63,一緒にお風呂に入りたいことと意外に焼きもち焼きな僕とあのとき言った言葉
「それなら、僕も同じだよ。でも、やっぱり決定打はスマホのチャームじゃないかな。
真子もそう言っていたし、普通、男はああいうのは付けないもんね」
「そうだよね。女の子でもあんまり付けないんじゃない? 見たことないもん」
「あれを買ったのって、もしかして僕たちだけなのかな」
「そうかも。たくさんあったけど、あれって売れ残ってたんじゃない?」
彼が、僕の頭の上で笑った。
「そうかも。でも、僕はすごく気に入っているよ」
「僕も」
売れ残りだってなんだって、あれを付けているのが世界中で僕と彼だけだったなら、それはそれでとてもうれしい。彼が言った。
「ねえ、今日は一緒にお風呂に入りたいな」
四月になった。叔父さんのマンションで暮らし始めて、一年が過ぎた。
去年の今頃の僕は、打ちひしがれて、とても孤独で、約半年後に人生が激変するなんて夢にも思っていなかった。まさか、こんな幸せな毎日が待っているなんて……。
僕は相変わらず彼のことが大好きで、二人の仲も順調だ。
彼の会社も新年度を迎えた。実は密かに、会社内で人事異動があったり、新入社員が入ってきたりして、彼に熱い視線を向ける人が現れたらどうしよう、なんて思っていたのだけれど。
彼の部署内に変化はなく、まったくそういうことはないらしい。ほっとしつつ、自分が意外に焼きもち焼きで独占欲が強いことを知り、ちょっと驚いている。
いつものように、週末のカフェでランチを食べながら、彼が言った。
「ゴールデンウィークはどうしようか」
僕はゴールデンウィーク直後に二十歳の誕生日を迎えるので、前半は彼と過ごし、後半は実家に帰って、そのまま誕生日を祝ってもらうことになっている。その前半についてだ。
「僕は、仁さんがしたいと思うことを一緒にしたい」
彼がほほえむ。
「かわいいことを言ってくれるね」
「だって本心だもん」
「そう。じゃあ、一日は買い物に行って、あとは部屋で料理したり、ネットの映画を見たりしてのんびりするっていうのはどう? 結局いつもと変わらないけど」
「それがいい。そういうの好きだし、いつも楽しいもん」
彼と一緒にいられるだけで楽しいし、幸せだ。
「僕もだよ」
うれしい。ああ、なんてきれいな笑顔……。
うっとりと見とれていると、彼がハッとしたように言った。
「そう言えば、ゆうべ、真子からメッセージが来たんだ」
「えっ、なんだって?」
「例の相手に告白したらしい。付き合うことになったそうだよ」
「へえ、すごい。よかったね」
「うん、すごくうれしそうだったよ」
「真子さん、勇気があるなあ」
僕のつぶやきを聞いて、彼が眉毛を上げた。
「僕だって、すごく勇気があっただろう?」
「あ……」
去年の秋のあの日、告白してくれた彼は、とても凛々しくて素敵だった。あの日から、僕の人生が変わった。
彼が、一人うなずきながら言う。
「そういうところ、僕と真子は似ているのかもしれないなあ。うん、さすがはいとこ同士だ」
「あの、どうもありがとう。僕は、とても自分から言う勇気がなかったから」
すると、彼が言った。
「そんなことないよ。あのとき、君が駅で『帰りたくない』って言わなければ、告白していなかったと思う」
「あ……」
「あの言葉で決心がついたんだから、君のおかげでもあるんだよ」
「どうしても、言わずにいられなくて。あのとき、どうしても仁さんと離れたくなくて……」
彼がほほえむ。
「言ってくれてよかったよ」
そう、なのか。では、もしもあのとき黙っていたら、今も二人は友達のままだったのだろうか。
もしもあのまま帰っていたら、その後のいくつもの楽しい出来事もないまま、僕は今も相変わらず空っぽのまま、空の写真を撮っていたのだろうか。
そんなことを考えていたら、胸がいっぱいになって、涙がこみ上げそうになった。ぐっとこらえていると、彼が優しく言った。




