6,まさかのDMと自己紹介と思い切って付け足した一文
少しお腹も空いたので、早めの夕飯にして、寝るまでにまた空いてしまったら、夜食を食べればいいか、などと思いつつ、とりあえず冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して、自分の部屋に行く。
ちょっとドキドキしながらスマホを開く。ササジンの頭痛はもう治まっただろうか……。
すると、うれしいことに、ササジンからのいくつかの「いいね」とともにコメントが。と思ったら、なんとコメントではなくDMが来ている。
ななななんてこった!! キャップを開けかけたペットボトルをローテーブルに置いて、僕はDMを開く。
―― いきなりDM失礼します。おかげさまで二日酔いもすっかりよくなり、空っぽさんの写真、じっくり拝見しました。
どれも素敵で、特に朝焼けの写真にはうっとりしました。それで、こんな素敵な写真を撮るのはどんな人だろうと興味がわきました。
以前のコメントに「僕」とあったので、男性だということはわかりましたが。もしも気が向いたら教えてください。
「え……」
あまりのことに、しばらく息をするのも忘れていた。まさか、こんな。夢じゃないのか?
こんな素敵すぎる展開になるとは思ってもみなかった。ササジンが僕の写真を見て「いいね」してくれただけでも十分にうれしいのに。
それで、もしもコメントを書いてもらえたら最高、と思っていたら、まさかのDM。しかもこの内容。
あの朝焼けの写真にうっとりしてくれたのか。それで、僕に興味を持ってくれたのか。
僕は、スマホをにぎりしめたまま、ベッドにダイブした。ああもう、うれしすぎて、僕はどうにかなってしまう!!
たしかに、僕はプロフ欄に、「空の写真を撮っています」としか書いていない。そんなのは、見ればわかることで、プロフィールでもなんでもないが、それ以外になんと書いていいかわからなかったのだ。
枕に顔をうずめながら考える。なんて返信しよう。もしや、ここが運命の分かれ道になるのではないかっ!?
アホなことを書いてガッカリされたり、呆れられたりしないように、細心の注意を払って文面を考えねば。
自分のことを、どの程度まで出せばいいのだろう。あまり素っ気ないと、いやがっていると勘違いされて、それっきりになってしまいそうだし、あんまりあれこれ書きすぎてもめんどくさいやつだと思われそうだし……。
だからといって、嘘は書きたくない。好きな相手に、嘘はつきたくない。
僕は、ペットボトルのお茶のことも忘れて、スマホに文章を書き込んでは消し、書き込んでは消しを繰り返した。途中で暗くなったので、電気を点けた。
―― DMありがとうございます。とてもうれしいです。
僕は19歳で、海外赴任中の叔父さんのマンションの管理をする、というか、そこに住むという、アルバイトとも言えないようなアルバイトをしています。
空の写真を撮るのが唯一の趣味です。
それから、思い切って最後に付け足す。
―― 偶然、ササジンさんが猫と写っている写真を見つけて、とても素敵な人だと思いフォローしました。
何度も文面を読み返す。これでいいのか、素敵な人だと思ったなんてキモいだろうか……。
でも、これが事実だ。これでキモいと思って引かれるなら、そういう運命なのだ。
僕はドキドキしながら、送信ボタンをタップした。
ようやく思い出してペットボトルに手を伸ばすと、お茶は、もうすっかりぬるくなっていた。
ササジンは、僕がどんな人か興味がわいて、それに対して、「僕はこんな人です」って返信したから、もうこれで終わりだろうか。
僕のことを、しょーもないアルバイトをしているつまらないガキだと思っただろうか。
DMをもらったことがうれしくて、舞い上がって夢中で返信したけれど、あれを読んで、ササジンはどう感じるんだろう。