7,ササジンに写真を見てもらいたい僕と再びのDMと猫のような雲
やっぱり僕は、ああでもないこうでもないと考え続けて疲れ切って、しばらくの間、ベッドで死んでいた。
いろいろ気になることはあるけれど、僕にできるのは空の写真を撮ることだけで、それをササジンに見てもらいたい。でも、似たような写真ばかりでは、そのうち飽きて、見てくれなくなってしまうかもしれない。
基本的に、写真はマンションのベランダから撮るか、コンビニやスーパーに出かけたときに、近所で撮るだけだ。だが、たまには別の場所で、たとえば自然豊かな場所に行って撮るというのはどうだろう。
そうすれば、空の下の風景に変化があって、雰囲気の違った写真が撮れるのではないか。時間だけはたくさんあるのだし、どこかに出かけてみようか……。
そう思ったものの、どこに出かければいいのか、具体的な場所が思いつかない。ぼっちの僕は、久しく観光地にも行っていないし。
結局僕は、翌日もベランダから空の写真を撮り、一日中、マンションから一歩も出ずに過ごした。
夜になってから、ササジンからDMが来た。一回きりではなかった。
―― 空っぽさんは19歳なんですね。僕は26歳のサラリーマンです。
猫と写っている写真は、連休に従妹が東京に遊びに来たときに、一緒に猫カフェに行って、彼女が撮ってくれたものです。
撮った写真をくれて、僕にもSNSに投稿しろと言うので、そうしました。SNSは、学生時代に友達に誘われて始めましたが、あまり使っていませんでした。
でも、今は空っぽさんの写真を見るのが楽しみです。何度もDMしてすいません。
なんだか、胸がキュンキュンする。猫カフェうんぬんは、僕が勝手に調べて、もう知っていたけれど、26歳という年齢や、従妹に慕われている様子や、友達に誘われて興味のないSNSを始めたことに、彼の人柄を感じる。
それに、僕の写真を見るのが楽しみだと書いてくれたことが、たまらなくうれしい。
でも、「何度もDMしてすいません」ということは、DMしたことを申し訳なく思っているというニュアンスだ。
つまり、僕が返信しなければ、これで終わってしまう。そんなのいやだし、なんなら僕は、一生でもDMを続けたいくらいだ。
もちろんそれは社交辞令で、本心では、これで終わりでいいと思っているのかもしれないけれど、あえてそこには気づかないふりをしようと決めた。
もう僕は、迷うことなく返信の文章を書き込む。
―― ササジンさんは、とても優しい方なんですね。猫がお好きなんですか?
僕も猫が大好きで、実家でも飼っているので、それで猫写真を検索して見ていて、ササジンさんの写真に出会いました。
僕は、ササジンさんのSNSのゆるい感じが、かえって素敵だと思いました。もしも迷惑じゃなかったら、またDMいただけるとうれしいです。
送信。ああもう、ササジンのことが大好きだあ!
昨日と今日は休日だったから、ササジンはDMをくれたけれど、明日からはどうだろう。仕事が忙しくて、それどころではないかもしれないし、そうでなくても、もう僕にDMする気なんてないかもしれない。
でもでも。神様、どうかササジンがDMをくれますように……。
翌日の月曜日は、部屋の掃除をしつつ、写真を撮りに出かける場所について考えた。
ちょっとした山に登って、そこから山並みを入れつつの空写真はどうだろう。小学校の秋の遠足で行った小此木山くらいだったらば、それほど苦労せずに頂上まで行けるだろう。
そんなことを考えつつ、ふと窓の外に目をやると、むくむくの雲が、ササジンが抱いていた猫みたいだ。いやまあ、猫みたいだというのは大げさにしても、雲を見て、あの猫を思い出したのは間違いない。
僕はスマホを持ってベランダに出て、むくむくの雲が風に吹かれて刻々と形を変えていく様を撮った。