76,久しぶりの電話と変顔の応酬とモデルのような彼
ただし、彼は友達じゃなくて恋人だけれど、もちろん、それは内緒だ。
―― じゃあ、足が治って仁さんに会えるようになったら、そう言うことにする。
―― うん、それでいいよ。会える日を楽しみにしてる。
捻挫と打撲だから、意外とそんなにかからずに出かけられるようになるかもしれない。うれしいけれど、いろいろ考えると、ちょっと不安だ。
実際、1週間もしないうちに、足のケガはずいぶんよくなり、僕は二階の自分の部屋に移った。まだ痛みはあるし、上り下りは一段一段ゆっくりだけれど、多少の運動も兼ねて。
夜、メッセージとともに、彼から自撮りが届いた。
―― 遅くなってごめーん。
思いっきり変顔をしているのだけれど、それがとてもかわいい。噴き出しながら返信する。
―― こんなかわいい変顔初めて見た。ところで、今から電話してもいい?
―― えっ、それってもしかして?
電話をかけると、出てすぐに彼が言った。
「今二階にいるの?」
「そう。今夜から自分の部屋で寝るんだ」
「階段は大丈夫?」
「まだちょっと痛いけど、ゆっくりならなんとか」
「無理しないでよ」
「大丈夫だよ。ソファは寝にくいし、ずっと下にいたら足の筋肉が弱っちゃいそうだから」
「なるほどね」
それから彼は、感慨深げに言った。
「話すの、久しぶりだね」
「うん。仁さんの声が聞けてうれしい」
「僕もだよ。会えるまで、あともう少しだね」
「もう二、三日したら、運動がてら、近所を散歩しようかと思っているんだ」
「あっ、じゃあ、週末に近くまで会いに行くよ」
「え?」
「遠出はまだ無理だろ? だから、晴臣くんの家の近くまで行く」
「あ……」
「ダメ?」
「ダメじゃない。会えるのはまだまだ先だと思っていたから、うれしくて……」
「僕もうれしいよ。一緒にお茶でも飲もう」
「うん」
うれしい。実家に帰って来たときは、もう当分会えないのだと思ってずいぶん落ち込んだけれど、あともう少し、ほんの数日後には会えるのだ。
にやけていると、彼が言った。
「あのさ、晴臣くんの自撮りも送ってほしいな」
「変顔? あんまり自信ないけど」
「いいね、キス顔でもいいけど」
「えっ、ちょっと待ってね」
キス顔は恥ずかしいので、唇を突き出した変顔をして、ギプスの手で投げキッスをするポーズを撮って送った。彼が笑い声を上げる。
「いいね、めっちゃいい」
今さらながら、恥ずかしくなって、ちょっと後悔する。これなら普通のキス顔のほうがマシだったかも……。
ひとしきり笑ってから、彼が言った。
「腕、早く治るといいね」
「うん」
その日は朝からいい天気だった。もしも雨だったら、母に出かけることを止められるだろうと思っていたので、少しほっとした。
休日なので、父はまだ寝ていて、母と二人の朝食だ。僕は、内心ドキドキしながら、さり気なさをよそおって切り出した。
「あのさ、今日はいい天気だし、リハビリも兼ねて久しぶりに出かけようかと思って」
「あら、そうなの?」
母は味噌汁の中のジャガイモを拾って口に入れる。予想に反して反応は薄い。
「駅前の本屋に行ったりしたいから、もしかしたら、カフェで休んでから帰ってくるかも」
「そう。あまり無理しちゃダメよ」
「わかった」
ふー……。「お母さんも一緒に行く」なんて言われたらシャレにならないと思っていたのだけれど、母もそこまで暇ではないらしい。
線路沿いの公園のベンチに座って待っていると、約束の時間通りに彼が現れた。僕は思わず立ち上がる。
久しぶりに見る彼は、白と黒のブロックチェックのシャツをさわやかに着こなしていて、まるでモデルのようだ。僕に気づいて、ちょっと手を上げると、長い足で、あっという間にそばまでやって来た。
「お待たせ」
「あ……」
感激で、すぐには言葉が出ない。




