175,寂しそうな顔の陸斗くんと憮然とする僕と彼の見解
まさか、そんなことになっていたとは。陸斗くんは、相変わらず淡々と話す。
「僕、お二人がそうだったみたいに、島永くんが運命の相手だったらいいなあと思っていたから、さすがにその日の夜は目がバンバンに腫れるくらい泣きましたけど」
「陸斗くん……」
僕の顔を見て、陸斗くんはかすかにほほえんだ。
「そんな顔しないでください」
「え?」
「そんな、泣きそうな顔」
「あっ、いや、とても他人事とは思えなくて」
陸斗くんが、はっとしたように言う。
「もしかして、僕が笹垣さんに告ったとき、泣きました?」
「いや、泣いてない泣いてない。ホント」
僕はあわてて両手と首を振る。嘘だ。本当は倒れて熱が出るくらい泣いたけれど。
「でも、高校生のとき、失恋して泣いて学校に行けなくなったって言ってましたよね」
「ああ、それはね。そいうこともあったよ」
「……ええと、話を戻しますけど」
「うん」
「やっぱり僕は、たくさんの人と遊びで付き合うより、たった一人だけの運命の人と真剣に付き合いたいと思ったんです。島永くんとは、お互い運命の人じゃなかったわけですから、別れて正解だったなって納得したっていうか」
「強いね、陸斗くんは」
「そんなことないですけど、そこまで考えて、ふと気づいたんですよ。そんなきれいごとを言っているわりに、僕も人の恋人を横取りしようとしたことがあったなあって」
「いや、そのことはもう」
あのとき陸斗くんは、とても辛い状況にいたのだ。きっと誰かにすがりたくて、その相手が仁さんだっただけで。
だが、陸斗くんは言う。
「だからバチが当たったんですね。日下部さんの恋人を取ろうとしたから、初めての恋人が日下部さんを好きになって……」
「違うよ。バチなんかじゃないし、島永くんとは、ただ猫の話で盛り上がっただけで」
「でも彼、一度日下部さんとやりたいって言っていましたよ」
「や、やり……なな、なんてことを!」
全身がカッと熱くなる。わなわなしている僕の横で、陸斗くんがため息をついた。
「結局、彼はそういう人だったんです。だからもう未練はないし、日下部さんに全部話して謝ろうって思ったんです」
未練はないと言いながら、とても寂しそうな顔をしている。そんなに簡単に割り切れるはずがないことは、僕にもよくわかる。
「あのときのことなら、もう謝ってもらったし、全然気にしていないよ。それより、そんな辛いことがあったなんて……。
僕にできることはある?」
陸斗くんが、ふっと笑った。
「日下部さんって、ホントに優しいですね」
「そんなことないよ」
「話を聞いてもらって、いろいろ優しい言葉をかけてもらってうれしかったし、なんかちょっとだけスッキリしました」
「あ……よかった」
「これからも、また話聞いてもらえますか?」
「もちろん」
「一日一度くらいは、スマホの着信チェックしてくださいね」
僕は憮然としながら答える。
「それはもうしてるよ」
その日の閉店後、お店の前で母と別れて歩き出してから、僕は陸斗くんと話した内容を彼に伝えた。
「そんなことがあったのか」
「やっぱり、猫の話で盛り上がったのはよくなかったかな」
「それはないよ。確かに僕も気になったし、陸斗くんも同じだったみたいだけど、それで島永くんの本質がわかるきっかけにもなったわけだし」
「そうかな……」
「陸斗くんのためにも、長く付き合ってから知るよりは、早めにわかってよかった気がする」
「そういうもの?」
「そうだよ。傷が深くなる前に別れて、陸斗くんも言ったように正解だったと思うよ」
「でも、これからずっと同じ教室で過ごすの、しんどいよね」
「そうだな」
僕は高校生のとき、相手が僕の気持ちを知らないにも関わらず、失恋後、用賀くんの存在を感じるだけで、とても辛かった。




