182,彼の気持ちと真子さんを泊めることと実質的な結婚
「そ、それは……」
「真子の気持ちもわからなくなはいよ。僕たちだって、二人っきりで部屋でいろんなことをしたし、旅行にも行ったし」
「あ……うん」
「だけど僕は、10代の頃から叔母さん夫婦にはとてもお世話になっていて、その立場で、騙すようなことはできない。しかも真子は、両親にとても大切にされているんだ」
「そうだよね、一人娘だもんね」
「だから、今からもう一部屋取るのは無理だとしても、まあ、晴臣くんと相談してからとは言ったんだけど、どちらか一人だけでもここに泊まるとか……」
「僕ならかまわないよ」
「ああ、ありがとう。とにかく僕は、叔母さんに嘘はつけないし、聞いてしまった以上、二人が一緒に泊まることも容認できないって言ったんだ。
それで、どうするか健壱くんと話し合って決めてほしいって伝えた。真子なら、ちゃんと考えてくれると信じているけど……」
「うん。きっと大丈夫だよ」
「ここに二人はさすがに無理だよな。布団を敷くスペースもないし……あっ!」
彼が突然大きな声を上げた。
「え?」
「もしも泊めることになったら、布団を買わなくちゃいけないね。それに、その後、その布団はどこにしまえばいいんだ?」
「あ……」
確かに、ただでさえ少ない収納スペースに布団をしまう余裕はないか……。
その日、真子さんと健壱さんがニュアージュにやって来た。席に着くなり、健壱さんが言った。
「この度は、ご迷惑をおかけしてすいません」
彼がにこやかに答える。
「僕のほうこそ、めんどくさいことを言ってごめんよ」
「いえ、お兄さんの立場だったら当然だと思います」
「バカなことを言ってごめんね。今夜はお世話になります」
そう言って、真子さんが深々と頭を下げた。結局、健壱さんだけがホテルに泊まり、真子さんは僕たちの部屋に泊まることになったのだ。
「晴臣くんもごめんね」
真子さんは、僕にも頭を下げた。
「そんな、僕は全然」
むしろ、久しぶりに真子さんと話せるのはうれしい。もっとも真子さんは、僕なんかと話すより、ずっと健壱さんと一緒に過ごしたいだろうけれど。
食事をした後、二人は観光をするために出かけて行った。空き巣犯がまだ捕まっていないこともあり、真子さんは、ニュアージュの閉店時間に再びここに来て、三人でマンションに帰ることになっている。
「おじゃまします。わあ……素敵な部屋だね」
真子さんは、上がり框にバッグを置きながら、僕たちの部屋を見回す。彼が言う。
「もう少し広ければ、健壱くんにも泊ってもらえたんだけどね」
「ううん、私だけでも泊めてもらえて感謝してます」
彼は笑いながら言う。
「さあ、遠慮せずに上がって」
「はあい」
「何か飲む?」
「ううん、寝かせてもらえるだけで十分。あと、シャワーを使わせてもらえれば」
「布団は、ちょっと窮屈だけど、このテーブルの横辺りに敷いてもらおうと思うんだ。ちょっとテーブルを脇に寄せたほうがいいかな」
「十分十分、全然大丈夫だよ」
布団は、先日二人で近くのホームセンターに行って買ってきたのだ。
彼が先にバスルームに行ったので、結局、真子さんと僕は、順番を待ちながら冷たいお茶を飲むことにした。グラスをもてあそびながら、真子さんがいたずらっぽく言う。
「なんだか新婚家庭におじゃましちゃったみたいで気が引けるけど」
「そ……そんなこと、全然気にしないでください」
そんなふうに言われると、かえって恥ずかしい。真子さんがふふふと笑う。
「でもさ、二人は実質、結婚したっていうことなんでしょう?」
「えっ、あっ。そう、なんですかね」
「そうでしょう。一緒に暮らして、一緒にカフェをやって、ご家族も公認なんだもの」
「……ですよね」
もちろん、僕はそのように思っているし、彼も同じだと思うけれど、わざわざ口にするのはとても照れくさい。
「仁兄ちゃんはどう?」
「はい?」
「一緒に暮らしてみて、前と変わったことはある?」




