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177,彼とはぐれたことと後ろから声をかけられたこととメイクをした男の子

 僕たちが行くのはニュアージュの閉店後なので、お神輿やお神楽は終わっているけれど、お祭りの雰囲気を味わうだけでも楽しそうだ。二人でお祭りに行くというだけで、僕は朝からウキウキだった。

 

 

 

 駅を出ると、すでにすごい人出で、みんなぞろぞろと神社に向かって歩いて行く。彼が言った。

 

「はぐれないように気をつけよう」


「うん。大丈夫だけど、もしもはぐれたら電話するね」


 何かあったときに困らないように、スマホもちゃんと持って来た。彼がほほえむ。

 

「僕もそうするよ」


「もしもはぐれたとして、二人同時に電話をかけたらどうなるのかなあ」


「うーん、話し中になるのかな」


「それは困る」


 そんな話をしながら、僕は周りを見る。浴衣姿の女の子のグループやカップルもいて、みんな楽しそうだ。

 

「あ、金魚すくいだ」


「やる?」


「でも、すくって連れて帰っても金魚鉢がないし」


 どうでもいいことを話しながら歩くだけで、僕はうれしくてニヤニヤしてしまう。

 

 人でごった返しているから、手をつないでいても誰も見ないだろうし、本当はちょっとつないでみたい気持ちもある。ただ、自意識過剰な僕は、その一歩が踏み出せなかった。

 

 

 神社に近づくと、境内から音楽と太鼓の音が聴こえてきた。そう言えば、夜は盆踊り大会が開催されると聞いた気がする。

 

 通りのはじっこで、大学生風の男の子たちが輪になって騒いでいる。人波は、その輪を迂回して流れていて、行く人と帰る人の二本の流れが、そこだけひときわ混み合っている。

 

 人に揉まれながらじりじりと進んでいると、男の子たちがワッと笑い声を上げた。数秒そちらに気を取られた後、振り返ると、彼がいなかった。

 

 

 嘘……。キョロキョロと見回しても、背の高い彼の姿がどこにも見当たらない。電話をかけようにも、ここはあまりにも混みすぎている。

 

 でも、あわてることはない。とりあえず、境内まで行ってから電話をかけることにしよう。

 

 今かけたとしても、きっと再会できるのは神社に着いてからだろう。そう思って、僕は前を向いて足を進める。

 

 

 

 やっとのことで神社に着いた。首を伸ばして辺りを見回してみるものの、やはり彼の姿はない。境内には櫓が建てられ、その上で太鼓を叩いている人がいて、周りには盆踊りをする人の輪ができている。

 

 こんなにベタにはぐれることってあるのか……。そう思いながらスマホを取り出していると、後ろから声をかけられた。

 

「もしかして日下部さん?」


 振り向くと、笑顔でこちらを見ているのは、なんと島永くんだった。手に缶ビールを持っていて、横には、髪を明るい色に染め、うっすらとメイクをした男の子がいる。

 

「あ……島永くん!」


「こんなところで一人で何してるんすか?」


 そう言いながら、島永くんはビールをあおる。高校生なのに……。

 

 注意しようかどうしようかと思っていると、隣の男の子が、胡散臭そうに僕を見ながら島永くんに聞いた。

 

「誰?」


「ちょっとした知り合いだよ」


 ぶっきらぼうに言ってから、島永くんは僕に笑いかける。

 

「で、何してるんすか?」


「それが、仁さんとはぐれちゃって」


「何やってんすかー」


 島永くんは大げさにのけぞる。声が大きいのとオーバーアクションなのは、酔っているせいだろうか。

 

「近くにいるはずなんだけど」


「そうっすかね。あーわかった、しょうがないから俺が一緒に捜してあげますよ」


「いや」


 それには及ばないと断ろうとしたとき、男の子が島永くんの腕を引いた。

 

「なんだよ」


「行こう」


「なんでだよ。この人が困ってんだろうがよ」


 すると、男の子がピシャリと言った。

 

「困ってるのは君に対してでしょ」


「なんだって?」


 島永くんが、苛立たしげに男の子を見る。僕はあわてて割って入る。

 

「ちょっと待って、僕なら大丈夫だから」


 だが、島永くんは聞いていない。飲み干したビールの缶を投げ捨てて男の子をにらみつける。

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