2,僕を虜にする笑顔とSNS
実家で猫を飼っていることもあり、やっぱり猫の画像は癒される。犬も鳥もいいけれど、やっぱり猫が一番だ。
それで、その日もコンビニのヤンニョムチキン弁当で昼食にした後、ローテーブルの前に胡坐をかいて、スマホでSNSの猫画像を見て暇をつぶしていた。
すぐ後ろには、ベッドがあり、眠くなったら、そのまま寝てしまおうと思っていたのだ。……が。
ハッとして、スワイプしていた指を止め、急いでちょっと戻る。
「あ……」
その人は、むくむくの白い猫を抱きしめて、顔をほころばせていた。その笑顔にやられた。
なんて……なんて……なんて素敵なんだ。ひかえめに言って、僕の好みにドンピシャだった。
猫がメインなので、その人は、ちょっと画面左に寄っていて、頭頂部も見切れているけれど、額にかかる前髪はいい感じだ。
しばし見とれたあと、画像元のページに飛ぶ。ハンドルネームは「ササジン」。
アイコンは、これは、ブロッコリーの小さなひと房だろうか。だが、このアイコンでは、猫と写っているのがササジン本人なのかどうかはわからない。
フォロワーもあまり多くなく、投稿もまばらで少ない。SNS運営にあまり熱心ではないらしい。
何かわからないかと、フォロワーをチェックしてみる。何人目かの猫のイラストのアイコンを開くと、かわいらしい女の子の自撮りに混じって、さっきのと同じ画像があった。
「あぁ……」
またも声が漏れてしまう。
彼女か。そりゃそうだよな。あんなにイケメンなんだし。
あっ、言い遅れたけれど、僕の恋愛対象は同性なのだ。多分、生まれつきだと思う。
まだ誰にもカミングアウトしたことはないし、今のところ、するつもりもない。
ガッカリしつつ、画像に添えられたキャプションを読む。
―― 連休に東京に遊びに行って、いとこのお兄ちゃんと猫カフェに行ったよ♪
「なんだ、いとこか……」
SNSでたまたま見かけただけの人に、彼女がいようがどうだろうが関係ないのに、なぜかほっとしてニヤつく僕。
東京に遊びに行ったと言っているのだから、それではササジンは東京在住なのか。えっ、じゃあ、意外と近くに住んでいたりして。
僕はもう一度、ササジンのページに戻る。フォロワーが少ないのも、たまにしか投稿していないのも、なんだか好ましい。
「サラリーマン。趣味は料理」と、いたってシンプルなプロフィール。なんか、いい。
写真を見た時点で好きになってしまっていたので、プロフィールになんと書いてあってもいいと思ったかもしれないけれど、素っ気ないくらいの短さに、かえって好感を持った。
僕は、猫と写っている画像に「いいね」してから、ササジンをフォローした。それから、じっくり過去の投稿を見て行く。
「出張中」と書かれた記事には、新幹線らしき窓辺に置かれた駅弁。金額がゾロ目のスーパーのレシート。空の写真があるのが、妙にうれしい。
趣味は料理と言いながら、料理の写真が一枚もないのもなんだかいい。とにかく、ゆるい感じがいい。
あまり多くない全投稿を見終わる頃には、僕はすっかりササジンの虜になっていた。この投稿頻度では、次の投稿がいつになるかわからないけれど、これから毎日、いや、一日に何度もチェックしてしまいそうだ。
ササジン……。
SNSをチェックしたら昼寝をするつもりだったのだけれど、すっかり眠けは覚めてしまった。それで、スマホを持ったまま部屋を出て、ベランダに向かう。
この部屋は7階なので、とても見晴らしがいい。空に浮かんだ雲もいい感じだ。
僕は空の写真を撮って、そのままSNSに投稿した。そして、すぐにスマホを閉じる。
ササジンのことで、一人盛り上がってしまったけれど、これと言ってやることもないし、やっぱり、少しベッドで横になろう。そう思い、部屋に戻った。




