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180/183

180,体中上書きされることと沖縄土産と陸斗くんの質問

「へえ、そんなふうには見えなかったよ」


「ふうん……」


「あんまりカッコよくて惚れ直しちゃった」


 しばしの沈黙の後、彼が言った。

 

「晴臣くん、こっちにおいで」


 暗闇の中、身を寄せると、彼が両腕でしっかりと抱きしめてくれた。

 

「腕もほっぺも、全部僕が触れて上書きしてあげる。それ以外の部分も、体中全部」


「あ……」




 8月も後半に入った頃、陸斗くんからメッセージが来た。

 

―― 家族で沖縄旅行に行ってきたのでお土産を渡したいんですけど。


―― ありがとう、うれしいな。ニュアージュに来る?


―― 出来れば日下部さんと二人でお会いしたいんですけど。



 えっ、またか。でも、さすがに今回は深刻な話にはならないだろう。

 

―― わかった。じゃあどうしようか。



 そして僕は、夏休み中の陸斗くんと駅ビルの中のファミレスで会うことになったのだった。

 

 

 

 久しぶりに会った陸斗くんは、沖縄帰りらしくこんがりと日焼けしている。注文をすませた後、僕は言った。

 

「いい色に焼けてるね」


「日下部さんは全然焼けてませんね」


「うん、マンションとお店の往復しかしていないからね。朝早く出て、帰りは夜だし」


「ですよね。夏休みは取らなかったんでしたっけ」


「そう。僕のせいでいっぱい休んじゃったからね」


「あのときはすごく心配しましたけど、元気になられてホントによかったですね」


「ありがとう」


「あっ、これ」


 テーブルの向かい側から、陸斗くんが大きなビニールのバッグを二つ差し出した。

 

「日下部さんたちの分と、日下部さんのお母さんたちの分です」


「えっ、お母さんにまで?」


「はい、お母さんにもとてもよくしていただいたので。ちんすこうと、ソーキ蕎麦のセットです」


「うわぁ、ありがとう。気が利くねえ」


「母親のアドバイスです」


「そうか、ホントにありがとう。楽しみだなあ」


 バッグの中をのぞいていると、陸斗くんが言った。

 

「あの」


「うん?」


「この前、夏休み中の登校日だったんです」


「そう」


「そのとき、島永くんに気になることを言われまして」


「えっ?」


 ぎくりとする僕。

 

「もちろん、もう別れたんでちゃんと話したわけじゃないんですけど」


「うん」


「廊下ですれ違いざまに、『日下部さんの頬っぺた、めっちゃ柔らかかったぜ』って」


「え……」


「驚いて立ち止まったら、ニヤニヤしながら『手首、めっちゃ細かったぜ』って」


 なんだか、いやな展開になってきた。マズい。とてもマズい。

 

「呆気に取られていいるうちに、さっさと行っちゃったんですけど、もしや、彼が日下部さんに失礼なことをしたんじゃないかと、もう気になって気になって……」


「いや、失礼っていうか……」


 確かに失礼じゃないとは言えないけれど、どこまで陸斗くんに話していいものか。こんなことなら、あらかじめ彼と相談しておけばよかった。

 

「島永くん、ニュアージュに行ったんですか?」


「いや、来てないよ」


「じゃあ……」


「あっ、ええと、見田山神社のお祭りで偶然会ったんだ」


「笹垣さんと行ったんですか?」


「そう。そうしたら、すごく混んでいてね」


「それで?」


「え?」


「それで、どうして頬っぺたが柔らかいって」


「だから、それは」


 どうしよう、どうすればいい? 僕は必死に考える。

 

 ここは、あれだ。ニュアージュを休業したときと同じパターンだ。

 

 下手にごまかそうとすれば破綻してしまうから、話せる範囲で本当のことを言うのだ。そう決めたそばから、陸斗くんが核心を突くような質問をする。

 

「彼、一人だったんですか?」


 さすがにお祭りに一人で行く人もなかなかいないだろう。

 

「お、お友達が一緒だったけど、用事があったのか先に帰っちゃって」


 僕は自分に言い聞かせる。大丈夫、嘘はついていない、はず。

 

「ふうん、お友達。……それで?」

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