4,美しい朝焼けとスマホに保存した写真とまちぼうけ
これも多分、ヒマで、あまり体力を使っていないせいではないかと思うのだけれど、いつも朝は、おじいちゃんかと思うくらい、早く目が覚めてしまう。
でも、そのおかげで、朝焼けの美しさを知った。今朝もとびきり早く目覚めてしまった僕は、スマホの電源を入れながら、パジャマのままベランダに向かう。
朝焼けがきれいだったら、写真を撮ってSNSに投稿しよう。そして、ササジンに見てもらいたい。
「おぉ……!」
期待通りの朝焼けだ。
朝焼けは、湿度によって色合いが変わるらしい。湿度が低いとオレンジっぽく、湿度が高いと赤っぽくなるとネットに書いてあった。
今朝は、僕の好きな赤っぽい朝焼けだ。赤というより、濃いピンクと言ったほうがいいだろうか。
朝焼けの色合いは、時間の経過とともに刻々と変化する。太陽がすっかり昇らないうちが勝負だ。
僕は、夢中になって、何枚も写真を撮った。そうしているうちにも、だんだん空から赤味が消えて行く。
やがて朝焼けは終わり、けっこうな枚数が撮れたので、部屋に戻る。
たくさん撮った中から、時間をかけて選んだ三枚をSNSに投稿してから、ササジンのページをチェックする。なかば予想していた通り、まだ更新はない。
例の、猫と一緒に写った写真をしばらく眺めながら考えてから、僕はその写真を自分のスマホに保存した。僕ってヤバいやつだろうかと思いつつ、欲望にあらがえなかったのだ。
着替えて顔を洗い、早朝の街をコンビニに向かうため、マンションの部屋を出た。エレベーターを待ちながら考える。
ササジンは、まだ寝ているだろうか。それとも、もう起きて、出勤の準備をしているだろうか。
ササジンが「いいね」してくれたらうれしいな。コメントも書き込んでくれたらもっとうれしいけれど。
でも、あんまりSNSに積極的じゃないみたいだから、たまにしか見ないかも……。
思った通り、待っていてもササジンからの反応はない。チェックしてみても、自身の更新もしていない。
そりゃそうだ。サラリーマンは忙しいんだから、呑気にSNSなんてやるヒマはないのだ。
そう自分に言い聞かせるものの、やっぱり寂しい。ササジンに朝焼けの写真を見てほしい。
あの写真を見たら、彼ならば、きっと「いいね」してくれるんじゃないかと思うのだけれど……。
その日は一日中、ササジンの反応を待っていたものの、とうとうなかった。ガッカリしたけれど、あの更新頻度ならば、見ていないのも当たり前な気はする。
いつか彼が見てくれることを信じて、毎日空の写真を投稿しよう。本当は、ササジンが最初に見たとき、あの朝焼けの写真がトップにあってほしいけれど、更新しないでいて、TLから消えて忘れ去られてしまうのも悲しい。
そう思い、いつも以上に空の写真を撮ることに力を注いだ。いつも以上に空を見上げて、いい形の雲や、雲間からのぞく太陽が見えれば、構図にも気を遣いながら、何枚も撮っては厳選したものを投稿した。
僕にできることはそれしかないのだから。かすかにでも、ササジンとつながっていられることを信じて。
たまに「いいね」がつき、ササジンかと思って勇んでチェックすると、ほかの人で、その人には申し訳ないけれど、ひどくがっかりした。結局、ササジンの反応も更新もないまま、週末になった。
こうなることはわかっていたけれど、それでもやっぱり気持ちが落ち込んだ。たかがSNSくらいで、しかも何か悪いことがあったわけでもないのに、こんなに落ち込む僕ってバカなのか……。
土曜日には、あきらめの境地になって、とは言いつつ、頭の中には、いつもササジンがいたけれど、ちょっと落ち着こうと思って、空写真を撮るのもSNSのチェックもお休みした。