176,陸斗くんがムカつくことと「外見以外の話」と夏祭りに行くこと
「何か僕たちにもできることがあればいいけど」
「とりあえず、晴臣くんは陸斗くんとマメに連絡を取り合うようにしたら?」
「え、仁さんは?」
「僕はいいよ」
「過去にああいうことがあったから?」
「それもある」
「また陸斗くんの気持ちが仁さんに向いたら困るから?」
「うーん、さすがにそれはないだろうけど、陸斗くんも気まずいんじゃないかと思って。それもあって、僕じゃなくて君に連絡したんじゃないかな」
「そうかもしれないけど、じゃあさ、僕と陸斗くんに関しては、仁さんは気にならないの?」
「あー、二人が『親密』になるんじゃないかって?」
「……うん」
彼がおかしそうに言った。
「そんなこと、あり得る?」
即答。
「あり得ない」
「だろ?」
確かに、僕は仁さんにベタ惚れだし、そうじゃなくても、僕と陸斗くんは、たとえ違うシチュエーションで出会ったとしても、お互いに恋愛感情を抱くことはないに違いない。
月曜日の夜、陸斗くんにメッセージを送った。
―― こんばんは。元気?
すぐに返信が来た。
―― こんばんは。日下部さんから連絡してくれるなんてうれしいです。
―― どうしてるかなあと思って。
―― 僕のこと、心配してくれてるんですか?
そうだと言うのもおかしい気がするけれど、その通りだからしょうがない。
―― まあね。
―― 電話にしてもいいですか?
―― もちろん。
すぐに電話がかかってきた。
「クラスでは、早くも僕たちが別れたことが知れわたってます」
「えっ、そうなの?」
「ていうか、この前、日下部さんに連絡した時点で、すでに知れわたっていたと思います。島永くん、けっこう大っぴらにイチャイチャするタイプだったから」
「そうなんだ……」
「それが急によそよそしくなったら、誰が見てもわかりますよね。今じゃもう、お互い目も合わせないですよ」
「なんだか気まずいね」
「それは別にいいですけど、なんか僕が振られたみたいな話になってるっぽいのがムカつくんですよね」
「そうなの?」
「やっぱり、僕が地味だからですかね。彼のほうが圧倒的に華があるし、イケメンだし」
「そんなことないよ。陸斗くんは、なんていうか清潔感があるし、知的な感じがするし、別に地味ってことは……」
陸斗くんが笑い声を上げた。
「ありがとうございます。一生懸命なぐさめてくれて」
「そ、そんなんじゃないよ。思っていることを言っただけ。
いじめに遭っていたときも、ちゃんと学校に行ってえらいなあと思ったし、話し方とかメッセージの文面とか、大人びていてきちんとしているなあっていつも感心しているし」
「なんか、外見以外の話になってますけど」
「あっ……」
「でも、ありがとうございます。すごくうれしいです」
「ああ、うん」
「あっ、ええと、今笹垣さんは?」
「ああ、オーブンの前でメレンゲクッキーが焼き上がるのを待っているけど。話す?」
「いえ、そうじゃなくて、僕が日下部さんを独り占めしちゃ申し訳ないと思って」
僕も笑ってしまった。
「何言ってるの」
「僕だって一応気を遣ってるんです」
「そうか、ありがとう」
「いろいろ失礼をしてしまった前科があるので」
「だからもう、気にしなくていいって」
「はい」
それから一言二言しゃべってから、おやすみを言い合って電話を切った。それ以降、陸斗くんからもメッセージをくれるようになって、僕たちは、ときどき連絡を取り合うようになった。
予想外にたくさん休業してしまったので、ニュアージュは夏休みを取らないまま営業を続けることにした。彼は二、三日休んでもかまわないと言ったのだけれど、僕がそうしてほしいとお願いしたのだ。
ただ、一駅先の神社一帯で夏祭りが開かれることを知ったので、二人で行くことにした。地元ではけっこう有名なお祭りで、参道脇にはたくさんの屋台が並び、お神輿が練り歩いたり、お神楽の奉納もあるらしい。




