用賀くんなんて全然たいしたことないよ。
仁さんのほうが100倍くらい素敵だよ。カッコいいし、優しいし、僕のこと、大切にしてくれるし」
なんだか不思議だ。なんでヘタレで冴えない僕が、パーフェクト・オブ・パーフェクトな王子様を慰めているんだろう……。
説得(?)の甲斐あって、ようやく彼がほほえんでくれた。
「ありがとう」
「そんな……」
やっぱり彼って素敵な人だし、大好きだ。僕の王子様……。
デザートのフルーツパフェを食べながら、彼が言った。
「これを食べたら、そろそろ帰る?」
「あ……」
「お母さんが心配するといけないから」
「そうだね」
まだまだ一緒にいたいけれど、しかたがない。うつむいていると、彼が言った。
「家の近くまで送って行くよ」
「ホント?」
「うん。なんならお母さんにご挨拶したいくらいだけど、それはまたいずれ」
そう言って、彼は笑った。
ブラブラと家に向かいながら話す。
「仁さん、明日はどうしてるの?」
「まあ、いつも通り、掃除をしたりして、あとはゴロゴロしているかな」
本当は明日も会いたいけれど、母の手前もあるし、そういうわけにもいかないだろう。
「また連絡するよ」
「うん」
間もなく、家の近くの曲がり角まで来てしまった。
「あそこの電柱のところがうちだよ」
「そう」
本当は、まだ離れたくない。
「今日はわざわざこんなところまで会いに来てくれて、どうもありがとう。顔が見られて、たくさん話せて、すごくうれしかった」
「僕もだよ。晴臣くんの失恋の相手にも会えたし」
「もう……」
彼は優しくほほえんでいる。
「じゃあ、もう行って。ここで見送っているから」
「……うん」
「後でまた、電話で話そう」
「うん。じゃあ、また」
僕は、彼の顔を数秒見つめてから、家に向かって歩き出す。門の前まで行って振り返ると、小さく手を振ってくれた。
僕も振り返してから、門の内側に入る。ああ、切ない……。




